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1999年(平成11年)

平成9年門審第116号
    件名
押船第七三徳丸被押はしけ第八三徳丸漁船清漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、吉川進、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第七三徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:清漁丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
三徳丸押船列…第八三徳丸の左舷船首に清漁丸のペイントが付着
清漁丸…操舵室及び機関ケーシングの左舷側が破損、船長が1箇月の入院治療を要する外傷性気胸、打撲傷及び左肋骨骨折

    原因
三徳丸押船列…横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
清漁丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第七三徳丸被押はしけ第八三徳丸が前路を左方に横切る漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月28日04時35分
九州北岸福岡湾
2 船舶の要目
船種船名 押船第七三徳丸 はしけ第八三徳丸
総トン数 94トン
全長 23.52メートル 72.33メートル
幅 7.80メートル 15.00メートル
深さ 3.10メートル 5.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
船種船名 漁船清漁丸
総トン数 4.97トン
登録長 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第七三徳丸は、2基2軸で2個のコルトノズル・プロペラを装備し、押船又は引船として登録されていたものの、専らはしけ第八三徳丸と一対になって海砂の採取・運搬作業に従事する押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首3.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、船首を第八三徳丸の船尾凹部に嵌入してこれを押し、また、第八三徳丸は、船首側にクレーンを船尾側にポンプ式海砂吸入装置を備えたはしけで、船尾凹部に第七三徳丸の船首を嵌入させ、径60ミリメートルの合繊ロープと径32ミリメートルのワイヤをそれぞれ両舷に使用して両船を固定し、一体型の押船列(以下「三徳丸押船列」という。)を形成し、船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、空倉のまま第七三徳丸から押され、平成9年7月28日03時50分博多港東浜ふ頭を発し、同港から10海里沖合の栗ノ上礁付近の海砂採取地に向かった。
A受審人は、第七三徳丸のマスト灯とその上の連掲灯、左右舷灯及び船尾灯のほか、第八三徳丸のマスト灯をそれぞれ点灯し、三徳丸押船列を離岸させたのち、第七三徳丸の船橋で1人で同押船列の操舵操船にあたり、中央航路を北西進し、04時18分残島灯台から086度(真方位、以下同じ。)2,800メートルの地点で、博多港中央航路第1号灯浮標(以下博多港各灯浮標については「博多港」を省略する。)と中央航路第2号灯浮標のほぼ中間に達したとき、針路を能古島と志賀島のほぼ中央に向首する296度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地押航速力で進行した。
04時31分A受審人は、残島灯台を左舷正横に見る地点を通過し、同灯台から010度1,380メートルの地点に至ったとき、降りしきる雨のなか、右舷船首方0.5海里ばかりにいずれも両舷灯を示して並航しながら接近する2隻の漁船と、その2隻より正船首寄りで、右舷船首5度1海里に白・紅2灯を示して前路を左方に横切る態勢で接近する清漁丸を双眼鏡で認め、04時33分少し前2隻の漁船とは右舷を対して替わることができたものの、清漁丸とは方位がほとんと変わらず1,000メートルばかりに接近する状況となったが、左舷対左舷でわずかな距離を隔てて替わっていくものと思い、同船の進路を避けずに続航中、04時34分半清漁丸が、折からの北西風に船首が振られて白・紅・緑3灯を示したことに衝突の危険を感じ、汽笛短2声を吹鳴して機関を半速力後進にかけたが、清漁丸は第八三徳丸の船首の死角に隠れ、04時35分残島灯台から342度1,800メートルの地点において、三徳丸押船列は、原針路・原速力のまま、第八三徳丸の左舷船首が清漁丸の操舵室左舷側に、前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力4の北西風が吹き、潮候はほぼ満潮時で、視程は1海里であった。
また、清漁丸は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもて同月27日17時00分博多漁港の船溜(だま)りを発し、栗ノ上礁5海里西方のいかの漁場に向かった。
B受審人は、いか7箱の漁獲を得たので漁を打ち切り、翌28日03時20分漁場を出発して帰港の途につき、04時12分玄界港第1号防波堤灯台から092度1.3海里の地点に達したとき、折からの降雨でレーダー画面の映像が鮮明に映らなかったので、レーダーの電源を切って、GPSプロッター画面で船位を確認しながら、針路を残島灯台に向首する146度に定めて自動操舵とし、折からの北西風を船尾に受けて機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で進行した。
04時29分半B受審人は、残島灯台から326度3,000メートルの地点で、首切鼻をほぼ左舷正横に見る地点に至ったので、手動操舵に切り換え、針路をいつものとおり港内最奥部の博多港西防波堤南端の防波堤入口に向首する125度に転じ、再び自動操舵にして航行していたところ、04時31分左舷船首4度1海里に白・白・緑3灯を示し、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で北西進している三徳丸押船列を視認できる状況となったが、GPS装置の画面上での船位確認に気をとられ、再度レーダーの電源を入れてこれを活用するなど、前方の見張りを十分に行わず、同時34分三徳丸押船列に避航の気配が見られないまま互いに500メートルの間近に接近したが依然として同押船列に気づかず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、同時35分少し前やっと至近に接近していた三徳丸押船列に気づき、右舵をとったが、船首が146度に向いたとき、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、三徳丸押船列は、第八三徳丸の左舷船首に清漁丸のペイントが付着し、清漁丸は、操舵室及び機関ケーシングの左舷側が破損したが、のち修理され、衝突時の衝撃で、B受審人は気を失っていたが、付近を航行していた僚船に船体とともに救出されたものの、1箇月の入院治療を要する外傷性気胸打撲傷及び左肋骨骨折を負った。

(原因)
本件衝突は夜間、博多港の入口付近において、三徳丸押船列が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する清漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清漁丸が見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、博多港の入口を出航中、正船首右舷寄りにほとんど方位の変わらないまま前路を左方に横切る態勢で接近する清漁丸を認めた場合、2隻の先航していた反航漁船をいずれも右舷を対して替わしたのち、速やかに右転するなど、清漁丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、相手船とは左舷対左舷でわずかな距離を隔てて替わっていくものと思い、清漁丸の進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、清漁丸の操舵室及び機関ケーシングの左舷側に破損を生じさせたほか、B受審人に1箇月の入院治療を要する左肚骨骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、博多港入口において外海から港内に入航する場合、港内から出航しようとしている船舶を見落とすことのないよう、十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、GPS画面での船位確認に気をとられ、レーダーを活用するなど、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首左舷寄りから前路を右方に横切る態勢で接近する三徳丸押船列に気づかないまま進行して同押船列との衝突を招き、前示損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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