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1999年(平成11年)

平成11年神審第19号
    件名
プレジャーボートコーラルガーデン潜水者負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝壽榮、西田克史
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:コーラルガーデン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
潜水者が左足骨折及び左前胸部切創等

    原因
見張り不十分

    主文
本件潜水者負傷は、コーラルガーデンが、見張り不十分で、前路の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
潜水者が、その存在を示さなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月19日09時00分
福井県矢代湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートコーラルガーデン
全長 6.00メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 44キロワット
3 事実の経過
コーラルガーデンは、船体中央部に操縦席を設けた船外機付きFRP製プレジャーモーターボートで、福井県小浜港を基地として釣りなどのレジャー用に使用されていたところ、A受審人が1人で乗り組み、友人や家族など6人を乗せ、海水浴やウェークボードを楽しむ目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成10年7月19日07時00分同港を発し、同港北東方の矢代湾に向かった。
ところで、ウェークボードは、ボードと称する1枚の平板を用いて行う水上スキーの一種で、発進時ボードに乗ったウェークボーダーが被引ロープ端の握り棒につかまって準備を整えたところで、モーターボートなどによって引かれ、滑走を楽しむもので、A受審人は、1年2箇月前から友人所有のプレジャーモーターボートを操船するようになり、主に琵琶湖においてウェークボードを行っていたほか、小浜湾方面においても数回ウェークボードを楽しんだ経験を有していた。
08時00分ごろA受審人は、矢代湾南部の北に開いた内外海漁港志積地区(以下「志積地区」という。)北方西側の海浜に到着し、バーベキューに使用する材料などを下ろしたのち、その近くでウェークボードを開始することとした。
A受審人は、08時40分長さ約1.5メートル幅約0.4メートルのボードに乗って、コーラルガーデンの船尾より延出された長さ約12メートルのナイロン製ロープにつかまり、また、四級小型船舶操縦士の海技免状を受有する友人がコーラルガーデンの操船に当たってウェークボードを開始し、その後対岸との間を適宜東西に往復したりしながらウェークボードを繰り返した。
08時57分A受審人は、志積地区北方東側の海岸から約20メートル離れた、田烏港明神鼻灯台から234度(真方位、以下同じ。)3,000メートルの位置を基部として西方に延びる、長さ120メートルの志積防波堤西端から023度230メートルの地点に至ったとき、バランスを崩して転倒した。そこで、友人がいったん機関のクラッチを中立として停留したところで、A受審人が友人と交替してコーラルガーデンの操船に当たり、一方、友人がボードに乗ってウェークボードを楽しむことにした。
A受審人は、操船に当たるため海中から船首が南方に向いたコーラルガーデンに上がったとき、左舷側約5メートル離れた海面上に潜水遊泳している2人を認めたほか、少し離れた海岸寄りにも同じ仲間と思われるような潜水遊泳者を視認した。
やがて、A受審人は、これらの潜水遊泳者がいずれもシュノーケルなどを使用して潜水したり遊泳したりしていることが分かり、一群から離れた近くに潜水中の者があり得ることが考えられ、また素潜り1回の潜水時間はせいぜい1分足らずで、しばらくの間周囲を見張れば、潜水遊泳者の有無を確かめることができたが、船首部に行ったとき周囲を一べつしただけで前路に障害となるものはないものと思い、見張りを十分に行って潜水者の有無を確かめることなく、船首にいた子供を後方に移動させることに気をとられていたので、前方20メートルのところで潜水遊泳中であったB指定海難関係人の存在に気付かなかった。
そして、A受審人は、操縦席に立って操船に当たり、08時59分45秒志積防波堤西端から023度230メートルの地点で、ボードに乗った友人から準備ができたとの合図を受け、針路を180度に定め、中立運転としていた機関のクラッチを前進に入れて引航ロープの張り合わせを行ったのち、機関の回転数を上げ航走を開始した。
こうして、A受審人は、前路で潜水中のB指定海難関係人を避けることなく後方のウェークボーダーを見ながら加速して進行中、09時00分志積防波堤西端から025度210メートルの地点において、原針路のまま、4.0ノットの対地速力をもって、コーラルガーデンの船底及び推進器翼が、浮き上がってきたB指定海難関係人に接触した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、B指定海難関係人は、さざえ採りを兼ね海水浴を楽しむ目的で、同月18日23時ごろ友人及び家族など合わせて15人と、大阪府大東市を2台の車に分乗して出発し、翌19日02時ごろ志積地区の海岸に到着し、仮眠をとったのち、潜水遊泳を行うことにした。
ところで、B指定海難関係人は、5回ほど志積地区北方東側の海岸近くで潜水遊泳したことがあり、その海域は漁船の通航路から離れていたものの、小型船の通航に十分な水深があり、自己の存在を示す標識を表示しないまま潜水遊泳を行うことは危険で、これまで浮き輪などを置いて素潜りしている者をときどき見かけたことがあったが、早朝の1時間半ほどの潜水遊泳であり、海岸近くで素潜りするので大丈夫と思い、前もって存在が分かるような標識の付いた浮き輪などを準備していなかった。
08時30分ごろB指定海難関係人は、紫色の海水パンツに、いずれも緑色の足ひれ、シュノーケル及び水中眼鏡を着用し、手に青色の網製袋を持ち、また同じように遊泳用具を装着した友人3人とともに、志積防波堤基部北方約130メートルの海岸から海に入り、素潜りでさざえを探しながら移動し、同時50分ごろ水深約3メートルの前示接触地点付近に至った。
その後、B指定海難関係人は、友人3人から南方に約20メートル離れたところで、1人で南を向いて海面上に標識を表示しないまま潜水したり浮上したりしてさざえ採りを続けているうち、08時57分北方20メートルのところで、ウェークボーダーを引航したコーラルガーデンが停止したが、さざえを探すことに気をとられ、同船を認めないまま潜水、浮上を繰り返した。
08時59分45秒B指定海難関係人は、志積防波堤西端から023度210メートルのところで、それまで停留していたコーラルガーデンがウェークボーダーを引航して南に向け航走を開始し、自身に向け接近したが、さざえ採りに熱中して同船の機関音にも気付かないで潜水中、海底に顔を向けた状態で浮上したところ、前示のとおり接触した。
A受審人は、異常な衝撃を感じ、直ちに機関を停止して後方を振り向いたところ、海面上に人影を認めるとともに叫び声を聞き、初めて潜水者との接触に気付き、急ぎ負傷したB指定海難関係人を収容して志積地区に寄せ、救急車を手配して病院に搬送した。
その結果、B指定海難関係人は、左足骨折及び左前胸部切創等を負った。

(原因)
本件潜水者負傷は、福井県矢代湾南部の志積地区北方東側の海岸近くにおいて、コーラルガーデンが、停留後ウェークボーダーを引航して発進するにあたり、見張り不十分で、前路の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
潜水者が、その存在を示さなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人は、志積地区北方東側の海岸近くにおいて、操船と見張りに当たり、ウェークボーダーを引航して発進する場合、左舷側約5メートル離れたところに、シュノーケルなどを使用して素潜りしている数人の潜水遊泳者を認めており、付近に他の潜水者がいることが予想されたから、前路の潜水者を見落とすことのないよう、見張りを十分に行って周囲を確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、発進前船首部に行ったとき、周囲を一べつしただけで前路に障害となるものはないものと思い、船首にいた子供を後方に移動させることに気をとられ、見張りを十分に行って周囲を確認しなかった職務上の過失により、前路で潜水遊泳中の野村潜水者に気付かずに発進して接触事故を招き、同潜水者に左足骨折及び左前胸部切創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、志積地区北方東側の海岸近くの小型船の通航に十分な水深がある海域において、潜水遊泳を行うにあたり、その存在を示さなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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