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1999年(平成11年)

平成10年神審第86号
    件名
貨物船広隆丸作業員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、工藤民雄
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:広隆丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
作業員1人が頭蓋骨骨折等により死亡

    原因
離岸作業時の安全不十分

    主文
本件作業員死亡は、離岸作業時の安全確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月30日16時15分
大阪港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船広隆丸
総トン数 198トン
全長 46.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
3 事実の経過
広隆丸は、主に大阪湾周辺で食料油等の輸送に従事する、船尾船橋型の鋼製ケミカルタンカーで、A受審人ほか3人が乗り組み、平成10年1月29日17時30分大阪港大阪区第2区の安治川右岸の防潮堤に、右舷錨を投じたうえ、錨鎖を3節ばかり繰り出して入り船左舷付けで接岸し、船首部からバウラインとスプリングライン、船尾部からスタンラインとスプリングラインをそれぞれ1本ずつ延出して係留したのち、コーン油203トンの揚荷を行った。
翌30日16時00分A受審人は、船首に甲板長、船尾に機関長及び一等機関士をそれぞれ配置し、陸側の作業にBを当たらせ、空倉のまま、船首2.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、神戸港に向け発航することとし、離岸作業に取り掛かった。
ところで、同係留地点は、安治川隧道(ずいどう)入出用エレベータ塔屋の西側に隣接するコンクリート敷き区画の前面にあたり、河川沿いに設けられた防潮堤は頂部幅約0.5メートル地面から高さ約1.8メートルで、同区画には、荷役用パイプ2本を備えた揚荷用構造物が設置されており、同構造物の川下側2箇所に防潮堤から約20センチメートル離して防潮堤とほぼ同じ高さのコンクリート製ピラーが設けられ、その頂部に取り付けたビットや、同構造物川上側の地面に直接立てられた綱製ポスト等が、係船索の係止用に利用されていた。
また、B作業員は、同係留地点近くに住むバージの乗組員で、広隆丸の荷役に何度か関係するうち顔見知りとなり、係船索を放す作業を手伝うため自発的に自宅から出向き、荷役終了の少し前に配置に就いていた。
離岸作業にあたりA受審人は、船橋甲板とほぼ同じ高さとなっていた防潮堤に上がり、B作業員に合図して船首係船索を2本とも外させるとともに、自らスタンラインを外したのち、船尾左舷側のフェアリーダから斜め前方に約8メートル延出された、直径40ミリメートルの合成繊維製スプリングライン1本を残して広隆丸に乗り移り、側にきた防潮堤上の同作業員に、上げ潮により船体が徐々に前進するのに伴ってたるみ始めていた同索を、ピラー上のビットから外すよう依頼して操舵室に入った。
こうして操船に就いたA受審人は、同日16時15分少し前、船尾を防潮堤から離すため機関を使用することとし、操船位置からは船尾スプリングラインやB作業員の様子が見えなかったが、同作業員が既に同索を外したものと思い、すべての係船索が放たれたかどうか安全確認することなく、同作業員が同索を外せないでいることに気付かないまま、左舵一杯を取って機関を極微速力前進にかけたところ、同索に過大な張力が作用して船側付近で切断し、16時15分天保山大橋橋梁灯(L1灯)から真方位055度2.1海里の地点で、B作業員が同索にはねられ防潮堤から陸側に転落した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。船尾配置に就いていた機関長は、防潮堤上でスプリングラインを外そうとしているB作業員を見上げるうち、一旦緩んだ同索が徐々に船尾方に緊張し始めたことを認め、危険を感じて同作業員に大声をかけたとき、同索が切断すると同時に同作業員が見えなくなったので、驚いて操舵室に駆け上がり、A受審人に連絡した。
広隆丸は、そのまま右回頭して再度防潮堤に接舷し、ピラー付け根付近に倒れていたB作業員(昭和4年9月2日生)は手配された救急車で近くの病院に搬送されたが、同日夜半頭蓋骨骨折等により死亡した。

(原因)
本件作業員死亡は、大阪港において、離岸作業時の安全確認が不十分で、係船索が外される前に機関が使用され、緊張した同索が切断して作業員がはねられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、大阪港において、離岸時の操船にあたって機関を使用する場合、係船索が切断して作業員が負傷することなどのないよう、すべての係船索が放たれているか、安全確認を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同索はすべて放たれたものと思い、安全確認を行わなかった職務上の過失により、作業員が最後に残った係船索を外せないでいることに気付かないまま機関を使用し、切断した同索で同作業員がはねられて死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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