日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年神審第48号
    件名
貨物船第三朝日丸漁船炭多丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、佐和明、工藤民雄
    理事官
A 職名:第三朝日丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:炭多丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

    受審人
朝日丸…損傷なし
炭多丸…船首を圧壊
    指定海難関係人

    損害
朝日丸…損傷なし
炭多丸…船首を圧壊

    原因
朝日丸…横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
炭多丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三朝日丸が、前路を左方に横切る炭多丸の進路を避けなかったことによって発生したが、炭多丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月3日15時40分
瀬戸内海播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三朝日丸 漁船炭多丸
総トン数 181.74トン 4.86トン
全長 44.50メートル 13.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 363キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第三朝日丸(以下「朝日丸」という。)は、専ら兵庫県姫路港から阪神方面へ鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人と機関長が乗り組み、鋼材432トンを載せ、船首2.70メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成9年2月3日14時20分姫路港広畑区を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、船橋当直を両港のほぼ中間で機関長と交替することとし、発航時の操船に引き続いて単独の当直に当たり、14時30分半広畑東防波堤灯台から180度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、針路を120度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
15時35分半A受審人は、東播磨港別府西防波堤灯台(以下「別府西防波堤灯台」という。)から246.5度2.7海里の地点に至り、操舵スタンド後ろでいすに腰を掛けて操舵及び見張りを行っていたとき、右舷船首33度1.0海里に前路を左方に横切る炭多丸を初めて視認し、その後その方位に変化がないまま接近し、同船と衝突のおそれがあることを知ったが、過去に小型の漁船が航行中の自船に近づくと右又は左に転針してかわっていくことがあったので、炭多丸もそのうちに転針して航過するものと思い、速やかに右転するなどその進路を避けなかった。
A受審人は、15時39分少し過ぎ炭多丸の200メートル左舷前方を北上していた漁船が左転して自船の船尾にかわったことから、炭多丸の左転を期待してそのまま続航するうち、同時39分半同船が至近に迫ってくるのを認め、少し左舵をとるとともに機関を微速力前進とし、電気ホーンにより短音5回を吹鳴した。
そしてA受審人は、炭多丸を見守っていたところ、そのまま直進してくるので衝突の危険を感じ、15時40分わずか前機関を全速力後進にかけたが及ばず、15時40分別府西防波堤灯台から235度2.4海里の地点において、朝日丸は、113度を向いたとき、その右舷前部に炭多丸の船首力前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、炭多丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製の漁船で、B受審人が単独で乗り組み、石桁網漁の目的で、船首尾とも0.30メートルの喫水をもって、同日06時30分東播磨港高砂地区の船だまりを発し、同港沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時00分播磨灘北航路第10号灯浮標の西方に至り、繰り返し操業を行っているうち、次第に北西風が強くなってきたので、付近の僚船と連絡を取り合って操業を打ち切り、かれいなど15キログラムを漁獲し、15時22分別府西防波堤灯台から212度4.1海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進時B受審人は、針路を東播磨港高砂西防波堤灯台の少し左に向く003度に定め、機関を6.0ノットの半速力前進にかけ、付着した泥やごみを洗い流すために、漁網を船尾から海面に引き、折から北西風により2度右方に圧流されて自動操舵により進行し、15時30分漁網を船上に取り込んで機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で同じ針路及び圧流模様で続航した。
やがてB受審人は、右舷船尾甲板において、時々顔を上げて周囲を見渡しながら漁獲物の選別昨業を行い、15時35分半別府西防波堤灯台から225.5度2.8海里の地点で、左舷船首30度1.0海里に前路を右方に横切る態勢の朝日丸を視認することができ、その後その方位に変化がなく接近し、同船と衝突のおそれがあることが分かる状況であったが、付近には接近する他船はいないと思い、同作業に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
そしてB受審人は、避航の気配がないまま直進してくる朝日丸に対して警告信号を行わず、さらに間近に接近したとき、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、15時40分わずか前至近に迫った同船を初めて視認し、直ちに機関を全速力後進にかけたが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、朝日丸には損傷がなく、炭多丸は船首を圧壊したがのち修理された。

(原因)
本件衝突は、東播磨港沖合の播磨灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の朝日丸が、前路を左方に横切る炭多丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の炭多丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、東播磨港沖合を東行中、前路を左方に横切る炭多丸の方位が変わらずに接近し、衝突のおそれがあることを知った場合、速やかに右転するなどその進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、過去に小型の漁船が航行中の自船に近づくと右又は左に転針してかわっていくことがあったから、炭多丸もそのうちに転針して航過するものと思い、速やかに右転するなどその進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、炭多丸の船首を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、単独で乗り組み、漁場から東播磨港高砂地区の船だまりに向けて北上する場合、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近には接近する他船はいないと思い、漁獲物の選別作業に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する朝日丸に気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION