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1999年(平成11年)

平成8年第二審第12号
    件名
貨物船第三にちあす丸引船第12神海丸引船玉丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月23日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審広島

松井武、小西二夫、山崎重勝、平田照彦、雲林院信行
    理事官
亀山東彦

    受審人
A 職名:第三にちあす丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第12神海丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:玉丸船長 海技免状:五級海技士(旋毎)
D 職名:玉丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
にちあす丸…左舷船首音ハンドレール曲損、同部外板凹損
玉丸…右舷中央部外板、船橋の右舷側壁、防舷材等凹損

    原因
玉丸引船列…動静監視不十分、海交法の航法(避航動作)不遵守(主因)
にちあす丸…動静監視不十分、警告信号、海交法の航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人B

    主文
本件衝突は、航路外から航路に入る第12神海丸玉丸引船列が、動静監視不十分で、航路をこれに沿って航行する第三にちあす丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三にちあす丸が、動静監視不充分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年6月26日20時16分
瀬戸内海備讃瀬戸北航路
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三にちあす丸
総トン数 699トン
全長 69.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
船種船名 引船第12神海丸 引船玉丸
総トン数 298.06トン 196.92トン
全長 31.00メートル 29.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,353キロワット 1,912キロワット
船種船名 起重機船海星
総トン数 約10,604トン
全長 110.00メートル
幅 39.00メートル
深さ 7.00メートル
3 事実の経過
第三にちあす丸(以下「にちあす丸」という。)は、アスファルトのばら積輸送に従事する船尾船橋型タンク船で、A受審人ほか6人が乗り組み、アスファルト1,200トンを載せ、船首3.40メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成6年6月26日13時00分和歌山県和歌山下津港を発し、瀬戸内海経由で新潟県新潟港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び甲板長の3人による単独4時間3直制と決めたうえ、20時00分波節岩灯標から029度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で船橋当直に就き、航行中の動力船の掲げる法定灯火が点灯されていることを確認し、針路を備讃瀬戸北航路に沿う250度に定め、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折からの西南西流に乗じて12.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
そのころA受審人は、正船首わずか右寄り1.2海里のところに、第12神海丸(以下「神海丸」という。)及び玉丸に曳(えい)航された海星の灯火を初めて確認し、引船列が自船とほぼ同一針路で航行していることや自船の速力より遅いことを知った。
20時10分少し前A受審人は、備讃瀬戸北航路第5号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「備讃瀬戸北航路」を省略する。)を右舷正横170メートルに見る、備讃瀬戸北航路の屈曲点に達したとき、針路をほぼこれに沿う245度に転じたところ、右舷船首5度800メートルのところに海星の灯火を視認するようになり、同船の針路模様及び同船と第3号灯浮標との相対位置関係から、引船列が同航路の北側に出る態勢であるのを認めた。
A受審人は、20時12分半第5号浮標との第3号灯浮標の中間点あたりに達したころ、右舷前方の引船列が航路外で左転しているのに気付き、同時13分半神海丸を右舷船首10度470メートルのところに見るようになったとき、引船効列が転針を終え、その針路が自船の針路と交差し衝突のおそれがある状況となったが、一べつして引船列は第3号灯浮標の西側で航路外から航路内に入ってくる態勢に見えたことから、同灯浮標を航過するまでは著しく接近することはないものと思い、その動静を十分に監視しなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わないで続航した。
20時15分少し前A受審人は、板持鼻灯台から351度900メートルの地点に至り、海星との距離が90メートルとなったとき、衝突のおそれがあることに初めて気付き、針路を引船列の針路と平行にするつもりで236度に転じた。
ところが、転じた針路が引船列の針路と平行になっておらず、依然、小角度で交差し衝突のおそれがある状況であったがA受審人は、転針したので引船列の左舷側を航過できるものと思い、引き続き引船列に対する動静を監視しないまま自動操舵に切り替え、左舷側ウイングに出て後方から接近する船舶がいないことを確かめたうえ、海図台に赴いてGPSの操作を行っていたので、このことに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないで進行した。
20時16分少し前A受審人は、GPSの操作を終えて前方を見たとき、右舷船首至近のところに海星、左舷船首至近のところに玉丸を認め、手動操舵に切り替えて左舵一杯をとり、機関停止としたが及ばず、20時16分板持鼻灯台から318度850メートルの地点において、にちあす丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、神海丸及び海星の針路線と左方に40度の角度をもった玉丸の曳索の中央部付近に後方から45度の角度で衝突し、同索を切断して玉丸の右舷側中央部に更に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、衝突地点付近海域には約1.5ノットの西南西流があった。
また、神海丸は、船首船橋型押船兼引船で、B受審人ほか6人が乗り組み、2艘(そう)引きの主引船として、船首3.00メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、他方、玉丸は、船首船橋型引船で、C、D両受審人ほか3人が乗り組み、2艘引きの副引船として、船首2.40メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、船首3.00メートル船尾4.00メートルの喫水で2,050トン吊り起重機を備えた非自航型クレーン船海星を回航するため、同日07時50分兵庫県東播磨港を発し、瀬戸内海経由で同県柴山港に向かった。
ところで、引船列は、海星の船首部両舷側にあるビットに係止した直径38ミリメートル(以下「ミリ」という。)の各鋼索に、神海丸の船尾から延出した直径100ミリの化繊製曳索をY字型に繋(つな)ぎ、更に、海星の船首左舷側より約10メートル中央寄りにあるビットに係止した直径50ミリの鋼索に、玉丸の船尾から延出した直径85ミリの化繊製曳索を繋いで、両引船の各船尾端から海星の船首端までの距離が50メートルとなるように各曳索の長さを調整し、引船列の全長を約190メートルとしたもので、神海丸が引船列全体の指揮をとり、玉丸とは必要に応じてトランシーバーで連絡をとりながら海星を曳航した。
B受審人は、神海丸の船橋当直を自らと一等航海士の2人で6時間2直制と決めて、各当直に甲板手1人をつけることにしたうえ、17時30分大槌島付近で船橋当直に就き、19時52分少し過ぎ波節岩灯標から340度600メートルの地点に達したとき、針路を備讃瀬戸北航路に沿う250度に定め、機関を6.0ノットの全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて7.5ノットの対地速力で、甲板手を手動操舵につけて進行した。
また、C受審人は、玉丸の船橋当直を4時間3直制と決めたうえ、19時40分広島と牛島の中間地点付近に至ったころ、当直交替で昇橋したD受審人に、神海丸との間隔を20ないし30メートルに保って曳航するように指示し、降橋して休息した。
一方、当直に就いたD受審人は、手動操舵に当たって神海丸との間隔を保ちながら、常に同船が決める針路、速力に追従するように操船し、副引船としての任務に努めた。
こうして、B受審人は、19時52分少し過ぎ波節岩灯標を左舷正横付近に見るころ、船尾方ににちあす丸の航海灯を初めて視認し、20時05分半第5号灯浮標を右舷正横に170メートル離して並航し、備讃瀬戸北航路の屈曲点に達したとき、同船が徐々に近付いてきていることを知った。
そこで、B受審人は、更に航路の右側に寄せるつもりて暫(しばら)くの間直進することとし、250度の針路のまま進行するうち、20時11分半板持鼻灯台から010度1,200メートルの地点で、備讃瀬戸北航路の北側境界線から引船列全体が航路外に進出したが、このことに気付かないで続航した。
20時12分半B受審人は、備讃瀬戸海上交通センターからVHFで呼び出され、そのまま進行すると第3号灯浮標に著しく接近する旨を注意されたが、船位を確認することをしなかったので、依然、航路外を西行していることに気付かず、同灯浮標の南側に向ける旨を返答して左転を始めた。
20時13分半B受審人は、板持鼻灯台から350度1,000メートルの、第3号灯浮標まで500メートルばかりに接近した地点で転針を終え、針路を同灯浮標を正船首わずか右方に見る231度としたとき、航路内をこれに沿って西行するにちあす丸が左舷船尾24度470メートルのところに接近し、その後同船との方位が変わらないで衝突のおそれがある状況となったが、第3号灯浮標との航路距離が近かったことから、海星が同灯浮標を無難に航過することができるか否かに気を取られ、にちあす丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなどして同船の進路を避けないまま続航した。
一方、D受審人は、VHFを傍受して、神海丸の動きに併せて小角度の左転を繰り返し、20時15分少し前左舷船尾12度300メートルのところに、にちあす丸の航海灯を初めて視認したが、後方から接近する同船が自船の進路をかわして行くものと思い、その後は神海丸との間隔を保持することに注意しながら進行した。
20時15分半B受審人は、海星の左舷側至近のところに並んだにちあす丸の白、白、緑3灯を認め、汽笛を連吹して同船に対し注意喚起を行い、同じころ神海丸及び海星の針路と左方に40度開いて神海丸に並走していたD受審人も、右舷船尾至近に迫ったにちあす丸に気付いて、右舵をとるとともに汽笛を連吹したが及ばず、前示のとおり衝突した。
C受審人は、自室で休息中、汽笛の連吹音を聞いて異常を感じ、急いで昇橋する途中、にちあす丸と衝突するのを目撃し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、にちあす丸は、左舷船首部ハンドレールに曲損、同部外板に凹損を、玉丸は、右舷中央部外板、船橋の右舷側壁や防舷材等に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、瀬戸内海備讃瀬戸北航路において、航路外から航路内に入る第12神海丸玉丸引船列が、動静監視不十分で、航路内をこれに沿って航行するにちあす丸の進路を避けなかったことによって発生したが、にちあす丸が動静監視不十分で、警告言号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、引船列全体の運行指揮に当たって瀬戸内海備讃瀬戸北航路の航路外を西行中、針路を左方に転じた場合、左舷後方ににちあす丸が航行していることを知っていたのであるから、同船に対する衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、第3号灯浮標との航過距離が近かったことから、海星が同灯浮標を無難に航過することができるか否かに気を取られ、にちあす丸に対する動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがあることに気付かず、航路外から航路内に入る第12神海丸玉丸引船列が、航路内を航行するにちあす丸の進路を避けないで、同船との衝突を招き、玉丸の右舷中央部外板、船橋右舷側壁や防舷材等に凹損及びにちあす丸左舷船首部ハンドレールに曲損、同部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、瀬戸内海備讃瀬戸北航路をこれに沿って西行中、右舷前方の航路外で引船列が左転して航路内に入る態勢となったのを認めた場合、同引船列に対する衝突の有無を判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、一べつして引船列は第3号浮標の西側から航路内に入ってくる態勢に見えたことから、同灯浮標を航過するまでは著しく接近することはないものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、玉丸と衝突のおそれがあることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないで、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
D受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成8年3月28日広審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、航路外から航路に入る態勢の第12神海丸玉丸引船列が、動静監視不十分で、航路をこれに沿って航行中の第三ちあす丸の進路を避けなかったことに因って発生したが、第三にちあす丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力働作をとらなかったこともその一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。

参考図I

参考図II






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