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1999年(平成11年)

平成9年門審第122号
    件名
漁船恵比須丸貨物船ルーハイ281衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、西山烝一、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:恵比須丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
恵比須丸…左舷側に転覆、のち沈没して全損、船長が腰部捻挫等
ル号…船首部に擦過傷

    原因
恵比須丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ル号…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、恵比須丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るルーハイ281の進路を避けなかったことによって発生したが、ルーハイ281が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月13日19時41分
福岡県小呂島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船恵比須丸 貨物船ルーハイ281
総トン数 9.7トン 875.00トン
全長 65.23メートル
登録長 13.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
恵比須丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年8月13日16時45分福岡県博多港を発し、長崎県壱岐北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、17時40分玄界島灯台から083度(真方位、以下同じ。)1.6海里に当たる、シタエ曽根灯浮標を右舷正横300メートルに見る地点で、針路を333度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、18時50分ごろ小呂島東方沖合を通過して航海灯を点灯し、操舵室中央の舵輪左後方50センチメートルにある木製長椅子の上に、自動車用の肘付き椅子を取付けて床から高さ約1メートルとなったところに腰掛け、操業中のいか釣り漁船を替わしながら航行し、19時31分小呂島港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から014度9.0海里の地点に達したとき、右舷船首55度1.9海里のところに、ルーハイ281(以下「ル号」という。)の白、白、紅3灯を視認できる状況であったものの、いか釣り漁船以外に接近する他船はいないものと思い、右舷船首方の見張りを十分に行わなかったので同船に気付かなかった。
19時35分半A受審人は、防波堤灯台から010度9.8海里の地点に至ったとき、右舷船首55度1.0海里のところに、ル号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが、前方のいか釣り漁船の明かりに気を取られ、依然、右舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず、大きく右転するなどして同船の進路を避けることなく続航した。
A受審人は19時41分少し前、前方のいか釣り漁船を早めに避けるためと、沖ノ島から12海里以上離れた目的の漁場に向かう針路とするために、自動操舵のまま針路設定用ダイヤルを左に20度ほど回して左舵をとったところ、19時41分防波堤灯台から008度10.5海里の地点において、恵比須丸は、船首が308度を向いたとき、原速力のまま、その右舷側後部に、ル号の船首が後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、ル号は、船尾船橋型の貨物船で、船長B及び一等航海士Cほか18人の中華人民共和国人が乗り組み、鋼材977トンを積載し、船首4.00メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、同月11日13時41分千葉県木更津港を発し、大韓民国仁川港に向かった。
越えて13日C一等航海士は、関門海峡を西行し、16時37分蓋井島灯台から219度3.7海里の地点に達したとき、昇橋して操舵手及び見張り員と3人で船橋当直に就き、自らは操舵室の中央の窓の後に立って操船と見張りに当たり、針路を268度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
19時31分C一等航海士は、防波堤灯台から016度10.8海里の地点に達したとき、左舷船首60度1.9海里に北上する恵比須丸の白、緑2灯を視認できる状況であったものの、操業中のいか釣り漁船の明かりに気を奪われ、左舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かなかった。
C一等航海士は、19時35分半防波堤灯台から012度10.6海里の地点に至ったとき、左舷船首60度1.0海里のところに、恵比須丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、いか釣り漁船の明かりに気を取られ、左舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近して衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、同時41分少し前左舷船首方60メートルに迫った恵比須丸を初めて視認し、衝突の危険を感じ、急いで右舵一杯にとり、機関を停止した効なく、19時41分ル号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、恵比須丸は左舷側に転覆し、船首を上にして浮いていたが、その後沈没して全損となり、ル号は、船首部に擦過傷を生じ、A受審人は海中に投げ出されて恵此須丸の船首につかまっていたところをル号に救助されたが、腰部捻挫等を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、福岡県小呂島北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の恵比須丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るル号の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のル号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で操舵と見張りに当たり、福岡県小呂島北方沖合を漁場に向けて北上する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、右舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いか釣り漁船以外に接近する他船はいないものと思い、前方のいか釣り漁船に気を取られ、右舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ル号に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、恵比須丸を転覆沈没させるとともに、ル号の船首部に擦過傷を生じさせ、自身も腰部捻挫等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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