|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月15日07時20分 千葉県木更津港内 2 船舶の要目 船種船名 押船第五鐵運丸
台船エフビー-5 総トン数 254.97トン 全長 29.50メートル 75.80メートル 幅
8.50メートル 19.50メートル 深さ 3.90メートル
3.80メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 3 事実の経過 第五鐵運丸は、2基2軸のコルトノズルラダーを装備した鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉で海水バラストを全量排水して、船首1.30メートル船尾0.90メートルの軽喫水状態となった、バウスラスタを装備した鋼製台船エフビー−5(以下「台船」という。)の船尾凹部に船首部を結合(以下「鐵運丸押船列」という。)して、台船の船首端から第五鐵運丸の船尾端までの長さを96メートルとしてこれを押し、港内移動する目的で、船首2.65メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、平成10年1月15日06時30分木更津港新日本製鐵株式会社君津製鐵所東岸壁を発し、同港富津泊地内の富津公共ふ頭C岸壁に向かった。 ところで、富津泊地は、木更津港の南西側に位置し、千葉県富津市の東京電力株式会社富津火力発電所の南側に隣接する、富津東・西両防波堤と陸岸とによって囲まれた、東西約1,800メートル、南北約900メートルの泊地で、同泊地の北側に当たる両防波堤間の開口部約400メートルが同泊地への出入口(以下「北口」という。)となって富津航路に通じていた。また、同泊地の南側には、岸壁の長さが620メートルで、同岸壁の方位線が238度(真方位、以下同じ。)の富津公共ふ頭があり、同ふ頭の西側から順にAからFまでの6岸壁があって、同ふ頭西端から180メートル及び同270メートルの両地点間がC岸壁となっていた。このため、北口から同泊地に進入してC岸壁に左舷着けするには、同岸壁の前面でほほ直角に右回頭する必要があった。 A受審人は、15日早朝、テレビで気象情報を入手して天候が悪化することを知り、発航前に風向・風速計及び自記気圧計により、北寄りの風が毎秒10メートル前後吹いており、気圧も下降していることを確認したうえで発航し、自ら手動操舵に就いて単独で操船に当たり、機関を毎分220回転の全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で、適宜の針路として木更津航路を西行し、木更津港第8号灯浮標と同第10号灯浮標との間から同航路を出航して富津航路に向け、右舷後方から北北東の強風を受けながら進行した。 07時05分少し前A受審人は、木更津港富津西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から349度2,220メートルの地点において、木更津港富津第7号仮設灯浮標と同第9号灯浮標との間から富津航路に入航し、大きく左転して同航路を南下したのち、同時07分半、西防波堤灯台から343度1,520メートルの地点に達して、同航路を出航したところで、針路を156度に定め、甲板員2人を台船の船首部に配置して着岸準備に当たらせ、強風を左舷後方から受けながら、北口のほぼ中央部に向けて続航した。 07時13分A受審人は、西防波堤灯台から090度200メートルの地点において、北口を航過して富津泊地に入り、C岸壁をほぼ正船首900メートルに見るようになったところで、機関を極微速力前進として減速を始め、このころ北北東風が一層強まって、時折毎秒15ないし17メートルにも達する突風が吹くようになり、同泊地内でも波高が約1メートルに達し、C岸壁上に波しぶきが打ち上げているのを認めたが、C岸壁の前面でほぼ直角に右回頭し、左舷着けするつもりで進行した。 07時16分半A受審人は、西防波堤灯台から140度720メートルの地点に達して、C岸壁までの距離が250メートルとなったとき、機関を停止し、右舵15度をとって約5ノットとなった前進惰力で右回頭を始めたところ、左舷後方からの風圧を受けてかなり前進惰力が強い状況であったものの、一旦機関を後進にかけて前進惰力を減じておけば向岸風であるので着岸には支障ないと思い、前進惰力を十分に減じるなと風圧流に対する配慮を十分に行うことなく右回頭を続け、同時17分少し過ぎ、一旦舵を中央に戻して半速力後進にかけ、前進惰力を少し減じたものの、間もなく機関を停止、続いて右舵一杯とし、このまま右回頭を続けて着岸態勢に入ると、北北東風を船尾ないし右舷後方から受けるようになり、台船の乾舷が高く風圧の影響を受けやすく、船首喫水が残いためバウスラスタによる十分な回頭力が得られなし状況のもと、前進惰力を十分に減じないまま続航した。 A受審人は、やがて右回頭が進むにつれて船尾方向から強風を受けるようになったことにより、その風圧流によって前進惰力が減衰していないことに気付かず、鐵運丸押船列が岸壁線に対して平行となるよう、同押船列の姿勢を制御することに気をとられて右回頭を続けるうち、07時18分半、C岸壁までの距離が60メートルとなったとき、岸壁線に対して約40度の角度をもって接近していたので、更にバウスラスタを右回頭一杯としたが、依然として機関を後進にかけて前進惰力を十分に減じないまま右回頭を続けた。 こうして、A受審人は、07時19分右回頭の効果が十分に現れないまま、C岸壁まで30メートルに迫って、ようやく前進惰力が強いことに気付いて衝突の危険を感じ、急いで右舷舵を左舵一杯及び左舷舵を右舵一杯とし、右舷機を全速力後進及び左舷機を全速力前進にかけたが及ばず、同時20分西防波堤灯台から149度920メートルの地点において、右回頭中の鐵運丸押船列の左舷船首部が、わずかとなった前進惰力で、C岸壁に小角度をもって衝突し、次いでその反動で同船尾部が衝突した。 当時、天候はみぞれで風力6の突風を伴う北北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 衝突の結果、台船の左舷船首部及び同船尾部に凹損を、岸壁に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件岸壁衝突は、木更津港において、突風を伴う強風が吹く状況下、船尾方向から強風を受けながら空船状態の台船を押して着岸する際、風圧流に対する配慮が不十分で、前進惰力を十分に減じないまま岸壁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、木更津港において、突風を伴う強風が吹く状況下、船尾方向から強風を受けながら空船状態の台船を押して着岸する場合、船尾方向からの風圧の影響を大きく受ける状況であったから、風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一旦機関を後進にかけて前進惰力を減じておけば向岸風であるので着岸には支障ないと思い、着岸態勢をとるため同押船列の姿勢を制御することに気をとられ、前進惰力を十分に減じるなど風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、一旦機関を後進にかけて前進惰力を少し減じたものの、その後右回頭を続けるうち船尾方向から強風を受けるようになり、その風圧流によって前進惰力が減衰していないことに気付かず、機関を後進にかけて前進惰力を十分に減じないまま進行して岸壁との衝突を招き、台船の左舷船首部及び同船尾部に凹損を生じ、岸壁に損傷を生じさせるに至った。 |