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1999年(平成11年)

平成10年門審第28号
    件名
貨物船第八宝栄丸作業船てんぱく衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、畑中美秀、西山烝一
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第八宝栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:てんぱく船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
宝栄丸…左舷中央部外板に擦過傷及び右舷船首部外板に破口
てんぱく…船首部を圧壊

    原因
てんぱく…居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件衝突は、てんぱくが、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の第八宝栄丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月4日12時30分
山口県宇部港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八宝栄丸 作業船てんぱく
総トン数 498トン 93.9トン
全長 73.01メートル 23.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 412キロワット
3 事実の経過
第八宝栄丸(以下「宝栄丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.85メートル船尾3.45メートルの喫水をもって、平成9年11月3日19時30分福岡県苅田港を発し、山口県宇部港に向かった。
A受審人は、21時00分宇部港に入航し、翌日までの積荷待ちのため、本山灯標から297度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、左舷錨を投入し、錨鎖3節を延出して錨泊した。
A受審人は、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げ、乗組員を休患させていたところ、翌4日12時30分前示錨泊地点において、宝栄丸は、船首を250度に向けていたその左舷中央部に、てんぱくの左舷船首部が前方から5度の角度で衝突して擦過した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、自室で休息中、衝突の衝撃を感じ、左舷側のボートデッキに出ててんぱくとの衝突を認め、擦過傷だけなのでそのまま自室に戻って間もなく、12時40分再度衝突の衝撃を感じ、昇橋したところ、自船の右舷船首部に、左回頭してきたてんぱくの船首が前方から30度の角度で衝突したことを知り、直ちに事後の措置に当たった。
また、てんぱくは、2基2軸及び1枚舵を備え、主に曳航作業に従事する引船兼作業船で、B受審人が機関長と2人で乗り組み、回航の目的で、船首2.1メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同月4日09時00分関門港若松区を発し、広島県広島港に向かった。
B受審人は、出港時から1人で操舵と見張りに当たり、関門海峡を通過して、12時01分小野田港防波堤灯台から214度3.1海里の地点に達したとき、針路を本山灯標に向く117度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したころ、B受審人は、正船首わずか左方4.2海里のところに宝栄丸を初認し、12時17分本山岬を左舷正横に見て航過したとき、同船との距離が1.8海里になって同船が錨泊していることを認め、そのまま進行すれば同船の船首を左舷方に無難に替わせると思い、その後、海上が平穏で暖かかったことや昼食時に飲んだコップ一杯の焼酎の酔いもあって気が緩み、眠気を催すようになったが、停泊船や航行船で輻輳している港内を通航することから、まさか居眠りすることはないと思い、いすから立ち上がって身体を動かして眠気を払拭したり、機関長を呼んで見脹りの補助に就けるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、1人でいすに腰掛けたままでいるうち、12時26分半宇部港本山第1号灯標を左舷正横に航過したころ、右手で舵輪を持ったまま居眠りに陥った。
こうして、B受審人は、宝栄丸の船首を左舷方に無難に航過する態勢であったが、12時29分少し過ぎ同船と230メートルに近づいたころ、無意識のうちに小角度の左舵が取られ、船首が緩やかに左転しながら宝栄丸に向かって接近するようになったものの、居眠りしていてこのことに気付かず続航中、てんぱくは、船首が065度を向いて原速力のまま、前示のとおり衝突して擦過した。
B受審人は、衝突したことにも、その後船首が左回頭を続けていることにも気付かず、ほぼ1回転して船首が100度を向いて宝栄丸と再度衝突したとき目が覚め、損傷の程度がたいしたことがないと思ってそのまま航行を続けていたところ、巡視艇に追跡されて停船し、事後の措置にあたった。
衝突の結果、宝栄丸の左舷中央部外板に擦過傷及び右舷船首部外板に破口を生じ、てんぱくの船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、てんぱくが、山口県宇部港内を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の宝栄丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、単独で操舵と見張りに当たり、山口県宇部港内を東行中、眠気を催した場合、停泊船や航行船で輻輳する港域であったから、いすから立ち上がって身体を動かして眠気を払拭したり、機関長を呼んで見張りの補助に就けるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはないと思い、1人でいすに腰掛けたまま、いすから立ち上がって体を動かして眠気を払拭したり、機関長を呼んで見張りの補助に就けるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航に陥り、左転しながら錨泊中の宝栄丸に向かっていることに気付かないまま進行して同船との衝突を招き、更に、左回頭を続けて再度同船と衝突し、宝栄丸の左舷中央部外板に擦過傷及び右舷船首部外板に破口を生じさせ、てんぱくの船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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