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1999年(平成11年)

平成10年第二審第2号
    件名
漁船第3進栄丸プレジャーボート公進丸II衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月7日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審函館

伊藤實、米田裕、山崎重勝、森田秀彦、上中拓治
    理事官
亀山東彦

    受審人
A 職名:第3進栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:公進丸II船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
進栄丸…船首部外板の塗膜を剥離
公進丸…右舷船首に破口、同乗者1人が左肩などに約10日間の通院加療を要する打撲傷

    原因
進栄丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
公進丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
補佐人田川俊一

    主文
本件衝突は、第3進栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の公進丸IIを避けなかったことによって発生したが、公進丸IIが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月14日13時10分
北海道増毛港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第3進栄丸 プレジャーボート公進丸II
総トン数 7.03トン
全長 15.20メートル 7.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 110キロワット
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第3進栄丸(以下「進栄丸」という。)は、帆立て貝養殖漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び甲板員の2人が乗り組み、養殖かご設置の目的で、稚貝入りの同かご380個を積載し、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成8年9月14日12時58分増毛港弁天岸壁を発し、同港北方2海里半ばかり沖合の養殖漁場に向かった。
ところで、進栄丸は、船首部に甲板上の高さ約2メートル(以下、高さについては甲板上の高さを示す。)幅約1.5メートルの操舵室(以下「船首操舵室」という。)を、また、中央よりやや後方の右舷寄りに舵及び機関を操作できる操舵室(以下「後部操舵室」という。)を備えていたが、当時、船首操舵室と後部操舵室の間の甲板上に、養殖かごが約2.8メートルの船幅一杯にわたって約2メートルの高さまで積み上げられていたので、後部操舵室の操舵位置からは、右舷船首約5度から左舷船首約10度までの範囲が死角となり、前方の見通しが妨げられる状況であった。
A受審人は、発航後、船首操舵室で操船に当たり、13時02分半増毛港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から071度(真方位、以下同じ。)100メートルの地点で、針路を同灯台から348度2.4海里のところに設置されている、養殖漁場南端のボンデンに向く341度に定め、機関を13.0ノットの全速力前進として進行した。
定針したころA受審人は、正船首1.6海里のところに公進丸II(以下「公進丸」という。)が標泊していたが、自船が同業船の中で一番早く出港したことから、前路に他船はいないものと思い、前方を一瞥(いちべつ)しただけであったので同船に気付かず、間もなく、後部操舵室の左舷側甲板上で養殖かごの吊り下げ準備をしていた甲板員に、その要領を教えるため同室に移動し、レバー操舵によって続航した。
13時07分半A受審人は、北防波堤灯台から344度1.1海里の地点に達したとき、公進丸が正船首1,000メートルとなり、同船が漂泊中であることを認め得る状況で、その後、衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振ったり、左右の舷側から身を乗り出すなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、甲板員の指導に当たりながら、同船を避けることなく進行した。
A受審人は、13時08分半北防波堤灯台から344度1.3海里の地点に至ったとき、公進丸に600メートルまで接近したものの、依然、前路の見張りを不十分としたまま、同船を避けることなく続航し、同時09分少し過ぎその距離が300メートルとなったころ、同船が行った警告信号にも気付かないで進行中、13時10分北防波堤灯台から343度1.6海里の地点において、進栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が公進丸の右舷船首にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、公進丸は、キャビン付のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人及び子供1人を同乗させ、遊漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、同日10時00分増毛港を発し、クルージングをした後、11時ごろ前示の養殖漁場付近に至り、漂泊して釣りを開始した。
その後B受審人は、ときどき釣り場を変え、12時15分ごろ前示衝突地点付近の比較的潮流の影響が少ない釣り場に移動し、機関を停止したのち、船首から直径約2.5メートルのパラシュート型シーアンカーを投入し、直径約2センチメートルの合成繊維製のシーアンカー索(以下「アンカー索」という。)を15メートルばかり繰り出し、引揚げ索とともに船首クリートに係止して釣りを続けた。
13時02分半B受審人は、釣りを中断して船尾で同乗者と昼食の準備をしながら増毛港の方に目を向けたとき、進栄丸が1.6海里離れた北防波堤の先端付近を通過して来航するのを初めて視認したが、まだ距離があったことから、同船から目を離して食事の準備を続けた。
13時07分半B受審人は、前示衝突地点で、自船が071度を向いていたとき、進栄丸が右舷正横1,000メートルとなり、その後、衝突のおそれのある態勢で接近し、同時08分半には自船を避ける措置をとらないまま600メートルとなったが、衝突のおそれがあれば自船が漂泊しているので航行中の進栄丸が避けてくれるものと思い、同船の動静を監視していなかったので、このことに気付かず、更に接近しても同船が自船を避けないときには、自ら衝突を避けることができるよう、アンカー索を離しておくとか、引揚げ索を引いてシーアンカーの抵抗をなくしておくなどの措置をとることなく漂泊を続けた。
13時09分少し過ぎB受審人は、同乗者の叫び声を聞いて右舷方を見たとき、進栄丸が正横300メートルに近付いているのを認め、船首操舵室に人影が見えなかったことから衝突の危険を感じ、急いでキャビンに赴(おもむ)いて電気ホーンによる警告信号を行ったあと、機関を始動して、全速力後進としたが、アンカー索を離すなどしていなかったので、衝突を避けることができず、公進丸は、シーアンカーの抵抗でわずかに後退して止まり、071度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、進栄丸は、船首部外仮の塗膜を剥離(はくり)しただけであったが、公進丸は、右舷船首に破口を生じ、同乗者1人が左肩などに約10日間の通院加療を要する打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、増毛港沖合において、進栄丸が、帆立て貝養殖漁場に向けて航行中、見張り不十分で、前路でシーアンカーを投入して漂泊中の公進丸を避けなかったことによって発生したが、公進丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、増毛港沖合において、船首方向に死角のある後部操舵室で操船に当たる場合、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振ったり、左右の舷側から身を乗り出すなどして、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の公進丸を見落とし、同船を避けることなく進行して衝突を招き、公進丸の右舷船首に破口を生じさせ、同船の同乗者1人に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、増毛港沖合において、釣りのためにシーアンカーを投入して漂泊中、同港北防波堤の先端付近を通過して来航する進栄丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、その動静を監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の進栄丸が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、その動静を監視しなかった職務上の過失により、進栄丸の接近に気付くのが遅れ、衝突を避けるための措置をとることができずに同船との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせ、同乗者を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年1月22日函審言渡
本衝突は、第3進栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の公進丸IIを避けなかったことによって発生したが、公進丸IIが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置が間に合わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

参考図






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