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1999年(平成11年)

平成10年広審第78号
    件名
漁船幸裕丸漁船玄海丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:幸裕丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:玄海丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
幸裕丸…船首部に擦過傷、推進器翼等に曲損
玄海丸…右舷船尾部にV字状の破口、船尾マストを折損、船長が顔面に打撲傷

    原因
幸裕丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
玄海丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸裕丸が見張り不十分で、漂泊中の玄海丸を避けなかったことによって発生したが、玄海丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月8日14時20分
瀬戸内海伊予灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船幸裕丸 漁船玄海丸
総トン数 4.9トン 2.1トン
登録長 11.78メートル 8.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70
3 事実の経過
幸裕丸は、主な操業区域を愛媛県長浜港から同県青島にかけての海域以西の伊予灘南部沿岸沖合での手釣り漁に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣りの目的で、船首0.55メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成10年5月8日09時00分同県西小島漁港大江地区を発し、青島南方の漁場に向かった。
A受審人は、09時30分ごろ漁場に至り、手釣り漁を行っていたが不漁であったので11時30分ごろ漁場を移動することとし、途中適宜僚船に立ち寄っては漁獲模様を眺めながら航行した。
14時14分A受審人は、襖鼻灯台から011度(真方位、以下同じ。)2海里の地点に達したとき、西小島漁港の北北東方約3海里の漁場に向かうこととし、あらかじめビデオプロッタに入力した同地点に向け針路を240度に定めて操舵を手動とし、機関を15.0ノットの全速力前進にかけて進行した。
ところで、A受審人は、幸裕丸は全速力前進をかけると船首方の見通しが船首浮上により、左右両舷にそれぞれ約1点にわたって死角が生ずることから、他船の存在する海域を航行する際には、平素、持ち運び式の遠隔操舵装置を使用するなどして操舵室の両舷側の死角のない場所で操舵操船に従事していた。
A受審人は、発航時、周囲を一瞥(いちべつ)したところ、周囲に他船が見当たらなかったことから、操舵室内中央に位置したままの状態で操舵操船に当たりながら続航中、14時18分襖鼻灯台から342度1.5海里の地点に達したとき、正船首0.5海里のところに三角帆を立て、北西方に向いて漂泊中の玄海丸を視認し得る状況となったが、他船はいないものと思い身体を左右に移動するなどして船首方の死角を補わず、見張りを十分に行うことなく続航し、その後、同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、このことに気付かなかった。
14時19分A受審人は、玄海丸と460メートルに接近したころ、目的地点付近の海域に到着したことから操舵輪の前部下方に設けられたビデオプロッタの調整にとりかかり、依然、見張り不十分で、玄海丸の存在に気付かず、同船を避けないまま進行中、同時20分少し前、同調整を終えて前方を見たとき、至近に同船の三角帆を認めたものの、どう対処することもできず、14時20分襖鼻灯台から323度1.5海里の地点において、幸裕丸は、原針路、原速力のままその船首部が、玄海丸の右舷船尾に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約3海里であった。
また、玄海丸は、主な操業区域を愛媛県長浜港から同県青島にかけての海域以西の伊予灘南部沿岸沖合での手釣り漁に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を有する有効な音響装置を装備しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣りの目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時00分同県三机港を発し、青島南方の漁場に向かった。
B受審人は、06時ごろ漁場に至り、手釣り漁を行っていたか不漁であったので適宜漁場を移動し、襖鼻灯台の北方約1海里ばかりの地点で数回潮上りをして操業を行いながら様子をみていたが、漁場をいつも操業する海域に移動することとし、14時12分前示衝突地点に至り、船尾に三角帆を掲げて機関を中立とし、船首を340度に向けて漂泊を開始した。
B受審人は、漂泊後周囲を一瞥しただけで他船はいないものと思い、水深約60メートルのところで左舷船首方を向いた姿勢となって右手で釣り糸を操り、魚群探知器の映像を見ながら手釣り漁を行っていたところ、14時18分右舷船首80度0.5海里のところに自船に向首して来航する幸裕丸を視認し得る状況となったが、手釣り漁を行うことに気を奪われ、見張りを十分に行うことなく、その後、同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、このことに気付かなかった。
14時19分B受審人は、幸裕丸と同方位のまま460メートルに接近したが、依然見張り不十分で同船に気付かず、クラッチを前進に入れるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、同時20分少し前、右舷方に他船の機関音と波切り音を聞き、同方向を見たとき至近に迫った幸裕丸を認めたものの、どう対処することもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸裕丸は、船首部に擦過傷を、推進器翼等に曲損を生じ、玄海丸は、右舷船尾部にV字状の破口を生じ、船尾マストを折損したが、のちいずれも修理され、B受審人は顔面に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、伊予灘南部海域において、漁場を移動のため南西進中の幸裕丸が、見張り不十分で、前路に漂泊して手釣り漁に従事中の玄海丸を避けなかったことによって発生したが、玄海丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、伊予灘南部海域において、漁場を移動するための南西進する場合、前路に漂泊して手釣り漁に従事する玄海丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、一瞥して周囲に他船はいないものと思い、操舵室内中央に位置したまま、身体を左右に移動するなどして船首方を補わず、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、玄海丸を避けることなく進行して衝突を招き、幸裕丸の船首部に擦過傷と推進器翼等に曲損を、玄海丸の右舷船尾部にV字状の破口と船尾マストに折損を生じさせ、B受審人の顔面に打撲傷を負わすに至った。
B受審人は、伊予灘南部海域において、漂泊して手釣り漁を行う場合、右舷方から自船に向け衝突のおそれのある態勢となって接近する幸裕丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、一瞥しただけで他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らは顔面に打撲傷を負うに至った。

参考図






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