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1999年(平成11年)

平成11年神審第29号
    件名
漁船第二長久丸漁船明石丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、米原健一、西田克史
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第二長久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:明石丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
長久丸…船首部に凹損
明石丸…操舵室及び左舷中央外板に破口

    原因
長久丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
明石丸…見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二長久丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している明石丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明石丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月23日10時10分
明石海峡
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二長久丸 漁船明石丸
総トン数 9.1トン 4.9トン
登録長 14.95メートル 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35 15
3 事実の経過
第二長久丸(以下「長久丸」という。)は、二そう船びき網漁船団に所属するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年11月23日05時50分僚船2隻とともに、兵庫県岩屋港からちりめん二そう船びき網漁に出漁した。
A受審人は、魚群探知機を作動させ、魚影を探知し次第操業を開始する予定で大阪湾を東行し、07時15分関西国際空港の北方沖合に至ったが、魚影がなく、その後北上したのち、大阪港西方海域を経て神戸港沖合に向けて西行した。
09時45分A受審人は、神戸灯台から177度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき、針路を明石海峡航路東口に向かう261度に定めたところ、北西寄りの波浪を右舷前方から受けるようになり、魚群探知機の精度が低下しないよう機関を全速時の回転数よりも少し下げ、12.6ノットの対地速力で自動操舵により進行した。その後、A受審人は、魚群探知機が操舵室左舷側の前窓より低い位置に設置されているので、低いいすに腰をかけた姿勢で魚群探知機を監視することができるものの、同室前壁により前方の見通しが妨げられることから、時折立ち上がって前方見張りを行っていたが、当日は祝日で周囲に砂利運搬船などの船舶が少なかったので、しばらくは前方を見なくても大丈夫と思い、同いすに腰をかけて魚群探知機の監視を続けていた。
10時05分A受審人は、平磯灯標から141度2.0海里の地点で、右舷船首14度1.1海里に明石丸を視認できる状況であったが、腰をかけたままで魚群探知機の監視に専念し、立ち上がるなどして前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、明石海峡に近づくにつれて強まった潮流を左舷やや後方から受け、11度右方に圧流されながら、13.5ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、10時08分明石丸の方位が変わらないまま840メートルに接近したとき、同船の掲げる漁ろうに従事していることを示す形象物を視認でき、その後衝突のおそれがある状況となったが依然魚群探知機の監視に夢中となっていてこれに気付かず、その進路を避けることなく進行中、同時10分少し前ふと立ち上がり、船首方至近に同船を初めて認めたものの、何をする間もなく、10時10分平磯灯標から181度1.7海里の地点において、長久丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、明石丸の左舷中央部に前方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、衝突地点付近には2.7ノットの北北西流があった。
また、明石丸は、小型底びき網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たこ底びき網漁の目的で、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日00時00分兵庫県明石港内港泊地を発し、明石海峡東口付近の漁場に向かった。
B受審人が行うたこ底びき網漁は、縦0.8メートル横15メートルの鉄製の桁に取り付けた長さ30メートルの底びき網を、船尾から延出した長さ250メートルのワイヤロープで曳くものであるが、船首を常時潮流にたて、対地速力が1ノット弱になるようGPSプロッターの表示速力を見ながら流速に合わせて機関回転数を調整して行うものであった。
B受審人は、00時30分漁場に至り、船尾甲板上の曳網用やぐらの頂部付近で水面上高さ4メートルのところに、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げて操業を始め、その後流向、流速の変化に合わせて針路及び機関の回転数を適宜変えながら操業を繰り返し、09時40分平磯灯標から189度1.4海里の地点で、折からの北北西流に対して手動操舵により針路を159度に定め、0.8ノットの対地速力で、5回目の曳網を始めた。
そして、B受審人は、10時08分平磯灯標から182度1.7海里の地点に至ったとき、左舷船首64度840メートルのところに長久丸を視認でき、その後その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で近づいたが、操舵室前部に装備されたGPSプロッターの表示速力を見ながら機関の操縦ハンドルを操作することに気を奪われ、左舷方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく、原針路、原速力で曳網中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長久丸は船首部に凹損を生じ、明石丸は操舵室及び左舷中央外板に破口を生じ2隻の漁船によって岩屋港に引き付けられ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、明石海峡航路東方において、長久丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している明石丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明石丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、明石海峡航路東方において、魚群探知機により魚影を探索しながら西行する場合、低いいすに腰をかけたままの状態で魚群探知機の監視に当たると操舵室前壁により前方の見通しが妨げられるから、前路で漁ろうに従事している明石丸を見落とすことがないよう、立ち上がるなどして前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、当日は祝日で船舶が少なく、しばらくは前方を見なくても大丈夫と思い、魚群探知機による魚影の探索に専念し、立ち上がるなどして前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している明石丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、明石丸の操舵室及び左舷中央部外板のそれぞれに破口を生じさせ、長久丸の船首部に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、明石海峡航路東方において、たこ底びき網を低速で曳網中、潮流の変化に合わせて対地速力を調整する場合、前路を右方に横切る態勢で近づく長久丸を見落とすことがないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、GPSプロッターの表示速力を見ながら機関の操縦ハンドルを操作することに気を奪われ、左舷方の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、右方に横切る態勢で近づく長久丸に気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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