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1999年(平成11年)

平成10年第二審第8号
    件名
貨物船美保丸貨物船ワン ハイ 212衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月22日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審門司

山崎重勝、米田裕、養田重興、森田秀彦、吉澤和彦
    理事官
平田照彦

    受審人
A 職名:美保丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:ワンハイ212水先人 水先免状:関門水先区
    指定海難関係人

    損害
美保丸・・・船首部外板及び球状船首圧壊
ワ号・・・左舷前部凹損

    原因
美保丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ワ号・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人B、補佐人辰巳和正

    主文
本件衝突は、小型船である美保丸が、見張り不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるワンハイ212の進路を避けなかったことによって発生したが、ワンハイ212が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月4日01時59分
関門港竹ノ子島西方
2 船舶の要目

船種船名 貨物船美保丸 貨物船ワンハイ212
総トン数 199トン 17,138トン
全長 56.04メートル 174.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 647キロワット 8,973キロワット

3 事実の経過
美保丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、大豆500トンを載せ、船首2.25メートル船尾3.75メートルの喫水をもって、平成8年8月3日10時15分岡山県水島港を発し、福岡県博多港に向かった。
A受審人は、23時ごろ本山灯標の東南東方約8海里の地点で昇橋し、航行中の動力船が掲げる所定の灯火を表示していることを確かめた後、前直の甲板員と交替して単独で船橋当直に当たり、関門港東口の部埼灯台沖に向けて自動操舵のまま航行を続けた。
A受審人は、関門港を頻繁に通過し、同港においては自船が港則法の命令の定める小型船であり、小型船及び雑種船以外の船舶(以下「大型船」という。)の進路を避けなければならないことを十分に承知しており、翌4日01時05分部埼灯台沖を通過し、間もなく前路に同航の引船列を認めたので手動操舵に切り替え、中央水道を経て関門航路を西航した。

A受審人は、関門橋を通過した後、航行船が少なかったので自動操舵とし、山底ノ鼻から大山ノ鼻に至る屈曲部を通航するときには手動操舵としたものの、同屈曲部を通過した後、再び自動操舵に切り替え、01時54分台場鼻灯台から171度(真方位、以下同じ。)1,230メートルの地点において、針路を316度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて12.0ノットの対地速力で関門第2航路に向けて進行した。
01時56分A受審人は、台場鼻灯台から201度760メートルの地点に達したとき、右舷船首28度1,630メートルのところに、ワンハイ212(以下「ワ号」という。)が表示している白、白、紅3灯を視認することができ、その灯火模様から同号が大型船で、その後衝突のおそれがある態勢で接近することを知ることができる状況であった。しかしながら、同受審人は、自船の900メートルばかり前方を同航する小型船に接近していたことから、操舵室中央の操舵スタンドの後方に立って同船の動静監視に専念し、右舷方の見張りを行わなかったので、ワ号の存在とともに同号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないで続航した。

01時57分A受審人は、台場鼻灯台から230度700メートルの地点で、ワ号が連続して発した閃光による発光信号を認め、同号が大型船であり、右舷船首30度1,070メートルのところに接近していることを初めて知った。
そこで、A受審人は、ワ号の進路を避けようと思って右舵一杯をとろうとして操舵輪を右に回したものの、同号を近距離に初認したことに驚いて自動操舵としていることを失念し、手動操舵に切り替えなかったことから、美保丸は右舵がとられず直進を続けた。ところが、同受審人は、気のあせりから舵角指示器を確認しなかったので、右舵がとられていないことに気付かず、ワ号が接近するのに右への回頭が始まらないまま直進することに動転し、速やかに機関を全速力後進にかけて行きあしを止めることに思い至らず、同時58分少し過ぎ同号が380メートルに接近したとき、ようやく機関を全速力後進にかけたが、効なく、01時59分台場鼻灯台から273度1,020メートルの地点において、美保丸は、原針路のまま、約6ノットの速力で、その船首がワ号の左舷前部に前

方から88度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近海域には0.8ノットの北北西に流れる潮流があった。
また、ワ号は、船尾船橋型のコンテナ船で、船長Cほか19人が乗り組み、コンテナ貨物約11,900トンを載せ、船首7.90メートル船尾9.10メートルの喫水をもって、同月3日20時48分博多港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
C船長は、翌4日01時30分六連島灯台の北方約1海里の地点でB受審人を乗せ、自らと二等航海士の在橋のもと同受審人に水先させ、操舵手に手操舵を行わせて関門航路に向かった。
B受審人は、01時38分関門航路北口に達したところで機関を港内全速力前進にかけて同航路を南下し、同時56分台場鼻灯台から319度1,130メートルの地点で、針路を194度に定め、折からの潮流に抗して9.0ノットの対地速力で進行した。

定針したとき、B受審人は、左舷船首30度1,630メートルのところに美保丸が表示する白、白、緑3灯を初めて認め、その灯火模様から同船が小型船であることを知り、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、関門航路を北上するのか、関門第2航路に向かうのか分らなかったので、注意を喚起するため長音1回の汽笛信号を行った。その直後同受審人は、美保丸の船首が右方に振れたように感じたので、関門航路をそのまま北上するものと思っていたところ、間もなく関門第2航路に向いていることが分かり、同時57分台場鼻灯台から306度1,000メートルの地点に達し、美保丸が左舷船首28度1,070メートルに接近したとき、C船長の指示によって二等航海士が閃光による発光信号を連続して行ったのを知った。
01時57分半B受審人は、美保丸が左舷船首26度800メートルに接近し、依然、衝突のおそれがあったが、自船が全長約175メートルの船舶で、小型船である美保丸と近距離に接近した状況では、方位の変化があっても衝突のおそれがあることを考慮した動静監視を行わなかったことから、このことに気付かず、方位が右方に変化しているから衝突は避けられると思い、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるとか、右舵一杯をとるなどの衝突を避けるための措置をとらないで続航中、同時58分少し過ぎ同船と300メートルに接近したとき、ようやく衝突の危険を感じて右舵一杯を令したが、及ばず、ワ号は船首が224度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、美保丸は船首部外板及び球状船首を圧壊し、のち修理され、ワ号は左舷前部に凹損を生じた。

(航法の適用)
本件は、港則法が適用される関門港竹ノ子島西方において、夜間、関門第2航路に向かって関門航路を北上中の小型船である美保丸と、同航路を南下中の大型船であるワ号とが衝突した事件であり、港則法第18条第2項の適用の可否について検討する。
港則法第18条第2項は、命令の定めるトン数以下の小型船は、命令の定める船舶交通の著しく混雑する特定港内においては、大型船の進路を避けなければならない旨、同法施行規則第8条の2は、関門港をその特定港とし、同港においては命令の定めるトン数を300トンとする旨それぞれ定めているが、夜間においては、同法第18条第2項の適用を除外する規定はない。
一方、港則法第18条第3項は、大型船は前項の特定港を航行するとき、命令の定める標識をマストに見やすいように掲げなければならない旨、同法施行規則第8条の3は、その標識を国際信号旗数字旗1とする旨それぞれ定めているが、夜間の標識についての規定はない。

このように、大型船に対して標識を掲げるように定めているのは、大型船であるかどうかの識別を容易にするためであるが、夜間の標識についての規定がないのは、夜間においては、船舶の交通量が少ないこと及び簡便で有効な夜間の標識が見当たらないことなどによるものである。
このことから、操船者は、昼間においては、相手船が大型船であるかどうかの識別を、国際信号旗数字旗1の標識を掲げているか否かによって行うことが可能であるが、夜間においては、その標識によって識別することができないので、その灯火模様などから判断しなければならず、両船の操船者相互の認識と判断にそごを生じた場合、衝突の危険が生じることになりかねないので、慎重な判断が必要となる。
本件の場合、美保丸のA受審人は、自船が命令の定める小型船で、ワ号が大型船であると認識しており、ワ号の水先にあたったB受審人は、当廷において、「自船が大型船で、美保丸をその灯火模様から小型船に該当する船舶であると判断した。」旨述べており、両船の操船者相互の認識と判断がともに一致しており、港則法第18条第2項を適用するのが相当である。


(原因)
本件衝突は、夜間、関門港竹ノ子島西方において、小型船である美保丸が、関門航路を関門第2航路に向けて北上中、見張り不十分で、関門航路を南下する大型船であるワ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ワ号が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、関門港竹ノ子島南方の関門航路を関門第2航路に向けて北上する場合、関門航路を南下するワ号を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路の同航船の動静監視に専念し、右舷方の見張りを行わなかった職務上の過失により、同号と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま進行し、ワ号との衝突を招き、美保丸の船首部外板及び球状船首を圧壊させ、ワ号の左舷前部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、ワ号の水先に当たって関門港竹ノ子島西方の関門航路を南下中、関門第2航路に向けて進行する小型船の美保丸を左舷船首方に認めた場合、自船が全長175メートルの船舶であり、小型船の美保丸と近距離に接近した状況では、方位の変化があっても衝突のおそれがあることを考慮した動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに同受審人は、自船と小型船が近距離に接近した状況では、方位の変化があっても衝突のおそれがあることを考慮した動静監視を行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがあることに気付かず、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるとか、右舵一杯をとるなどの衝突を避けるための措置をとらず、美保丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって、主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年3月10日門審言渡
本件衝突は、関門航路から関門第2航路に出ようとする美保丸が、見張り不十分で、関門航路を航行するワンハイ212の進路を避けなかったことによって発生したが、ワンハイ212が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。


参考図






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