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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年9月6日11時35分 兵庫県東播磨港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三栄福丸 総トン数 489トン 全長 66.27メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第三栄福丸(以下「栄福丸」という。)は、グラブバケット付き旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を装備する、平成5年6月に進水した船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人及び次席一等機関士Bほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成7年9月6日09時55分兵庫県家島港を発し、11時20分同県東播磨港の天川岸壁に左舷付けで着岸のうえ、直ちに荷役準備に取り掛かった。 ところで、栄福丸は、船体中央部に、長さ14.4メートル幅9メートルの倉口を有する船倉1個を備え、倉口から船体中心線上約4.9メートル前方の位置を中心とする、直径3.6メートル高さ1.8メートルの円筒形台座上にクレーン機械室を据え置き、また、上甲板上右舷側に沿ってほぼ船体全長にわたり、海砂採取用の鋼製サンドホース1本がブルワークの外側に設けた収納スペースに収めてあった。 クレーン機械室は、長さ7メートル幅4.2メートル高さ2メートルばかりで、前面中央にジブブームが、前部右側に操縦席が、前面を除く同室周囲には手摺りを配した通路がそれぞれ設けてあり、後側通路の外縁がほぼ円弧状で、同機械室の最大旋回半径は台座中心から同外縁までの約5.2メートルであった。また、操縦席からの見通しについては、前面及び左右側面はそれぞれガラス張りで、構造物により左側後方がやや妨げられるもののいずれも良好であったが、後方は後部の壁に遮られて全く見通すことができなかった。 サンドホースは、途中3箇所にゴムホースを使用して自在性がもたせてあり、ホース船首端の吸入口から海中に投入し、海底の砂を吸い上げる仕組みになっていて、ホースの投入及び収納の目的で、同ホース用ダビット(以下「ダビット」という。)4台が右舷外板に沿って設置され、船首側から順に1番から4番の番号が付されていた。 2番ダビットは、クレーン台座中心の正横から少し船尾寄りに位置し、逆U字形のダビットを両脚の下端を支点として右舷側に振り出す構造で、専用ウインチから導かれたワイヤによって振出し角度及びサンドホースの降下距離が調整できるようになっており、両脚の間に高さ174センチメートル(以下「センチ」という。)、前後幅約75センチの箱形ダビット架台を設け、架台上面に鋼製ローラガイド2個を前後に溶接し、それぞれローラピンが船首尾方向となる状態で、ワイヤローラが取り付けてあった。 ところで、上甲板上には、クレーン台座を囲んで危険区域を示す、高さ73センチのハンドレール式防護棚(以下「防護棚」という。)が、船尾側の一部を除いて半径約4.8メートルの円弧状に設けられ、防護棚と2番ダビットとの間隔は最小部で約50センチあり、歩行に支障となることはなく通路として使用されていた。 ところが、甲板上からの高さが約2メートルのクレーン機械室後部通路は、外縁が防護棚から約35センチはみ出しており、一方、2番ダビットの架台上の両ローラガイドには、コの字状に曲げた幅10センチの帯鉄が、ローラの左舷側を挟むように溶接してあって、たまたま同帯鉄が甲板上から同通路とほぼ同じ高さの位置で、同架台左舷面から約10センチ突出していたことから、ジブブームが左舷側となる位置にクレーンを旋回させると、同通路外縁と船首側の同突出部とが、約5センチに接近する状態であった。 A受審人は、新造時から船長兼安全担当者として本船に乗り組み、クレーンの運転については、機関長と2人で適宜どちらかが受け持つようにしていたもので、乗組員全員が乗船経験豊富であったことから、その必要はないものと思い、クレーン運転中はむやみに防護棚周辺に近づかないよう注意していなかった。 また、B次席一等機関士は、新造時一等航海士として乗り組んだのち、同7年8月から次席一等機関士に職務変更され、以来機関の運転管理に従事していたが、機関室内に限らず船内各機器の点検に努め、気付いた箇所があれば、機関長あるいは船長に特に断ることなしに、時間を見つけては整備を行っていた。そして同人は、かねてから2番ダビットのワイヤのさびが気になっていたので、天川岸壁に着岸後、グリースを塗布することを思い立ち、長袖の作業服上下に、野球帽子、ゴム長靴及び軍手を着用し、グリース缶と用具を準備して、機関室から船首甲板上に赴いた。 こうして本船は、作業段取りを終えた乗組員3人が、倉口後方の左舷側甲板上でしばらく休憩し、機関長が倉口右舷側の甲板上で倉内上部のさび落としを始めるなか、A受審人が1人でクレーンを運転し、船倉の左舷側岸壁に野積みにした土砂の積込みが開始された。 一方、他の乗組員が誰も気付かないまま2番ダビットに赴いたB次席一等機関士は、クレーンが運転中であることを認めたが作業を中止せず、同ダビッド下部付近のワイヤにグリースを塗布したのち、上部ワイヤに取り掛かり、ジブブームが船尾側に向いている間に防護棚の上に立ち、ダビット架台に片手をついて、竹竿の先にはけを縛り付けた用具でグリースを塗布するうち、身体のバランスをとることに気をとられたものか、クレーンが旋回を始めたことに気付かず、11時35分東播磨港伊保灯台から真方位335度1,720メートルの着岸地点で、クレーン機械室後部通路の外縁材とダビット架台上のローラガイドとの間に胸部を挟まれ、そのままクレーンに押されて防護棚から転落した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、港内は穏やかであった。 A受審人は、クレーンを船尾側から左舷側まで往復させ、グラブバケットで10つかみ程度の土砂を積み込んだとき、たまたま左舷側甲板上から事故を目撃した乗組員の合図で、異状が発生したことを知って直ちにクレーンの運転を中止し、鼻と口から出血して意識不明となったB次席(昭和37年6月3日生)を手配した救急車で病院に搬送したが、同機関士は肺挫傷により既に死亡していた。
(原因 本件乗組員死亡は、東播磨港においてクレーンを使用して土砂の積込みを行う際、クレーン運転時の安全措置が不十分で、乗組員が防護棚のそばで作業を行い、クレーン旋回部とダビットとの間に挟まれたことによって発生したものである。 安全措置が十分でなかったのは、船長が次席一等機関士にクレーン運転中は防護柵周辺にむやみに近づかないよう指導していなかったことと、同機関士がクレーン運転中に防護棚のそばで作業を行ったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、船長兼安全担当者として船内の安全管理に当たる場合、乗組員がクレーンとダビットとの間などに挟まれて負傷することのないよう、クレーン運転中はむやみに防護棚周辺に近づかないよう指導しておくべき注意義務があった。ところが、同人は、乗組員全員が乗船経験豊富であったので、その必要はないものと思い、クレーン運転中はむやみに防護棚周辺に近づかないよう指導していなかった職務上の過失により、クレーン運転中、乗組員が防護棚のそばで作業を行い、クレーン旋回部とダビットとの間に挟まれて死亡するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |