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1999年(平成11年)

平成10年横審第34号
    件名
漁船第六十三博洋丸貨物船美山衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年4月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、西村敏和
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:第六十三博洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:美山機関長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
博洋丸…左舷全部に亀裂を伴う破口、左舷船尾ブルワークに凹損
美山…右舷船首に凹損

    原因
美山…動静不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
博洋丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、美山が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第六十三博洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第六十三博洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月19日07時17分
石廊埼西南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十三博洋丸 貨物船美山
総トン数 299.48トン 199トン
全長 50.60メートル 56.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 661キロワット
3 事実の経過
第六十三博洋丸(以下「博洋丸」という。)は、遠洋まぐろはえ縄漁業に従事する、中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか11人が乗り組み、平成8年1月27日13時00分宮城県気仙沼港を発し、2月10日アメリカ合衆国ホノルル港に入港して乗組員を補充し、燃料油、食料を補給したのち、中部太平洋海域の漁場において操業を行い、まぐろ約210トンを獲て11月27日操業を打ち切り、12月5日同港に寄港して補充した乗組員を下船させ、船首2.50メートル船尾400メートルの喫水をもって、翌6日04時00分(現地時間)同港を発し、清水港に向かった。
A受審人は、清水港までの船橋当直を自ら、一等航海士、二等航海士及び甲板部員3人の6人による単独2時間交代制として北太平洋を西行し、越えて同月18日20時00分伊豆諸島に接近したので自ら同当直に就き、22時00分同当直が冬了したが、時化(しけ)模様になってきたので引き続き在橋し、翌19日04時00分から同当直に就いた二等航海士、及び06時00分に昇橋してきた一等航海士とともに同当直を3人で行い、同諸島西方海上を北上した。
06時04分少し前A受審人は、石廊埼灯台から182度(真方位、以下同じ。)14.0海里の地点において、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵とし、折からの東流により右方に圧流されながら333度の針路で進行した。
06時58分A受審人は、石廊埼灯台から220度7.4海里の地点に達したとき、左舷船首35度5.8海里に東行する美山を初認し、視界も良かったことから、レーダーを活用せずに肉眼による見張りを続け、相当直の2人に対してもレーダー監視をするよう、特段には指示せずに続航した。
07時10分半わずか前A受審人は、左舷船首35度2.0海里に美山を視認するようになり、その後方位に変化のないまま衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが、同船が左舷方から来航しているので自船を替わして行くものと思い、警告信号を行うことなく進行し、その後美山が避航しないまま接近していることに気付いていたものの、同船の避航模様を見てから替わしても遅くはないと考え、大幅に右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時17分少し前二等航海士の危ないとの叫び声を聞いて衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右舵一杯とし、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、07時17分石廊埼灯台から248度6.8海里の地点において、博洋丸は、船首が345度を向き、速力が8.0ノットになったとき、その左舷前部に美山の右舷船首が後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近海域には約1ノットの東流があった。
また、美山は、鋼材輸送に従事する、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及び船舶所有者であるB受審人ほか1人が乗り組み、鋼管462トンを載せ、船首2.10メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月18日22時10分衣浦港を発し、千葉港に向かった。
C船長は、船橋当直を自らとB受審人及び甲板長の3人で単独4時間交替の3直制とし、発航操船に引き続き同当直に当たって伊良湖水道航路を南下したのち、遠州灘を東行し、翌19日02時00分甲板長に同当直を引き継ぎ、視界も良かったことから船位と針路模様を告げ、降橋して休息した。
06時30分機関室の点検を終えて昇橋したB受審人は、前直の甲板長から船橋当直を引き継ぎ、石廊埼灯台から258度15.5海里の地点において、針路を085度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に乗じて11.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
07時00分B受審人は、石廊埼灯台から253度9.8海里の地点において、船舶電話で千葉港の代理店にに同港入港予定時刻を連絡し終えたとき、右舷船首33度5.1海里に北上する博洋丸を初認し、同船が前路を左方に横切る態勢になっていたが一見して同船が西行しているので右舷対右舷で航過するものと思い込み、その後同船に対する動静監視を行うことなく続航した。
07時10分半わずか前B受審人は、右舷船首33度2.0海里に博洋丸を視認するようになり、その後方位に変化のないまま衝突のおそれがある態勢で接近していたが、依然、同船に対する動静監視が不十分で、同船の接近に気付かず、右転するなど同船の進路を避ける措置をとらないまま進行し、同時16分前方間近に数隻の小型漁船を視認してこれを替わすため左舵をとり、船首がほぼ030度を向いたところで同漁船群が潜わったのち右舵をとって回頭中、同時17分わずか前船首至近に博洋丸を認めたものの、どうすることもできず、船首が045度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C船長は、衝撃で衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、博洋丸は左舷前部外板に亀(き)裂を伴う破口と左舷船尾ブルワークに凹損を生じ、美山は右舷船首に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、石廊崎西南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行する美山が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る博洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の博洋丸が、適切な避航動作をとらないまま接近する美山に対して警告信号を行わず、間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、石廊埼西南西方沖合を東行中、前路を左方に横切り北上する博洋丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見して同船が西行しているので右舷対右舷で航過するものと思い込み、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の左舷前部外板に亀裂を伴う破口と左舷船尾部ブルワークに凹損を、美山の右舷船首に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、石廊埼西南西方沖合において、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する美山を視認し、同船が適切な避航動作をとっていないのを認めた場合、大幅に右転をするなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が左舷から来航しているので自船を替わしていくものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して美山との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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