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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月4日07時14分 大王埼南東か沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船ダイユウ
貨物船晃伸丸 総トン数 498.41トン 482トン 全長 71.65メートル 67.77メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,397キロワット 956キロワット 3 事実の経過 ダイユウは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、主に焼却灰の輸送に従事していたところ、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成9年4月3日08時05分広島県眞港を発し、京浜港横浜区に向かった。 A受審人は、翌4日06時45分ごろ大王埼南方を東行中、一等航海士から引き継いで船橋当直に就き、折から霧のため視程が約100メートルに狭められていたが、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、機関当直中の機関長を昇橋させて見張りを行わせ、自らはレーダーの監視に当たり、同時55分大王埼灯台から162度(真方位、以下同じ。)6.1海里の地点に達したとき、針路を050度に定め、引き続き前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。 定針したときA受審人は、6海里レンジのレーダー別に数隻の映像を認めるとともに、右舵船首3度5.1海里に晃伸丸の映像を初めて認め、やがて同船が西行中であることが分かった。そして07時00分晃伸丸の前方1.5海里を先航する他船の映像が自船の船首輝線に寄ってくるので、操舵を手動に切り替え、針路を045度に転じた。 7時03分半A受審人は、晃伸丸の映像をほぼ正船首2.0海里に認め、その方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めることなく、再び左転によって晃伸丸を右舷に替わそうと思い、同時05分両船間の距離が1.4海里になったとき、小角度の左舵をとり、その後左転を繰り返しながら全速力のまま続航した。 A受審人は、07時10分晃伸丸の映像がほとんど変化なく600メートルに接近したとき、霧中信号を行うとともに左舵5度を取って同船の映像を監視していたが、以前接近するので左舵一杯とし船首が320度を向くころ舵を中央に戻して進行中、同時12分右舵側至近にほぼ並航する態勢の晃伸丸を視認し、同船から離れるため小角度の左舵を取ったところ、数秒後に同船が再び霧の中に入って視認できなくなった。 やがてA受審人は、晃伸丸が十分替わったものと思い、元の針路に戻すため右舵20度として回頭中、07時14分わずか前船首至近に再び同船を視認したがどうすることもできず、07時14分大王埼灯台から133度4.2海里の地点において、ダイユウは、050度を向首したその船首が、晃伸丸の左舷後部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風はなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視程は約50メートルであった。 また、晃伸丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B及びC両受審人ほか3人が乗り組み、主に石灰石の輸送に従事していたところ、空倉のまま、船首1.1メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、同月3日14時30分京浜港東京区を発し、兵庫県東播磨港に向かった。 B受審人は、翌4日03時ごろ静岡県磐田市南方沖合を西行中、一等航海士から引き継いで単独の船橋当直に就き、06時ごろ視程が約100メートルになったので、自動吹鳴装置により霧中信号を開始してレーダーの監視に当たり、引き続き機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。 07時00分B受審人は、大王埼灯台から120度6.0海里の地点に達して針路を236度に定めたとき、視程が100メートル以下に狭められ、著しく視界が制限される状況で、レーダー画面上には船首方に数隻の映像が映っていたが、当直交代のためすでに昇橋していたC受審人が船長経験を豊富に有していたので大丈夫と思い、引き続き在橋して自ら操船の指揮をとることなく同人に船当直を任せて降橋した。 一方、C受審人は、06時50分ごろ当直交代のため昇橋し、同時55分左舷船首23度5.1海里にダイユウのレーダー映像を初めて認め、同船に電子カーソルを合わせ、07時00分針路を236度に定めた旨の引継ぎを受けて単独の船橋当直に就き、10.6ノットの対地速力のまま、レーダー監視をしながら自動操舵によって西行した。 07時03分半C受審人は、ダイユウのレーダー映像の方位がほとんど変わらず2.0海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めることなく、右転によってダイユウを左舷に替わそうと思い、同時05分大王埼灯台から127度5.8海里の地点で両船間の距離が1.4海里になったとき、自動操舵で針路を245度に転じ、同時05分半手動操舵に切り替えて280度とし、同時08分290度、同時10分300度として全速力のまま進行した。 そして、C受審人は、07時12分左舷前方にダイユウの霧中信号を聞き、左舷船首方至近にほぼ並航する態勢のダイユウを視認して右舵一杯を取ったところ、数秒後に同船が再び霧の中に入って視認できなくなり、間もなく舵を中央に戻し330度に向首して続航中、同時14分少し前左舷側至近にダイユウのレーダー映像を認め、右転しようとして舵輪に手をかけたとき、晃伸丸は前示のとおり衝突した。 B受審人は、食堂で食事中、衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。 衝突の結果、ダイユウは、右舷船首部に凹損を生じ、晃伸丸は左舷後部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、ダイユウ及び晃伸丸の両船が、霧のため視界が制限された大王埼南東方沖合を航行中、ダイユウが、霧中信号を吹鳴せず、レーダーで前路に晃伸丸の映像を認め、著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかったことと、晃伸丸が、操船指揮が適切でなかったばかりか、レーダーで前路にダイユウの映像を認め、著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、霧のため視界が制限された沖合を東行中、レーダーで前路に認め晃伸丸と著しく接近すること避けることができない状況となったことを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限の速力に減じ、必要に応じて行き脚を止めるべき注意義務があった。ところが、同人は、左転を繰り返せば晃伸丸と互いに右舷を対して替わせるものと思い、針路を保っことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかった職務上の過失により、左転を繰り返して晃伸丸との衝突を招き、ダイユウの右舷船首部及び晃伸丸の左舵後部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、霧のため視界が制限された大王埼東方沖合を西行中、レーダーで前路に数隻の船舶の映像を認めた場合、次直者が昇橋したあとも、引き続き在橋して自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、次直者が船長経験を豊富に有していたので、任せておいても大丈夫と思い、引き続き在橋して自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、次直者に船橋当直を任せて降橋し、ダイユウとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、霧のため視界が制限された大王埼南東方沖合を西行中、レーダーで前路に認めたダイユウと著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行き脚を止めるべき注意義務があった。ところが同人は、互いに左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかった職務上の過失により、右転を繰り返してダイユウとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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