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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月23日15時58分 千葉港葛南区 2 船舶の要目 船種船名 貨物船興榮丸
貨物船祐徳丸 総トン数 499トン 498トン 全長 73.04メートル 75.42メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,029キロワット 735キロワット 3 事実の経過 興榮丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,255トンを載せ、船首3.05メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成9年1月20日17時10分北海道苫小牧港を発し、越えて同月23日07時50分千葉港外港に至り、千葉港葛南市川灯柱(以下「市川灯柱」という。)から150度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点において、着岸待機のため投錨仮泊し、同日15時30分抜錨して市川灯住から041度700メートルばかりにある丸一鋼管株式会社の岸壁に向かった。 ところで、千葉県市川市の江戸川河口部一帯には拡大な埠頭が何箇所も存在しているが、その沖合約2海里にかけて水深が1メートル以内の浅海域が広がっているので、これら埠頭に入出航する船舶のため、同川河口部から南南東方向に、長さ約2.4海里にわたって幅約240メートル水深6.5メートルの狭い掘り下げ水路(以下「市川水路」という。)が設けられており、同水路の南端付近に水路入口を示す千葉港市川第1号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「千菊港市川」を省略する。)及び第2号灯浮標が同水路の中間部両側に第3号から第8号までの各灯浮標が順に設置され、さらに北西端に第9号仮設灯浮標が、北東端に第10号仮設灯浮標がそれぞれ設けられていた。 また、市川水路の北端部は、北西方の高浜町や塩浜の各岸壁に向かう水路(以下「北西水路」という。)及び北東方の高谷新町や船橋中央ふ頭の各岸壁に向かう水路(以下「北東水路」という。)がそれぞれ接続してY字状に交差する状態となっており、第7号及び第8号灯浮標並びに第9号及び第10号仮設灯浮標で囲まれる水域が水路の交差部をなしていた。 そして、入航船は、港則法第11条の規定により、北西水路に向かう場合は国際信号旗の第2代表旗、I旗及びW旗を、北東水路に向かう場合は第2代表旗、I旗及びE旗をそれぞれ掲場して行き先を示すことになっていた。 A受審人は、船首部に乗組員2人を配置し、自らは船橋において単独で操船に当たり、第2代表旗、I旗及びW旗を後部マストに掲げ、15時40分市川灯柱から072度1,830メートルの埠頭南西角に設けられている三角点(以下「三角点」という。)から152度2.4海里の、第1号及び第2号灯浮標の中間を通過したとき、針路を市川水路に沿う330度に定め、機関を微速力前進と半速力前進とに適宜切り替えて使用し、69ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 間もなくA受審人は、船首方向に北西水路から出てきた2隻の反航船を認め、これらと市川水路内で左舷を対して航過するため、15時52分三角点から155.5度1,800メートルの地点に差し掛かったころ、徐々に水路の右側端に寄せて進行していたところ、同時53分右舷前方1.1海里ばかりに、北東水路内を出航する祐徳丸を初めて視認した。 15時54分半A受審人は、2隻の反航船と左舷を対して航過し、そのまま市川水路の右側端を航行すれば自船の前路700メートルばかりを祐徳丸が左方に通過できる状況であったが、自船が北西水路に向かうことを示す信号旗を掲示しているので、相手船が自船と右舷を対して航過するように同交差部内東側の第10号仮設灯浮標と第8号灯浮標に接近する進路をとるものと思い、引き続き市川水路の右側端を航行することなく、左舵10度をとって徐々に同水路の左側に寄る態勢とした。 15時56分A受審人は、三角点から162.5度980メートルの地点に達したとき、祐徳丸が右舷前方900メートルばかりのところで水路交差部に入ったものの、同船が交差部東側に寄らずに進行しており、このまま自船が制化水路の左側端に寄せて進行すると、水路交差部西側で両船が出会い、衝突のおそれがある状況となったが、相手船が自船の行き先信号旗に気付いて左転するものと思い、機関を使用して行き脚を止めるなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。 15時57分少し前A受審人は、三角点から168度850メートルの、第7号灯浮標手前200メートルで水路の左側端に寄ったので針路を330度に戻し、同時57分少し過ぎ祐徳丸を船首方向350メートルに見るようになったとき、ようやく衝突の危険を感じ、夢中で左舵一杯をとるとともに機関を全速力後進にかけたが及ばず、15時58分三角点から177度560メートルの地点において、約2ノットの残速力で315度を向いた興榮丸の右舷船首部外板に、祐徳丸の船首が前方から45度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。興榮丸は、衝突地点西方の水路外に出て浅所に乗り揚げ、のちサルベージ船によって引き下ろされた。 また、祐徳丸は、船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,162トンを載せ、船首3.10メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同日15時45分三角点から023度1,000メートルの京葉鉄鋼株式会社の岸壁を発し、同港千葉区第3区の新日本製鐵株式会社の岸壁に向かった。 B受審人は、単独で出航操船に当たり、船首部に乗組員2人を配置し、左舷付け入り船状態で係留していたので、右舷錨を揚錨のうえ回頭し、15時50分機関を微速力前進にかけ、北東水路を水路交差部に向かって航行を開始した。 15時54分B受審人は、三角点から050度450メートルの地点に達したとき、針路を220度に定め、機関回転数を毎分200とし、7.6ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 そのころ、B受審人は、左舷船首48度1,550メートルのところに市川水路を北上する興榮丸を初めて認め、同船が掲揚している国際信号旗を双眼鏡で確認し、第2代表旗及びI旗を読み取ることができたものの、その下の旗がE旗かW旗か分からぬまま同船が同水路の右側端に寄せて2隻の反航船と左舷を対して航過したので、自船とも左舷を対して替わるように引き続き水路の右側端を進行するものと思い、水路交差部で興榮丸の前路を迂回して大きく左回頭する予定で、北東水路の右側寄りを続航した。 15時56分B受審人は、水路交差部内に入り、三角点から151度100メートルの地点に達したとき、左舷前方900メートルになった興榮丸が市川水路内を左転して水路の左側に寄ろうとしているのを認め、このまま進行すれば水路交差部西側で両船が出会い、衝突のおそれがある状況となったが、そのうち相手船が左舷を対して航過するよう右転するものと思い、機関を使用して行き脚を止めるなど、速やかに衝突を避けるための措置をとることなく、徐々に左回頭を続け、第7号灯浮標に接近する態勢で進行した。 15時57分半B受審人は、興榮丸が船首方向300メートルに接近したとき、ようやく衝突の危険を感じ、あわてて機関を全速力後進にかけ、右舵一杯をとって汽笛で短音1回を吹鳴したが及ばず、祐徳丸の船首がほぼ180度を向いたとき、約4ノットの残速力で前示のとおり衝突した。 衝突の結果、興榮丸は右舷船首部外板に破口を伴う凹損及び同部のハンドレール等に凹損を生じ、祐徳丸はファッションプレート及び球状船首に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、両船が千葉港葛南区の3本の狭い水路がY字状に交わる水路交差部付近において出会う状況となった際、入航のため同交差部に向けて水路内を北上する興榮丸が、水路の右側端に寄らなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、出航のため水路内を南西進する祐徳丸が、水路交差部に差し掛かったとき、水路の左側に寄る態勢で同交差部に向かう興榮丸を認めた際、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
(A受審人の所為) A受審人は、単独で操船に当たり、入航のため千葉港葛南区の3本の狭い水路がY字状に交わる水路交差部に向けて水路内を北上中、右舷前方の水路内に水路交差部に向けて南西進する祐徳丸を認め、同船と同交差部付近において出会う状況となることを知った場合、水路の右側端に寄せて航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が同交差部を通過したのち北西進することを示す国際信号旗を掲げているので、祐徳丸がその信号旗を見て水路の右側に寄せ、右舷を対して航過する態勢となるものと思い、水路の右側端に寄せて航行しなかった職務上の過失により、同水路の左側端を航行して祐徳丸との衝突を招き、自船の右舷船首部外板に破口を伴う凹損などを生じさせ、祐徳丸の球状船首に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、出航のため、単独で操船に当たって千葉港葛南区の3本の狭い水路がY字状に交わる水路交差部に向けて水路内を南西進中、左舷前方の水路を同交差部に向けて北上する興榮丸を視認し、同船行き先を示す国際信号旗が明確に読み取れないまま、同船と左舷を対して航過する予定で水路交差部に入ったところ、興榮丸が水路の左側に寄る態勢となっているのを認めた場合、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが同人は、そのうち相手船が右転し左舷を対して航過できるものと思い、衝突を避けるための措置をとるのが遅れた職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおり損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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