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1999年(平成11年)

平成11年横審第62号
    件名
遊漁船第三かあちゃん丸釣客死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年月10月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、河本和夫、西村敏和
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:第三かあちゃん丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
釣客が溺水で死亡

    原因
釣客の安全確保に対する配慮不十分

    主文
本件釣客死亡は、釣客の安全確保に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月27日13時50分
江戸川上流17キロメートル地点
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第三かあちゃん丸
総トン数 4.9トン
登録長 11.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 51キロワット
3 事実の経過
第三かあちゃん丸(以下「か丸」という。)は、最大搭載人員36人の一層甲板型FRP製屋形船で、甲板上船首部から中央部にかけて客室が、同室後側中央部に機関室用ハウスが配置され、同ハウス後部壁に操縦台があって、操舵ハンドル、機関操作用ハンドル及び機関計器盤などが装備され、船首甲板にはストックアンカー、係留用ロープ及び黒球が、船尾甲板には簡易トイレが設置されていたほか、屋根上には梯子(はしご)、木製手かぎ及び脚立が置かれ、釣客に貸し出し用の釣り竿(さお)数十本が簡易トイレの外側に立て掛けられていた。

客室の屋根は切り妻型で緑色ペイントが塗装され、室内の広さは長さ約7メートル幅約2.7メートル高さ約1.5メートルで、同室側面とブルワークの間は人が通ることができない程度の甲板上の隙間があるだけで、客室部分のブルワークには高さ約30センチメートルの手すりが取り付けられていた。室内床全面にはござが敷き詰められ、同室船首側の床下倉庫に所定数の救命胴衣が格納されていた。また、客室後部左舷側には乗客に対する乗船中の遵守事項を記載した注意書がプラスチックケースに入れた状態で表示されていた。
操縦台は、甲板上高さが1.17メートルあり、ほぼ機関室用ハウス天井と同じ高さに位置し、同天井から客室屋根の高さは約60センチメートルで、同天井船首側に約40センチメートル四方で高さ約30センチメートルの発砲スチロール製クーラーボックスが2個並べて置かれ、操船者は操縦台に立ち、屋根上から前方を見通して操船に当たるようになっていた。

A受審人は、か丸ほか3隻を所有し、千葉県松戸市七右衛門新田の江戸川上流25キロメートル(以下「キロ」という。)付近の左岸を定係基地として、専ら同河川内及び同河口付近で遊漁船として営業していたが、釣客の要望を入れて釣りの合間に飲食を提供することも合わせて行っていた。
ところで、江戸川の定係基地から下流における状況は、旧江戸川の河口の上流10キロ付近にある江戸川大橋のところで、千葉県市川水路から通じている江戸川と分岐し、上流13.5キロ付近に総武線鉄橋及び市川橋が、同16.7キロ付近に矢切の渡し場が、同17.5キロ付近に常磐線鉄橋及び新葛飾僑がそれぞれあり、更に遡って上流25キロ付近の七右衛門新田の定係基地に達していた。
こうして、か丸は、「江戸川を守る会松戸支部」と称する会に貸し切られ、A受審人ほか調理要員として女性2人が乗り組み、同会会員の親睦及びレクリエーションの目的で、釣客として29人を乗せ、救命胴衣を着用させないまま、平成9年8月27日09時30分江戸川上流21.3キロ付近にあたる、上葛飾橋袂の松戸市古ヶ崎の川辺を発し、10時30分ごろ旧江戸川との分岐点付近で錨を入れ、釣り及び食事を楽しんだ後、釣り場を変えることになり、13時00分抜錨し、上流の矢切の渡し場付近に向かった。

これより先、乗船後釣客全員は、まず客室に集まり、挨拶を済ませて飲酒しながら懇談を交わし、釣り場に着くと適宜釣り竿を取り出し、ある者は後部甲板から舷側で、また、ある者は機関室天井から屋根に上って、それぞれ釣りを行い、11時30分ごろ昼食の準備が整ったところで、小グループに分かれて飲酒しながら、客室内、後部甲板又は同室屋根上で昼食を摂った。
A受審人は、飲酒を含む食事を摂らせた後、矢切の渡し場に向かって上航し、13時40分17キロ地点付近の新葛飾橋の下流750メートル付近の釣り場に到着し、水深2メートルばかりのところに船首を真方位ほぼ045度に向けて再び錨を入れ、錨泊して釣りを行わせることとしたが、乗客に対する乗船中の遵守事項を記載した注意書を掲示してあり、天気も良く揺れもないのでまさか釣客が水中転落することはあるまいと思い、狭い船内で屋根に上がったり、舷縁に上がるなど釣客が飲酒した状態で危険な行動をとったときに速やかに止めることができるよう、釣客の行動を十分に監視できる状況になってから釣りを始めさせることなく、釣り場に到着したので釣りを始めてよい旨を釣客に伝え、操縦台から甲板に降り、機関室内を点検した後、機関を停止した。

釣客Bは、飲酒をしながら昼食を済ませた後、客室屋根の右舷側に上って景色を眺めていたところ、A受審人の釣り場に着いたとの知らせで、釣りをするために屋根後部の機関室用ハウスの天井を伝って甲板に降り、機関室用ハウス横の右舷側舷縁に上がって片手で屋根に掴(つか)まり、片手で屋根上に置いておいた自分の釣り竿を取ろうとしたとき、誤って足を滑らせ、13時50分ごろ仰向けになって右舷側から水中に転落した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、水面は平穏であった。
A受審人は、機関を停止した後、機関室から離れようとしたとき、「人が落ちた。」という叫び声を聞き、右舷側近くに水泡を認め、事後の措置に当たった。
この結果、B釣客(昭和21年11月14日生)は、水中に沈んだまま浮上せず、レスキュー隊に捜索を要請し、15時ごろ救助されて病院に運ばれたが、のち溺水で死亡した。


(原因)
本件釣客死亡は、江戸川上流17キロ地点付近において、レクリエーション目的の釣客を乗せ、飲酒を含む食事を摂らせた後、釣り場を移動し、錨泊して釣りを行わせる際、釣客の安全確保に対する配慮が不十分で、釣客の行動を監視できない状況で釣りを始めさせ、飲酒した釣客が、救命胴衣を着用しないまま右舷側舷縁に上がって屋根上に置いておいた自分の釣り竿を取ろうとし、誤って足を滑らせ、水中に転落したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、レクリエーション目的の釣客を乗船させ、飲酒を含む食事を供するとともに釣りを行わせる場合、狭い船内で屋根に上がったり、舷縁に上がるなど釣客が飲酒した状態で危険な行動をとったときに速やかに止めることができるよう、釣客の行動を十分に監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、乗客に対する乗船中の遵守事項を記載した注意書を掲示してあり、天気も良く揺れもないのでまさか釣客が水中転落することはあるまいと思い、釣り場に到着し機関室内の点検などしているときに釣りを始めてよい旨を伝え、釣客の行動を十分に監視しなかった職務上の過失により、飲酒した釣客が、救命胴衣を着用しないまま右舷側舷縁に上がって屋根上に置いておいた自分の釣り竿を取ろうとし、誤って足を滑らせ、水中に転落するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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