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1999年(平成11年)

平成10長審第86号
    件名
漁船住好丸プレジャーボートうしお衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:住好丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:うしお船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
住好丸…損傷なし
うしお…左舷中央部外板を大破、のち沈没

    原因
住好丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、住好丸が、見張り不十分で、錨泊中のうしおを避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月13日12時00分
佐世保港西方沖合黒島南側海域
2 船舶の要目
船種船名 漁船住好丸 プレジャーボートうしお
総トン数 4.98トン
登録長 10.50メートル 6.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 90
出力 58キロワット
3 事実の経過
住好丸は、刺網漁業に従事し、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成9年11月13日11時45分長崎県佐世保市黒島漁港(白馬地区)を発し、黒島小埼鼻付近の漁場に向かった。
ところで、黒島周辺は、小型漁船が刺網漁を行ったり、プレジャーボートが魚釣りなどを行ったりするのに適した場所で、祝祭日や休日にはプレジャーボートが同島周辺で多数錨泊して釣りを行っていたが、平日にはそれほど多くなかった。
発航後A受審人は、周囲の見通しが利く操縦席に腰掛けて手動操舵に当たり、機関回転数を毎分1,450として8.5ノットの速力で、黒島の西端を反時計回りに付け回して進行し、11時55分同島番岳128メートル頂三角点(以下「番岳頂」という。)から258度(真方位、以下同じ。)1,780メートルの地点に達したとき、同島南岸沿いには、他の漁船が仕掛けた刺網の存在を示すボール状の発泡スチロールを網で包んだ標識が多数多数点在していたので、これらを左舷側に見て航行できるよう、針路を108度に定めて左舷斜め前方から同正横辺りにかけての海面を監視しながら続航した。
11時58分A受審人は、船首前方500メートルのところに、北右に船首を向けて錨泊中のうしおを認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近する状況となったが、平日であるうえ、波浪注意報と海上風警報が発せられていたので、プレジャーボートが釣りをしていることはないだろうから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま進行し、同時59分ごろ左舷側50メートばかりを航過した帰航中の同業船に気付き、同船の船長と手を上げて挨拶を交わしたのちも左舷側の海面のみの監視をしていたので、依然、うしおの存在に気付かないまま続航した。
こうして住好丸は、うしおを避けずに進行中、12時00分番岳頂から214度970メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、うしおの左舷中央部外板に、前方から72度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で、黒島周辺では風力5の北東風が吹いていたものの、同島南側陸岸沿いではほとんど風もなく海面も穏やかで、視界は良好であった。
また、うしおは、船体中央部右舷側に操縦席を設けた全長が7メートルを超えるFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人と娘婿の2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾とも0.20メートルの喫水をもって、同日09時ごろ佐世保市浅子漁港を発し、同漁港から南西方5海里ばかりの高島南端牛ケ首灯台近くの釣り場に向かった。
09時20分B受審人は、釣り場に至って錨泊し、釣りを始めたもののその後北寄りの風が強くなり、釣果も期待できなかったので、10時00分同釣り場を発進して風が島で遮られる黒島南側水域に向かい、同時30分前示衝突地点に至って投錨し、錨索30メートルばかりを船首端から延出し、操縦席左舷側上方に球形の黒色形象物1個を掲げて再び釣りを始めた。
11時58分B受審人は、昼食をとったのち船首を000度に向けた状態で錨泊したまま、他の2人と輪になって船庫中央部で雑談していたとき、左舷正横500メートルのところに自船に向首する態勢の住好丸を初めて認め、その後同船が避けてくれるものと思いながら同船の動向を監視中、同時59分半少し過ぎ同船に避航の様子がないことから、他の2人とともに船尾端付近に立ち、皆で手を振りながら大声で注意を促したものの、同船が自船に向首したまま迫るので、3人が海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住好丸は、ほとんと損傷がなかったものの、うしおは、左舷中央部外板を大破し、住好丸により浅子漁港に曳航されたのち、同漁港内で沈没し、その後A受審人に買い取られて修理後売却された。

(原因)
本件衝突は、佐世保港西方沖合黒島南側の陸岸沿いの海域において、漁場に向けて航行中の住好丸が、見張り不十分で、錨泊中のうしおを避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、プレジャーボートなどが錨泊して魚釣りを行うことがある黒島南側の陸岸沿いの海域を漁場に向けて東行する場合、前路の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、平日であるうえ波浪注意報などが発せられていたので、プレジャーボートが釣りをしていることもないだろうから、前路に他船はいないものと思い、左舷側に点在する刺網の存在を示す標識を監視していて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のうしおを避けないまま進行して衝突を招き、うしおの左舷中央部外板を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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