|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月29日14時30分 周防灘東部 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第十八神力丸
漁船公洋丸 総トン数 1,598トン 4.8トン 全長 94.75メートル 登録長
11.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 第十八神力丸(以下「神力丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾5.4メートルの喫水をもって、平成10年1月29日11時30分山口県久賀港を発し、長崎県壱岐島南方沖の砂採取場に向かった。 同日13時ごろA受審人は、平郡水道を西進中、1人で船橋当直に就き、14時19分半姫島灯台から080度(真方位、以下同じ。)6.2海里の伊予灘航路第1号灯浮標北方0.1海里の地点に達したとき、針路をほぼ海図記載の推薦航路に沿う280度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行し、そのころ右舷前方約3海里に公洋丸と、その左舷側を併走する僚船2隻を初めて視認した。 14時23分半A受審人は、公洋丸が2海里の距離になったとき、僚船ともども前路を左方に横切る態勢で接近するのを認め、これら3隻が小型漁船でもあり、さらに近づく前に針路変更を促そうと汽笛により短音数回を吹鳴したところ、まもなく公洋丸を除く2隻は左転して無難に航過することが明らかになった。 14時25分A受審人は、姫島灯台から076度5.2海里の地点に達したとき、公洋丸が右舷船首20度1.5海里に近づき、その後方位に変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、舵を手動操舵に切り換えたものの、右転すると僚船2隻に接近することになり、左転すると推薦航路の南側に出るなどと気にかけ、避航動作をとることをちゅうちょし、機関を使用することに思い至らず、速やかに減速するなどして同船の進路を避げず、そのうち僚船のように公洋丸が針路を変更することを期待して続航した。 14時29分半A受審人は、公洋丸が約300メートルの距離に迫り、なおその針路に変更が見られないことから、ようやく危険を感じ、同船の進路を避けようと左舵15度をとり左転を始めたが及ばず、14時30分神力丸は、姫島灯台から071度4.3海里の地点において、250度に向首したとき、同船の右舷後部に公洋丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、公洋丸は、小型機船底引網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日12時15分山口県防府市向島漁港を発し、僚船2隻と共に伊予灘西部の漁場に向かった。 13時30分B受審人は、周防野島灯台から179度3.6海里の地点に達したとき、針路を150度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で、左舷正横100メートルばかりのところを併走する僚船2隻と共に進行し、そのころ、操業で使用する漁網の修繕をするため操舵室から同室後方の甲板に出て、前方を向いて甲板に座り、漁網の修繕にとりかかった。 B受審人は、その姿勢のままでは、操舵室に妨げられ前方の見張りが十分に行えなかったので、時折立ち上がって見張りを行っていたものの、14時ごろ周囲を見渡したとき、支障となる他船もいなかったので大丈夫と思い、その後は座ったままの姿勢で漁網の修繕を続けていた。 14時25分B受審人は、姫島灯台から062度4.2海里の地点に達したとき、左舷船首30度1.5海里に、前路を右方に横切る神力丸を視認できる状況で、その後同船が衝突のおそれのある態勢で避航動作をとることなく接近していたが、漁網の修繕に専念して前方の見張りを行っていなかったのでこのことに気付かず、警告信号を行わず、さらに間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、公洋丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、神力丸は右舷後部外板に軽微なペイント剥離を生じただけであったが、公洋丸は船首部外板及び防弦材を破損し、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、周防灘東部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、神力丸が、前路を左方に横切る公洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、公洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、周防灘東部を西行中、公洋丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを知った場合、速やかに速力を減じるなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、速やかに速力を減じるなどして公洋丸の進路を避けなかった職務上の過失により衝突を招き、同船の船首部外板及び防舷材を破損し、神力丸の右舷部外板に軽微なペイント剥離を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、周防灘東部を漁場に向け南下する場合、前路を右方に横切る神力丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を見渡したとき、支障となる他船もいなかったので大丈夫と思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、神力丸に気付かず、衝突のおそれのある態勢のまま接近する同船に対し警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|