日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年広審第63号
    件名
貨物船公龍丸貨物船第三栄福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、杉崎忠志、黒岩貢
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:公龍丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:公龍一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第三栄福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
公龍丸…右舷船首部に圧壊を伴う損傷
栄福丸…船首部に圧壊を伴う損傷

    原因
公龍丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
栄福丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、公龍丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三栄福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三栄福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月21日13時52分
岡山県水島港玉島区南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船公龍丸 貨物船第三栄福丸
総トン数 485トン 174トン
全長 77.00メートル 49.89メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 404キロワット
3 事実の経過
公龍丸は、主に瀬戸内海諸港問のコンテナ輸送に従事する可変ピッチプロペラを装備する船尾船橋型の貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、コンテナ39個を載せ、船首1.85メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成9年6月21日13時30分岡山県水島港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
同船の船橋当直体制は、単独の6時間2直制でB受審人が、毎0時から6時までの時間帯を、A受審人がその他の時間帯を受持つことになっていたが、同人は、当直時間の外にも港内操船、狭水道での操船、船舶が輻輳(ふくそう)する海域での操船等にも従事していた。
出港後、A受審人は、港内操船を終えて広い海域にでたところでB受審人に船橋当直を任せることとし、13時42分香川県手島山頂三角点(以下「手島三角点」という。)から006度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点に達し、岡山県下水島と並航したあたりで、針路を207度に定めて自動操舵とし、折からの東流により4度左方に圧流されながら203度の進路となって、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、船橋当直をB受審人に引き継ぐにあたり、周辺海域を見渡したところ支障となる他船は見当らなかったことから、針路、速力を告げ、同人が、平素、勤務態度もよく、技量も信頼することができたので格別の指示を与えなかった。
B受審人は、船橋当直を交代した後、支障となる他船は見当らなかったことから航海、積荷等の書類整理作業にとりかかることとし、船橋内の左舷側後端に設けられた海図机に船尾方に向かって立った姿勢のまま同作業を開始した。
B受審人は、時々振り返っては船首方の状況に気を配りながら続航中、13時47分手島三角点から002度3.0海里の地点に達したとき、右舷船首28度1.4海里のところに前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢となって接近する第三栄福丸(以下栄福丸」という。)を視認し得る状況となったが、書類整理作業に専念し、見張りを十分に行うことなく進行して、この状況に気付かなかった。
13時48分半B受審人は、栄福丸と同一方位のまま1,800メートルに接近したが、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、13時52分、公龍丸は突然、衝撃を受け、手島三角点から351度2.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首が栄福丸の船首に前方から73度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、付近海域には1.0ノットの東流があった。
B受審人は、衝突後、直ちに翼角を中立とし、引続き後進とし、衝突の衝撃により昇橋したA受審人と共に事後の措置にあたった。
また、栄福丸は、広島県福山港から阪神諸港への鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、C受審人ほか2人が乗り組み、鋼材350トンを載せ船首2.5メートル船尾2.7メートルの喫水をもって同日12時20分福山港を発し、大阪港に向かった。
C受審人は、発航後、港内操船を終えたところで息子の機関員に操船を行わせ、その後、黒土瀬戸を経由して東行することとし、12時55分岡山県神島西端の御埼南南東約0.5海里の、同瀬戸西口に差し掛かったとき、同機関員から船橋当直を引き継ぎ単独で操舵操船に従事した。
13時05分C受審人は、手島三角点から288度8.0海里の地点に達し、黒土瀬戸東口を経て広い海域にでたとき、針路を093度に定めて自動操舵とし、機関を8.0ノットの全速力前進にかけて折からの東流に乗じ9.0ノットの対地速力となって進行した。
C受審人は、その後、船端前方のほぼ中央部に置かれたいすに腰かけた姿勢となって船橋当直に従事中、13時47分手島三角点から335度2.5海里の地点に達したとき、正船首よりわずか左方約1,000メートルのところに流し網を行って南下する模様の第三船を認め、これを警戒て同船の船首方を替わそうと針路を10度右転して103度に転じたが、このとき、左舷船首45度1.4海里のところに前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢となって接近する公龍丸を視認し得る状況となったが、前路の第三船の動静にのみ気を奪われ、左舷方の見張りを十分に行うことなく続航して、この状況に気付かなかった。
C受審人は、その後も見張り不十分で、ほとんど方位の変化なく接近する公龍丸に気付かず、13時50分少し過ぎ第三船を替わし終えたころ原針路に復し、このとき公龍丸が930メートルに接近していたが、警告信号を行わず、その後、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行中、13時52分少し前ふと左舷方を見たとき、至近に迫った公龍丸を初めて視認し、あわてて右舵をとり、機関を後進にかけたが及ばず、栄福丸は、船首が100度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、公龍丸は右舷船首部に、栄福丸は、船首部にそれぞれ圧壊を伴う損傷を生じたがいずれものち修理された。

(原因)
本件衝突は、水島港を発し、手島西方海域に向け南下する公龍丸が、見張り不十分で、東行して前路を左方に横切る栄福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、手島西方海域に向け南下する場合、右舷方から東行する栄福丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、船橋内左舷後方に設けられた海図机に後方を向いて書類整理作業に専念して、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する栄福丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、公龍丸の右舷船首に圧壊を伴う損傷を、栄福丸の船首に圧壊を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、手島北方海域を東行する場合、左舷方から南下する公龍丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路を南下して操業中の第三船の動静のみに気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、公龍丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION