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1999年(平成11年)

平成8年第二審第39号
    件名
旅客船こすもす漁船明石丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月19日

    審判庁区分
高等海難審判庁

葉山忠雄、松井武、養田重興、山崎重勝、吉澤和彦
    理事官
森田秀彦

    受審人
A 職名:こすもす船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:明石丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
こすもす…左舷船首部に軽微な擦過傷と左舷船首部に小破口を伴う凹損
明石丸…船尾甲板の揚網用やぐらなどを曲損

    原因
こすもす…港則法の航法(港の防波堤の入口、避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、明石港に入航するこすもすが、防波堤の外で出航する明石丸の進路を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成5年12月1日18時08分
兵庫県明石港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船こすもす 漁船明石丸
総トン数 88トン 4.99トン
全長 26.43メートル
登録長 11.05メートル
幅 6.93メートル 2.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
こすもすは、船体前部に船橋を有し、二基二軸の双胴の軽合金製旅客船で、兵庫県岩屋港と同県明石港との間で定期運航に従事していたところ、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客44人を乗せ、船首1.00メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成5年12月1日18時00分岩屋港を発し、明石港に向かった。
発航後、A受審人は、操船の指揮につき、18時02分半江崎灯台から067度(真方位、以下同じ。)1,300メートの地点で、針路を339度に定め、機関の回転数を毎分1,900の25.0ノットの全速力前進とし、甲板員を手動操舵に、一等航海士と機関長とを見張りにそれぞれ当たらせ、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
ところで、明石港は港則法の適用される港で、内港泊地及びフェリーの発着する東外港泊地の入口は、東外港西防波堤と同南防波堤とで構成され、入口の可航幅が約80メートルであった。
R株式会社は、運行管理規定細則に、入港するときの速力を防波堤の入口から200メートル沖合で5ノット以下とすること、明石港に入港する際は南方200メートルで港口に向け、出港船の有無を確認したのち、水路の右側を航行して入港することなどを定めていた。更に、同社の運航管理者は、こすもすにあっては回転数が大きいと前進から後進とする際に機関が後進に入らないことから、同沖合に達するまでに回転数を毎分800ないし900に減じることを指示していた。
A受審人は、船長として長年の経験を有して運航に当たり、18時06分少し過ぎ内港泊地に明石丸の白灯1個を初認してこれを監視するうち、同時06分半明石港東外港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から151度720メートルの地点に達したとき、左舷船首4度980メートルに同船の白、緑2灯を視認し、その点灯模様から出航する小型漁船で、防波堤の入口付近で出会うおそれのあるのを知った。
ところが、A受審人は、明石丸が緑灯を見せているので右舷を対して航過しようと思い、針路を右方に転じるなり、速力を大幅に減じるなどして、防波堤の外で出航する同船の針路を避けることなく、自ら手動操舵に当たって針路を左方に転じ、西防波堤灯台に向く331度とすると共に、機関を指示された回転数に減じないまま、毎分1,300とし15.0ノットで続航した。
18時07分少し前A受審人は、一等航海士が明石丸に対し自船の存在を示すために探照灯を照射したので、同船が自船に気付き、そのままの針路で航行するものと思い、原針路で進行していたところ、同時07分少し過ぎ同船が右舷船首6度430メートルのところで徐々に右転を始めて白、紅2灯を見せる態勢となったのに、依然、右舷を対して航過しようと思い、防波堤の外で同船の進路を避ける措置をとらないで続航した。
18時08分少し前A受審人は、右舷船首至近に同船の白、紅2灯が迫り、危険を感じて機関を中立続いて後進としたところ、回転数が大きくて機関が後進にかからず、18時08分西防波堤灯台から151度10メートルの地点において、原針路、原速力のまま、こすもすの左舷船首が、明石丸の左舷後部に前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な東流があった。
その後、こすもすは、行きあしが停止しないまま東外港西防波堤の南東端に衝突した。
また、明石丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組んで操業を終えたのち、西防波堤灯台から012度450メートルの明石港内港泊地岸壁で漁獲物の水揚げ作業を行い、同作業を手伝った妻を乗せ、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日18時05分同地点を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同港西外港泊地の係留地点に向かった。
B受審人は、18時06分半西防波堤灯台から343度260メートルの地点で、針路を防波堤入口に向く154度に定め、機関を6.0ノットの半速力前進にかけ、手動操舵により進行し、同時07分少し前船首方750メートルに、こすもすが照射した探照灯を視認し、同灯火が明るすぎてその航海灯を見ることができなかったものの、入航する旅客船で防波堤の入口付近で出会うおそれのあるのを知った。
そこで、B受審人は、こすもすが防波堤の外で自船を避けるか、あるいは、防波堤入口の右側に寄って入航してくるものと思い、念のため自船も同入口の右側に寄るよう、18時07分少し過ぎ西防波堤灯台から357度110メートルの地点で、針路を174度に転じて続航した。
18時08分少し前B受審人は、東外港西防波堤の南東端を至近に航過したとき、こすもすがそのまま直進しているのを見て衝突する危険を感じ、同船の前方を航過しようと右舵一杯として速力を上げたが効なく、船首が226度を向き、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、こすもすは、明石丸との衝突で左舷船首部に軽微な擦過傷と前示防波堤との衝突で左舷船首部に小破口を伴う凹損とを生じ、明石丸は、船尾甲板の揚網用やぐらなどを曲損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、兵庫県明石港に入航するこすもすと出航する明石丸とが、防波堤の入口付近で出会うおそれがあった際、こすもすが、防波堤の外で出航する明石丸の進路を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兵庫県明石港に入航のため、防波堤の入口に向け航行中、出航する明石丸の灯火を視認し、同入口付近で出会うおそれのあるのを知った場合、針路を右方に転じるなり、速力を大幅に減じるなどして、防波堤の外で出航する明石丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷を対して航過しようと思い、防波堤の外で出航する明石丸の針路を避けなかった職務上の過失により、航行を続けて同船との衝突を招き、こすもすの左舷船首部に擦過傷及び明石丸の揚網用やぐらに曲損などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成8年10月22日神審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、入航するこすもすが、防波堤の外で出航する明石丸の針路を避けなかったことに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。

参考図






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