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1999年(平成11年)

平成10年神審第119号
    件名
アスファルトタンカー第八にちあす丸貨物船住福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

清重隆彦、佐和明、工藤民雄
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:住福丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
にちあす丸…右舷船首部外板に破口を伴う凹損、捨錨
住福丸…左舷中央部から後部にかけてのハンドレールに曲損等、捨錨

    原因
住福丸…走錨防止措置不適切

    主文
本件衝突は、住福丸が、走錨防止の措置が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月15日04時30分
潮岬半島北西側海域
2 船舶の要目
船種船名 アスファルトタンカー第八にちあす丸 貨物船住福丸
総トン数 691トン 199トン
全長 68.94メートル
登録長 54.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 558キロワット
3 事実の経過
第八にちあす丸(以下「にちあす丸」という。)は、船尾船橋型のアスファルトタンク船で、船長Bほか6人が乗り組み、燃料用アスファルト1,037トンを載せ、船首3.20メートル船尾4.55メートルの喫水をもって、平成10年1月14日11時45分大阪港を発し、静岡県田子の浦港に向かった。
ところで、本邦付近の14日の気象状況は、鹿児島県種子島付近に中心をもつ1,012ヘクトパスカルの低気圧が発達しながら本州南岸沿いに東進中で、紀伊半島の沖合では夜半から大時化となる予報が出されていた。また、和歌山地方気象台は同日16時50分和歌山県全域に強風及び波浪注意報を発表し、注意を呼びかけていた。
B船長は、紀伊半島西岸を南下中、テレビニュースで、四国及び近畿一円に強風及び波浪注意報が出され、北東の風が増勢することを知り、潮岬半島北西側の西方に開口部をもつ湾内で避泊することとし、20時35分潮岬灯台から342度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で水深約30メートルのところに左舷錨を投じて錨鎖6節を延出するとともに、錨泊中の船舶が表示する灯火を掲げたほか、前部マストに3個、船橋上部に2個、船尾に1個の作業灯をそれぞれ点灯して錨泊し、部下を休息させ、自らは自室に退いた。
休息中のB船長は、翌15日04時ごろ激しい風雨の音で目覚めて昇橋し、突風を伴う風力9の北東風が吹いていることを知って、レーダー画面をのぞいていたところ、同時15分自船は移動していなかったが、風上0.5海里のところから錨泊中の住福丸が自船に接近してくるのを認め、肉眼でも甲板上の灯火の点灯状況から、船体を横に向けた状態で圧流されているのが分かり、機関用意を令するとともに、同船に対して汽笛により短5声を発した。
B船長は、04時25分機関の運転が可能となったが、住福丸が既に300メートルまで接近しており、錨を巻き上げて同船を避けることは困難な状況となっていたので、継続して汽笛による短音の連吹を行うとともに探照灯で照射して注意を促した。しかし、住福丸はそのまま接近し、04時30分潮岬灯台から342度1.5海里の地点において、050度を向首したにちあす丸の船首と住福丸の左舷中央部とが後方から55度の角度で衝突した。
当時、天侯は雨で突風を伴う風力9の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、住福丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、機械部品69トンを載せ、船首1.4メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、同月13日15時30分関門港を発し、京浜港に向かった。
A受審人は、発航後、船橋当直を一等航海士との2人で単独6時間の2直制とし、自らは6時から12時の時間帯の当直に当たり、翌14日16時30分ごろ潮岬南方に差し掛かったとき、低気圧の接近により高まった風浪を右舷前方から受け船体の動揺力激しくなったので、潮岬半島化西側の西方に開口部をもつ湾内で避泊することとして反転し、19時10分潮岬灯台から359度1.7海里の地点で水深約20メートルのところに右舷錨を投じて錨鎖5節を延出するとともに、錨泊中の船舶が表示する灯火を掲げて錨泊した。
その後、A受審人は、ラジオの気象予報を聞き、発達した低気圧の接近により、和歌山県全域に強風及び波浪注意報が発表され、夜半から突風を伴う風力9ぐらいの北東風が吹くことを知った。
そして、A受審人は、翌15日00時30分ごろ昇橋して周囲の状況を確認したところ、多数の錨泊船とともに、風下0.5海里のところに錨泊中のにちあす丸を認めることができ、しかも自船の積載貨物量が少なく軽喫水で大きな風圧を受けて同船に向かって走錨するおそれがあったが、風力5ばかりであったので、しばらくは大丈夫と思い、守錨当直を立てたうえ、必要に応じて錨鎖を延出するなどの走錨防止の措置を取ることなく、自室に退き03時に昇橋するつもりで目覚まし時計を調節して休息した。
A受審人は、目覚まし時計が鳴ったかどうか分からないまま休息中、04時30分少し前にちあす丸の汽笛を聞き急ぎ昇橋したところ、増勢した突風を伴う北東風のため、自船が把駐力を喪失してその船首を北右に向けたまま風下の同船に向かって走錨し、急速に接近していることを認めたが、どうすることもできず、住福丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、にちあす丸は右舷船首部外板に破口を伴う凹損を、住福丸は左舷中央部から後部にかけてのハンドレールに曲損等をそれぞれ生じ、両船の錨鎖が絡み両船とも錨鎖を切断して捨錨したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、潮岬半島北西側の西方に開口部をもつ湾内において、低気圧の接近により突風を伴う北東の強風が吹くことが予想されるなか、多数の船舶とともに投錨して避泊する際、住福丸が、走錨防止の措置が不適切で、強風により把駐力を喪失して走錨し、風下で錨泊中のにちあす丸に向け圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為〉
A受審人は、夜間、潮岬半島北西側の西方に開口部をもつ湾内において、低気圧の接近により北東の強風が吹くことを知り、軽喫水状態で多数の船舶とともに投錨して避泊する場合、自船が把駐力を喪失して走錨することのないよう、守錨当直を立てたうえ、必要に応じて錨鎖を延出するなど走錨防止の措置を取るべきべき注意義務があった。しかるに、同人は、しばらく大丈夫と思い、守錨当直を立てたうえ、必要に応じて錨鎖を延出するなどの走錨防止の措置を取らなかった職務上の過失により、増勢した北東風に気付かないまま休息中、自船が把駐力を喪失して走錨し、風下で錨泊中のにちあす丸との衝突を招き、同船の右舷船首外板に破口を伴う損傷及び住福丸の左舷中央部から後部にかけてのハンドレールに曲損等をそれぞれ生じさせ、両船の錨鎖を絡ませて捨錨させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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