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1999年(平成11年)

平成10年神審第113号
    件名
漁船大日丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:大日丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大日丸…船首部に擦過傷
和木丸…左舷船尾部外板に破口を生じて転覆、乗組員1人が左足骨折など

    原因
大日丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和木丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、大日丸が、見張り不十分で、錨泊中のプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月4日07時30分
徳島県北泊ノ瀬戸北口
2 船舶の要目
船種船名 漁船大日丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 6.4トン
全長 15.73メートル 3.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
大日丸は、小型船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の息子の甲板員が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成8年8月3日18時30分徳島県瀬戸漁港北泊地区の係留地を発し、島田島北左沖合の漁場に向かった。
19時ごろA受審人は、島田島の瀬ノ肩鼻北方1,000メートル付近の漁場に到着し、その後南北方向に曳網を繰り返し、翌4日06時ごろ、えびなどを漁獲して操業を打ち切り、しばらく漁獲物の選別作業を行ったのち、同時30分北泊灯柱から356度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点を発進し、帰途についた。
発進後、A受審人は、船尾から網を出して洗いながら南下したのち、07時05分北泊灯柱から353度2.4海里の地点で網の揚収を終え、針路を175度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で。船体中央部にある操舵室内の舵輪の後ろに立ち手動操舵に当たって進行した。
07時15分A受審人は、北泊ノ瀬戸北口まで1.2海里ほどに近づいたとき、同瀬戸北方に釣り船をよく見かけたことから、機関の回転数を少し落とし、5.0ノットの対地速力で続航し、同時21分半北泊灯柱から350度1,320メートルの地点に差し掛ったとき、針路を同瀬戸西側に接航する165度に転じて進行した。
A受審人は、07時25分北泊灯柱から353度780メートルの地点に達したとき、正船首770メートルのところに、左舷側を見せて錨泊中のプレジャーボート船名なし、(以下「R丸」という。)を視認でき、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近した。しかし、同人は、付近に 錨泊して魚釣りをしている船が見当たらなかったことに気を緩め、前路に他船はいないものと思い、左右を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、R丸を避けないで続航した。
07時29分半、A受審人は、ふと前方を見たとき船首至近に迫ったR丸を初めて視認し、少し左舵をとったものの、このとき左舷船首方北泊ノ瀬戸北口から出てきた漁船を認めて原針路に戻し、R丸が船首部に隠れて視認できずに進行中、07時30分北は泊灯柱から075度110メートルの地点において、大日丸は、165度を向き、原速力のまま、その船首がR丸の左舷船尾部に、直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、R丸は、釣りなどのレジャーに使用する、推進機関を有しない手こぎのFRP製プレジャーボートで、B指定海難関係人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾とも0.1メートルの喫水をもって、同日06時40分北泊灯柱の西方100メートルの係留地からこぎ出し、近くの釣り場に向かった。
06時50分ごろB指定海難関係人は、北泊ノ瀬戸北口の漁船などが航行する海岸近くの前示衝突地点に至り、重さ約4キログラムの錨を船首から投じ、錨索を約10メートル延出し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま錨泊し、船尾部右舷側のさぶたの上に腰を下ろし、右舷側に釣り糸を出して手釣りを開始した。
07時25分B指定海難関係人は、075度に向首しているとき、左舷正横770メートルのところに、来航する大日丸を視認できる状況で、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが釣りに熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま釣りを続けた。
B指定海難関係人は、07時29分少し過ぎふと左舷側を見たとき、近距離に迫った大日丸を初めて視認し、間もなく衝突の危険を感じ、移動するため櫓を取り出そうとしたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大日丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、R丸は左舷船尾部外板に破口を生じて転覆し、B指定海難関係人は海中に投げ出されたのち大日丸に救助されたものの、左足骨折などを負った。

(原因)
本件衝突は、徳島北泊ノ瀬戸北口において、漁場から帰航中の大日丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のR丸を避けなかったことによって発生したが、R丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、島田島北方沖合の漁場から瀬戸漁港に向け帰航中、北泊ノ瀬戸北口に近づいた場合、錨泊中のR丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注注意義務があった。ところが、同人は、前路に他船はいないものと思い、左右を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のR丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、大日丸の船首部に擦過傷を、またR丸の左舷船尾部外板に破口をそれぞれ生じさせ、同船を転覆させたほか乗組員に左骨骨折などを負わせるに至った。
B指定海難関係人が、徳島県泊ノ瀬戸北口において、錨泊して魚釣り中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

参考図






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