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1999年(平成11年)

平成10年広審第92号
    件名
漁船勝繁丸漁船三吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、杉崎忠志、中谷啓二
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:勝繁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:三吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
勝繁丸…左舷船首部を損傷
三吉丸…左舷船首部を損傷、甲板員1人が腰部等に12日間の入院加療を要する打撲傷

    原因
勝繁丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
三吉丸…動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、勝繁丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る三吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、三吉丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月24日07時20分
徳山下松港
2 船舶の要目
船種船名 漁船勝繁丸 漁船三吉丸
総トン数 4.96トン 3.93トン
全長 11.55メートル
登録長 10.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
勝繁丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年10月23日04時30分ごろ山口県野島の係留地を発し、同島から同県祝島にかけての海域で操業したのち、翌24日早朝いったん係留地に寄港して甲板員を乗せ、その後徳山下松港内下松市西豊井の魚市場で水揚げし、06時40分同市場を発進して帰途に就いた。
A受審人は、甲板員に前部甲板で魚干しの準備作業を行わせて自らは操舵室内で手動操舵に当たり、笠戸湾を南下して大島半島南東端に沿って西進し、07時09分半八合山230メートル頂(以下「八合山頂」という。)から138度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達し、下松西口灯浮標を右舷側50メートルに並航したとき、針路を野島北方の平島と沖島との間に向首する263度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進より少し減じ、7.0ノットの対地速力で進行した。
07時15分A受審人は、右舷船首遠方に前路を左方に横切る三吉丸を認めたが、その船首の波切り模様をいちべつしただけで、同船が高速力の遊漁船で自船の前路を無難に航過するものと判断し、三吉丸から目を離して船首目標を見ながら続航したところ、同時17分八合山頂から188度1,700メートルの地点に達したとき、同船が右舷船首25度1,600メートルに近づき、その後方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、その進路を避けないまま進行した。
07時19分A受審人は、三吉丸が同方位500メートルに接近していることに気付かないまま次の出漁に備えて燃料油点検のため機関室に入り、07時20分点検を終えて機関室から出たと同時に、勝繁丸は、八合山頂から206度1.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、三吉丸の左舷船首部に前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
また、三吉丸は、延縄漁業に従事する汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、前日仕掛けた建網の揚網のため、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同月24日06時50分徳山下松港内櫛ケ浜の係留地を発し、同港内下コーズ瀬付近の漁場に向かった。
B受審人は、徳山湾を南下して大島半島南西端の粭島(すくもしま)沿いに南東進し、07時14分少し前八合山頂から256度1.5海里の地点に達し、三ツ石鼻を50メートルに並航したとき、針路を下コーズ瀬の岩礁付近に向く123度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力とし、遠隔操縦装置による手動操舵で進行した。
07時15分少し過ぎB受審人は、左舷船首遠方に前路を右方に横切る勝繁丸を認めたが、船尾甲板に装備されたやぐらをいちべつしただけで同船が速力の遅い底引き網漁船で、その前路を無難に航過できるものと判断し、同船から目を離して船首目標の下コーズ瀬を見ながら続航した。
07時17分B受審人は、八合山頂から234度1.2海里の地点に達したとき、勝繁丸が左舷船首16度1,600メートルに近づき、その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、まもなく操舵室から後部甲板に移り、右舷方を向いて揚網作業のための着替えを始めた。
07時19分B受審人は、同じ体勢のまま着替えをしていたため、同方位500メートルに接近した勝繁丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時20分わずか前ふと同船が気になって前方を見たとたん、三吉丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、勝繁丸及び三吉丸は、左舷船首部をそれぞれ損傷したが、のちいずれも修理された。また、三吉丸甲板員Cが腰部等に12日間の入院加療を要する打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、徳山下松港内大島半島沖合において、両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、勝繁丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る三吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、三吉丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、徳山下松港内大島半島沖合を航行中、前路を左方に横切る態勢の三吉丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで同船の速力が速く、自船の前路を無難に航過するものと思い、動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、三吉丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないで同船との衝突を招き、自船及び三吉丸の左舷船首部にそれぞれ損傷を生じさせ、C甲板員の腰部等に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、徳山下松港内大島半島沖合を航行中、前路を右方に横切る勝繁丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで同船の速力が遅く、その前路を無難に航過できるものと思い、動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、勝繁丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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