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1999年(平成11年)

平成10年広審第31号
    件名
プレジャーボートゆり号3プレジャーボート秀丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:ゆり号3船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:秀丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ゆり号…船首部に擦過傷、舵板、及び推進器に損傷
秀丸…左舷側船尾外板を破損して船外機を海没、船長が腰椎骨折

    原因
ゆり号…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
秀丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ゆり号3が、見張り不十分で、前路に漂泊する秀丸を避けなかったことによって発生したが、秀丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月15日09時30分
瀬戸内海大下瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートゆり号3 プレジャーボート秀丸
登録長 7.27メートル 3.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 73キロワット 3キロワット
3 事実の経過
ゆり号3(以下「ゆり号」という。)は、主に安芸灘及び広島湾で一本釣りを行う船体中央よりやや後方に操舵室を有するFRP製のプレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成9年8月15日06時00分愛媛県今治港第2区にある係留地を発し、来島海峡航路の西口を経て北上して大下瀬戸北口付近の、愛媛県横島南西方にある釣場に向かった。
A受審人は、07時ごろ釣場に着き、魚群深知器を監視して適宜釣場を移動しながら釣りを行い、09時20分ごろ中ノ鼻灯台から053度(真方位、以下同じ。)1,350メートルの地点に至り、多数の点在する漁船に囲まれて一本釣りを行っていたが、釣果が良くなかったことから移動することとし、同時28分半同地点から針路を054度に定めて機関を11.3ノットの全速力前進にかけて舵柄により操舵進行したとき正船首520メートルのところに秀丸が漂泊していたが、このことに気付かなかった。
A受審人は発進時、前路を一瞥(いちべつ)しただけで他船はいないものと思い、操舵室右舷側前方に設置してある魚群探知器の映像が表示する水深、魚影の有無に気を奪われて操舵にあたるうち09時29分少し前秀丸を正船首400メートルに視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、魚群深知器の映橡を見ることに気を奪われて、前路の見張りを十分に行うことなく続航した。
09時29分半A受審人は、秀丸と同一方位のまま、200メートルに接近したが、依然、見張り不十分でこのことに気付かず、同船を避けることなく進行中、ゆり号は、09時30分中ノ鼻灯台から052度1,850メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首が秀丸の左舷船尾に前方から53度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東北東の風が吹き、潮侯は下げ潮の中央期であった。
また、秀丸は、一本釣りを行う電気点火機関を船尾に装備し、有効な音響装置を有しないFRP製のプレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同同日08時30分広島県大崎上島の、鮴(めばる)埼灯台の南方約1,700メートルにある係留地を発し、横島南方の釣場に向かった。
B受審人は、釣場を適宜移動しながら釣りを行っていたところ、横島南西方の海域に漁船が集団となって点在しているのを認め、同海域に移動することとし、09時15分ごろ前示衝突地点に至りその周囲に数メートル間隔で点在する漁船に囲まれた状況となって機関を停止して右舷船尾に腰掛けた姿勢となり、右舷方に釣り糸を流して船首方を眺めながら一本釣りを開始した。
B受審人は、周辺海域に、いしもちの群れを認め、釣りを行っていたところ、09時28分半287度に向首して漂泊中、左舷船首53度520メートルのところに自船に向け来航するゆり号を視認し得る状況となったが、このことに気付かなかった。
09時29分少し前B受審人は、ゆり号が同一方位のまま400メートルとなり、その後衝突のおそれのある態勢となって接近したが、集団となっている漁船に割り込んでくる他船はいないものと思い、左舷方の見張りを十分に行うことなく、一本釣りを続けた。
09時29分半B受審人は、ゆり号と同一方位のまま200メートルに接近したが、見張り不十分で、依然、このことに気付かず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、同時30分少し前左舷方の機関音に気付いて同方向を見たところ至近に迫ったゆり号を認めたもののどうすることもできず、287度を向首して漂泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ゆり号は船首部に擦過傷と、衝突の衝撃で舵柄が右舷側に大きく振れ、これにより舵板に推進器が接触して舵板、及び推進器に損傷を、秀丸は左舷側船尾外板を破損して船外機を海没するなどの損傷を生じ、B受審人は腰椎骨折を負った。

(原因)
本件衝突は、瀬戸内海大下瀬戸北口付近の漁船が多数点在する釣場において、ゆり号が釣場を移動のため航行する際、見張り不十分で、前路に漂泊油する秀丸を避けなかったことによって発生したが、漂泊して一本釣りを行う秀丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、瀬戸内海大下瀬戸北口付近の漁船が多数点在する釣場を移動のため航行する場合、前路に漂泊する秀丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は前路を一瞥しただけで他船はいないものと思い、魚群探知器の映像に気を奪われて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、秀丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、ゆり号の船首に擦過傷と舵板及び推進器に損傷を、秀丸の左舷側船尾外板に損傷をあたえ、船外機を海没させ、B受審人に腰椎骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、瀬戸内海大下瀬戸北口付近の漁船が多数点在する釣場で漂泊して一本釣りを行う場合、周囲の見張りを十分にに行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集団となっている漁船に割り込んでくる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ゆり号に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ自身も腰推骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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