|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月21日15時52分 北海道釧路港南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船太成丸
漁船第58豊漁丸 総トン数 1,846トン
14.87トン 全長 87.52メートル 登録長 15.47メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,618キロワット 漁船法馬力数 160 3 事実の経過 太成丸は、主として北海道釧路港から苫小牧港に石炭を輸送している船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人がB指定海難関係人ほか8人と乗り組み、石炭3,000トンを載せ、船首491メートル船尾6.02メートルの喫水をもって、平成10年9月21日14時35分釧路港南ふ頭を発し、苫小牧港に向かった。 A受審人は、発航時から濃霧で視界が制限されていたので、航行中の動力船の灯火を表示し、機関長を機関の遠隔操縦に、甲板手を手動操舵に当たらせて操船指揮を執り、霧中信号を吹鳴しながら機関を極微速力前進にかけて釧路港航路を出航したのち襟裳岬沖合に向け南下し、15時00分釧路埼灯台から263度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、視界が600メートルに回復したので、針路を襟裳岬の東方5海里の地点に向く214度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 ところでA受審人は、航行中の船橋当直を同人、一等航海士及びB指定海難関係人の3人による4時間交替の3直制とし、各直に甲板手又は甲板員1人を配置して2人で当直を行わせ、B指定海難関係人が霧中航行の船橋当直に慣れていることから、広い海域では、かなり視界が狭められていても同人に当直を委ね、レーダーにより接近する他船の映像を認めたときは直ちに報告させて操船指揮に当たっていた。 A受審人は、定針したときB指定海難関係人が当直を引き継ぐため昇橋し、レーダーに他船の映像が認められなかったことから、接近する他船があれは報告してくれるものと思い、引き続き操船指揮に当たることなく、霧中信号の吹鳴を中止し、安全な速力に減じることもせずに同人に当直を委ねて降橋し、自室のベッドで休息した。 B指定海難関係人は、当直を引き継いで間もなく濃霧となり視界が200メートルに狭められたが、船長に報告せず、6海里レンジとしたレーダーを時々見ながら相直の甲板手とともに前方の見張りに当たって続航中、15時37分釧路埼灯台から226度9.0海里の地点に達したとき、右舷前方に2隻の反航船の映像を認め、自動操舵のまま9度左転して205度の針路としたところ、両船の映像が除々に右方に替わっていくので、同時45分当直交代に備えて操舵室右舷側後部の海図台に向かって船位の記入を始めた。 B指定海難関係人は、同時46分釧路埼灯台から223度10.7海里の地点に達したとき、相直の甲板手から右舷前方2.0海里に反航する第58豊漁丸(以下「豊漁丸」という。)の映像を認めた旨の知らせを受け、同時46分半海図台を離れてレーダーを一見したとき、右舷船首11度1.8海里に接近した豊漁丸の映像を初めて認めたが、前示2隻の反航船の映像が右舷船尾方に替わったことから、前示針路のまま進行すれば豊漁丸と互いに右舷を対して航過するものと思い、同船の映像にカーソルを合わせるなどして動静監視を十分に行わなかったので、その後同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、このことに気付かず、船長にその旨を報告しなかったので、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま続航した。 B指定海難関係人は、15時49分豊漁丸のレーダー映像が右舷船首17度1.0海里に接近したとき、同船が小角度右転し、その後同船の映像の方位が変わらずに急速に接近したが、依然レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同時51分同船の映像がレーダー画面中心付近0海面反射の中に入って見えなくなったので、汽笛により長音3回を吹鳴して右舷船首方を注視していたところ同時52分少し前、右舷船首方150メートルに豊漁丸の船影を視認し、甲板手に右舵一杯を指示したが効なく、15時52分釧路埼灯台から221度11.8海里の地点において、太成丸の左舷船首が、原針路、全速力のまま豊漁丸の船尾部左舷側に前方から57度の角度で衝突した。 A受審人は、自室で休息中、汽笛長音3回を聴いて丸窓から前方を見たところ左舷方を航過していく豊漁丸を認め、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。 当時、天候は霧で風力3の南風が吹き、潮候はほぼ高潮時にあたり、視程は200メートルであった。 また、豊漁丸は、小型機船底びき網漁業に従事する木造漁船で、C受審人ほか3人が乗り組み、船首0.30メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同月20日22時010分釧路港を発し、翌21日03時ごろ同港の南西方40海里ばかりの漁場に至り、04時ごろ投網を開始し、北東方に移動しながら操業を続けていたところ、霧模様となり次第に風波が高まってきたので、かれい、えび、たこなど約500キログラムを獲て操業を打ち切り、14時15分釧路港の南東方26海里ばかりの漁場を発進して帰途についた。 C受審人は、発進したとき、航行中の動力船灯火を表示し、単独船橋当直に当たって釧路港向け北上し、15時40分釧路崎埼台から221度13.6海里の地点に達したとき、次直の甲板員が昇橋したので、針路を釧路港東区南副防波堤灯台に向く037度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 C受審人は、定針したとき、濃霧となって視界が200メートルに狭められたが、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせず3海里レンジとしたレーダーを時々見ながら前方の見張りに当たって続航中、15時46分釧路崎埼台から222度12.7海里の地点に達したとき、正船首少し左2.0海里に反航する太成丸のレーダー映像を初めて認めた。しかしながら同人は、同船の映像をプロッティンクするなどして動静監視を十分に行わなかったので、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行した。 C受審人は、15時49分釧路埼灯台から222度12.2海里の地点に達し、太成丸の映像が右舷船首5度1.0海里に接近したとき、右転すれば同船と互いに左舷を対して航過するものと思い、自動操舵のまま針路を060度に転じたところ、同船の映像を左舷船首18度に見るようになり、その後映像の方位が変わらずに接近したが、このことに気付かず、同時51分その映像がレーダー画面中心付近の海面反射の中に入って見えなくなったので、同時51分半、更に右転して針路を082度とし、左舷方を注視していたところ15時52分わずか前、左舷船首45度70メートルに太成丸の船首部を視認し、自船の船橋左舷側に向首しているように見えたので、全速力前進のまま機関回転数を一杯に上げたが及ばず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、太成丸は、船首ステムに小凹損を生じ、豊漁丸は、左舷側後部外板及びブルワークに亀裂を伴う凹損を生じて機関室内に浸水したが、のち損傷部は修理された。
(原因) 本件衝突は、両船が、霧のため視界制限状態となった北海道釧路港南西左沖合を航行中、南下する太成丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、レーダーで前路に認めた豊漁丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上する豊漁丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、レーダーで前路に認めた太成丸と著しく接近することを避けることができな、状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。 太成丸の運航が適切でなかったのは、船長が視界制限時に降橋し、自ら操船指揮に当たらなかったことと、船橋当直者が、レーダーにより前路に反航する豊漁丸を認めた際同船の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、霧のため視界制限状態となった北海道釧路港を出航し、襟裳岬沖合に向け南下する場合、沖合に出れば更に視界が狭められることが予想される状況であったから、引き続き在橋して自ら操船指揮に当たるべき注意義務があった。しかるに、同人は、B指定海難関係人が霧中の船橋当直に慣れているから、接近する他船があれば報告してくれるものと思い、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、同指定海難関係人に当直を委ねて自室で休息し、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、豊漁丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま進行して衝突を招き、太成丸の船首ステムに小凹損を生じさせ、豊漁丸の左舷側後部外板及びブルワークに亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、霧のため視界制限状態となった北海道釧路港南西沖合漁場から帰港中、レーダーで船首方に反航する太成丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、レーダーにより動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右転すれば太成丸と互いに左舷を対して航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーで前路に認めた同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、船橋当直に当たって霧のた視界制限状態となった北海道釧路港南西方沖合を航行中、レーダーで前路に反航する豊漁丸の映像を認めた際、同船の接近を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|