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1999年(平成11年)

平成10年第二審第43号
    件名
漁船住吉丸プレジャーボートヒカリ3号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月30日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審長崎

小西二夫、米田裕、養田重興、山崎重勝、森田秀彦
    理事官
平田照彦

    受審人
A 職名:住吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ヒカリ3号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
住吉丸・・・左舷船首亀裂
ヒカリ・・・船尾部などを圧壊、沈没、のち廃船、船長及び同乗者1人がともに全治1週間の頸部捻挫など

    原因
住吉丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ヒカリ・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官酒井直樹

    主文
本件衝突は、住吉丸が、見張り不十分で、漂泊中のヒカリ3号を避けなかったことによって発生したが、ヒカリ3号が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月14日13時50分
長崎県佐世保港
2 船舶の要目

船種船名 漁船住吉丸 プレジャーボートヒカリ3号
総トン数 4.9トン
全長 13.60メートル 6.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 316キロワット 44キロワット

3 事実の経過
住吉丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成10年6月14日13時30分休養のために寄港していた佐世保港の市港湾管理事務所前の岸壁を発し、同港西方約15海里の漁場に向かった。
ところで、住吉丸は、速力が15ノットを超えると船首が浮き上がり、操舵室内のいすに腰掛けた状態では正船首方向の左右各舷約10度の範囲に死角が生じるので、A受審人は、平素は立ち上がって操舵室上部の天窓から顔を出して見張りを行ったり、レーダーを活用したりして死角を補う見張りを行っていた。
発航後、A受審人は、天窓から顔を出して見張りに当たり、徐々に速力を上げながら佐世保港内を南下し、13時43分半高後埼灯台から073度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を高後埼と寄船埼間の佐世保港口第1号灯浮標に向首する250度に定め、機関を航海全速力前進にかけて19.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。

A受審人は、定針したころ、前路に他船を認めなかったことから、船はいないと思い、レーダーによる見張りだけで十分と考え、雨模様で南西の風が吹いていたので天窓を閉め、操舵室内のいすに腰を掛け、船首方に死角のある状態で、時折、0.5海里レンジとした、降雨干渉と海面反射が現われでいたレーダーを見ながら続航した。
13時47分半A受審人は、高後埼灯台から075度1.2海里の地点に達したとき、正船首1,500メートルの港口付近にヒカリ3号(以下「ヒカリ」という。)が存在し、やがて同船が漂泊していてこれに衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めることができる状況にあったが、レーダーには、降雨干渉と海面反射の影響で同船の船影を認めなかったので、依然、前路に他船はいないと思い、天窓から顔を出すなどの船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、そのことに気付かず、ヒカリを避けないまま続航した。

A受審人は13時50分、高後埼灯台から085度750メートルの地点において、船首部に衝撃を感じ、住吉丸は、原針路、原速力のまま、その船首がヒカリの右舷船尾部に左舷後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は小雨で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約2海里であった。
また、ヒカリは、船体中央部右舷側に操縦席を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.57メートルの喫水をもって、同日06時00分係留地の長崎県針尾漁港を発し、途中、針尾瀬戸水ノ浦に寄って釣餌を仕入れたのち、高後埼東方の釣り場に向かい、同時50分ごろ佐世保港域内に入り、07時ごろ高後埼灯台の東北東方約600メートルの地点に至って機関を停止し、船首からシーアンカーを投入のうえ、漂泊して釣りを始めた。

ところで、佐世保港は、庵埼沖合から港口にかけて幅約450メートルから500メートル長さ約4,400メートルの航路が設定されており、同港口付近には、普段は釣り船が多かったが、本件発生当時はヒカリの他に高後埼付近に1隻と寄船埼沖に1隻のプレジャーボートがシーアンカーを入れて釣りをしていたのみで、これらプレジャーボートは航路航行船の通航を妨げるような状態にはなかった。
B受審人は、風潮流によって東南東方に流されると潮上りをして釣りを続け、13時00分3回目の潮上りを終え、高後埼灯台から078度580メートルの地点で、再度機関を停止し、船首からシーアンカーを投入のうえ漂泊を始め、風潮流によって220度を向首して東南東方にゆっくりと流されながら、無蓋の操縦席に船尾方を向いて腰を掛け、また、友人2人は船尾部の物入れの上に船首方を向いて腰を掛け、それぞれ釣りを続けた。

13時47分半B受審人は、左舷船尾30度1,500メートルのところに自船に向首した住吉丸を初めて視認し、やがて同船が衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたが、自船が漂泊しているときにはいつも航行中の他船が自船を避けていたので、住吉丸もその内に避けるものと思った。そのため同受審人はその後住吉丸の動静を十分に監視しなかったので、同船が自船を避航せずに接近していることに気付かず、シーアンカー索を解き放して機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けた。
13時50分少し前B受審人は、至近に接近した住吉丸に気付いたが、どうすることもできず、友人2人とともに海に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住吉丸は、左舷船首に亀裂を生じたが、のち修理され、ヒカリは、船尾部などを圧壊し、針尾漁港に曳航されたが、沈没してのち廃船となった。また、B受審人及び友人の1人がともに全治1週間の頸部捻挫などの負傷をした。


(原因)
本件衝突は、佐世保港の港口付近において、住吉丸が、見張り不十分で、漂泊中のヒカリを避けなかったことによって発生したが、ヒカリが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、佐世保港内を港口に向けて航行する場合、操舵室内のいすに腰を掛けると、船首方に死角が生じる状況であったから、前路の他船を見落とさないよう、操舵室上部の天窓から顔を出すなどの死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに同人は、いすに腰掛けるに当たり、前路に他船を認めず、また、いすに腰を掛けたのち見ていたレーダーに船影を認めなかったので、前路に他船はいないと思い、死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のヒカリに気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、住吉丸の左舷船首に亀裂(きれつ)を生じさせ、また、ヒカリの船尾部などを圧壊してこれを廃船にさせ、B受審人及び同人の友人1人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、佐世保港の港口付近で漂泊して釣りを行っているとき、自船に向首して接近する住吉丸を認めた場合、同船が避航措置をとっているかどうかを判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が漂泊しているときには、いつも航行中の他船が自船を避けていたので、住吉丸もその内に自船を避けるものと思い、その後住吉丸に対する動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船が自船を避航せずに接近していることに気付かず、シーアンカー索を解き放して機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年12月9日長審言渡
本件衝突は、ヒカリ3号が、港内航路においてみだりに停留していたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、住吉丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。


参考図






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