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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月16日09時45分 長崎県壱岐郡大島東岸沖合 2 船舶の要目 船種船名 作業船大豊丸
漁船数漁丸 総トン数 6.6トン 28トン 全長 11.80メートル 9.10メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
44キロワット 80キロワット 3 事実の経過 大豊丸は、港湾土木作業に従事する鋼製作業船で、長崎県壱岐郡大島東岸にある雷埼南側の海水浴場造成作業に使用するしゅんせつ船などを引く作業に従事していたところ、A受審人が1人で乗り組み、しゅんせつ船を僚船と共に引き、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年3月16日08時20分同県郷ノ浦港を発し、同海水浴場造成作業地沖合に向かい、09時00分ごろ目的地に至ってしゅんせつ船を錨泊させたのち、引き続いてバージを引く作業に就くために漂泊待機することとなった。 A受審人は、09時40分壱岐大島港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から059.5度(真方位、以下同じ。)710メートルの地点に至り、船首を225度に向け、主機を回転数毎分600の中立運転として漂泊し、船橋を出て右舷船尾甲板に赴き、引き索の整理を始めた。 A受審人は、09時43分左舷船首9度740メートルのところに数漁丸を視認できる状況であったが、引き索の整理に気を取られ、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま漂泊を続けた。 A受審人は、その後数漁丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近し、09時44分同船が避航動作を取らないまま370メートルに近づいたけれども、依然見張り不十分で、これに気付かず、装備している音響信号装置を使用して注意喚起信号を行うことも、更に接近するに及んで機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊中、09時45分前示漂泊地点において、大豊丸は、225度を向いたまま、その左舷船首に、数漁丸の左舷船首が前方から9度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。 また、数漁丸は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あわびを素潜りで採取する目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日09時35分長崎県大島(壱岐)漁港長島地区を発し、同県壱岐島阿母鼻沖合付近の漁場に向かった。 ところで、数漁丸は、10.0ノットを超える速力で進行すると、船首が浮き上がり、操舵室中央部少し右舷側の操舵位置において操舵に当たると、右舷船首7度から左舷船首12度にわたって死角を生じ、船首方向の見通しが悪い状況にあった。 B受審人は、09時42分半少し過ぎ東防波堤灯台から163度350メートルの地点で、針路を036度に定め、機関を全速力前進にかけ、120ノットの対地速力で進行し、同時43分同灯台から144度290メートルの地点に達したとき、正船首方向740メートルのところに漂泊中の大豊丸を視認し得る状況であったが、衝突地点付近の海域は平素漁船が操業するようなところではないところから、前方に他船はいないものと思い、船首を振るなどの死角を補う見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま続航した。 B受審人は、その後大豊丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、同船を避けることなく、進行中、数漁丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大豊丸は左舷船首に凹損を生じ、数漁丸は左舷船首上部が大破したが、のち修理された。また、B受審人は、37日間の入院加療を要する肋骨々折及び外傷性血気胸を負った。
(原因) 本件衝突は、長崎県壱岐郡大島東岸沖合において、北上中の数漁丸が、見張り不十分で、漂泊中の大豊丸を避けなかったことによって発生したが、大豊丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、長崎県壱岐郡大島東岸沖合を北上する場合、船首方向の見通しが悪い状況にあったから、前路で漂泊している他船を見落とさないよう、船首を振るなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、衝突地点付近の海域は平素漁船が操業するようなところではないところから、前方に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の大豊丸の存在と接近に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、大豊丸の左舷船首に凹損を生じさせ、数漁丸の左舷船首上部を大破させ、自らも肋骨々折及び外傷性血気胸を負うに至った。 A受審人は、長崎県壱岐郡大島東岸沖合において、漂泊して引き索の整理を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、引き索の整理に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する数漁丸に気付かないで、注意喚起信号を行わず、更に接近するに及んでも機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
参考図
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