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1999年(平成11年)

平成9年第二審第34号
    件名
漁船宏平丸漁船忠漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審函館

松井武、小西二夫、山崎重勝、吉澤和彦、平田照彦
    理事官
森田秀彦

    受審人
A 職名:宏平丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:忠漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
宏平丸…損傷なし
忠漁丸…右舷中央部が大破して全損

    原因
宏平丸、忠漁丸…狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    二審請求者
理事官千手末年

    主文
本件衝突は、宏平丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか、目視できるようになった際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、忠漁丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか、目視できるようになった際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月28日07時46分
北海道荻伏漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船宏平丸 漁船忠漁丸
総トン数 4.1トン 2.4トン
全長 13.00メートル
登録長 6.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 180キロワット
漁船法馬力数 17
3 事実の経過
宏平丸は、はえ縄漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たこはえ縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成8年6月28日01時00分北海道荻伏漁港を発航し、同港南南西沖合約9海里の漁場に向かった。
やがて、A受審人は、漁場に達して仕掛けておいたはえ縄の揚縄を行い、たこ約200キログラムを漁獲したのち帰航することとし、07時03分少し前荻伏港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から211度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点で、針路を荻伏漁港に向く031度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて発進した。
まもなく、A受審人は、3海里レンジとしたレーダーに他船の映像を認めなかったので、自動操舵として操舵室から離れ、前部甲板上で揚収したはえ縄の整理にあたり、操業中にかかってきた霧によって視程が約200メートルに制限されている状況であったが、汽笛を装備していなかったため、霧中信号を行うことができないまま進行した。
07時41分A受審人は、南防波堤灯台から213度3.1海里の地点に達したとき、レーダーにより忠漁丸の映像を左舷船首37度0.6海里に探知でき、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、前路に航行中の他船はいないものと思って漁具の整理を続け、レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止することなく続航した。
07時45分わずか過ぎA受審人は、霧の中から現れた忠漁丸を左舷船首37度約200メートルに目視できるようになり、衝突の危険のある態勢で接近する状況であったが依然漁具の整理に没頭していて見張りを十分に行わず、また、同船が霧中信号を行っていなかったこともあって、このことに気付かず、速やかに転針するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
07時46分わずか前A受審人は、ふと顔をあげで前方を見たとき、忠漁丸の船体を認めたもののどうすることもできず、07時46分南防波堤灯台から214度2.2海里の地点において、宏平丸の左舷船首が原針路、原速力のまま、忠漁丸の右舷中央に後方から44度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力2の東南東風が吹き、視程は約200メートルであった。
また、忠漁丸は、はえ縄魚業などに従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たこはえ縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時00分荻伏漁港を発航し、同港南西沖合約4海里の漁場に向かった。
やがて、B受審人は、漁場に達して仕掛けておいたはえ縄の揚縄を行い、たこ約70キログラムを漁獲したのち帰航することとしたが、操業中にかかってきた霧のため視程が約200メートルに制限され、荻伏漁港南西沖合に設置された定置網を視認できなかったので、いったん東進して同網の東側に移動したことをレーダーの陸岸映像で確かめてから同港に向け北上することとし、07時33分南防波堤灯台から228度3.3海里の地点を発進し、針路を075度に定め、機関を6.0ノットの全速力前進にかけて手動操舵により進行した。
B受審人は、備え付けのレーダーが不良で、陸地は何とか探知できるものの、小型船舶や定置網に取り付けられたレーダー反射板付きの浮き玉などを探知することができない状況であったのに、その時の状況に適した距離で停止できるよう安全な速力とすることも、有効な音響による霧中信号を行うこともしないまま続航するうち、07時41分南防波堤灯台から221度2.7海里の地点に達したとき、宏平丸が右舷正横後9度0.6海里に接近し、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、同船が霧中信号を行っていなかったこともあって、このことに気付かなかった。
やがて、B受審人は、07時45分わずか過ぎ霧の中から現れた宏平丸を右舷正横後9度約200メートルに目視できるようになり、衝突の危険のある態勢で接近する状況であったが、接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、前路のみを注視していてこのことに気付かず、速やかに機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
07時46分少し前B受審人は、右舷至近に迫った宏平丸を認めたもののどうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宏平丸に損傷はなかったが、忠漁丸は右舷中央部が大破して全損となった。

(原因)
本件衝突は、霧中、北海道荻伏漁港沖合において、宏平丸が、汽笛不装備で霧中信号を行うことができず、かつ、レーダーによる見張り不十分で、前路の忠漁丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止しなかったばかりか、同船を目視できるようになった際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、レーダーが不良の忠漁丸が、有効な音響による霧中信号を行わず、かつ、その時の状況に適した距離で停止できるよう安全な速力で航行しなかったばかりか、宏平丸を目視できるようになった際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、視程が約200メートルに制限された北海道荻伏漁港沖合から同港に向け帰航する場合、前路の忠漁丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場発進時レーダーに他船の映像を認めなかったので、航行する他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、忠漁丸と著しく接近することを避けることができない状況にあることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、同船を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、レーダーが不良で小型船舶を探知できない状況のもと、視程が約200メートルに制限された北海道荻伏漁港沖合から同港に向け帰航する場合、接近する宏平丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、宏平丸を目視するのが遅れ、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項3号を適用して同人を戒告する。

よって、主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成9年10月21日函審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、宏平丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、忠漁丸が視界制限状態における運航が適切でなかったことに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

参考図






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