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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月4日08時25分 浜田港 2 船舶の要目 船種船名
漁船若潮丸 総トン数 116トン 全長 33.78メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 588キロワット 3 事実の経過 若潮丸は、航海練習及び漁業実習に従事する島根県立浜田水産高等学校所属の中央船橋型鋼製漁船で、船首甲板中央部にワーピングドラム(以下「ドラム」という。)を左右に備えるウインドラスを装備し、A受審人、B指定海難関係人ほか7人が乗り組み、同校の実習生12人及び指導教官1人を乗せ、浜田港沖合でのいか一本釣り漁業の実習を行ったのち、平成9年7月4日07時45分浜田港に入港し、魚市場前岸壁でいかを水揚げした後、08時10分船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって同所を離岸し、900メートルばかり北側の浜田市瀬戸ヶ島町の同校専用岸壁に向かった。 A受審人は、いつもの入出港時と同様、一等航海士を操舵に就かせて操船指揮を執り、機関長を昇橋させて機関操作に当たらせ、船首部に甲板長、B指定海難関係人及び司厨長を、船尾部に倉庫長、通信長及び一等機関士をそれぞれ配して着桟スタンバイとし、2ないし3ノットの速力で進行した。 ところで、若潮丸の専用岸壁への係留は右舷付けとなり、最初、本船備付けの化繊製船首尾索各1本及び船首楼甲板からの同スプリング索1本を岸壁に送ってそれぞれビットに取り、これらを巻き込みながら船体を岸壁に付け、スプリング索を張り合わせたのち、岸壁備付けの船首尾索各2本船尾甲板に取るブレスト索1本をそれぞれ船内に取り込み、同索他端のアイを船上のボラードに取り、この間に最初に取った船首尾索を解らんして船内に回収するという手順で行われ、最終的な係船索は、船首尾索各2本スプリング索及びブレスト索各1本の計6本となっていた。 また、この岸壁備付けの係船索は、一部ワイヤロープが使われていたものの、大半が化繊製で、人力でも十分取り込める程度の重量であったが、一端が岸壁上のビットにチェーン等で固定され、同ビットから船上のボラードまでの距離に係船索のたるみを加えた分の長さしかないため、同係船索先端に取り付けられた先綱をドラムで巻いて船上に取り込むような場合、巻き過ぎて先綱や係船索に張力がかかることがないよう、同索アイがボラード付近まできたとき、ドラムの回転を停止するか、先綱をドラム上で滑らせて巻込みを中断する必要があった。 一方、船首部における係船作業は、甲板長の指揮の下で作業が進められ、同人がスプリング索を司厨長と共に張り合わせたあと、ドラムをゆっくりと回転させたまま、右舷側フェアリーダーを通して取り込んだ右舷側船首索先綱をドラムに巻いて船首索を引き上げ、そのアイがフェアリーダーとドラムの中間部にあるボラードの位置にきたとき、ドラムに巻いた先綱を緩めてアイの位置をボラード上に保ち、司厨長がこれをボラードに入れ、同じころB指定海難関係人は、左舷側で回転しているドラムを使って左舷側船首索を同様に取り込み、右舷側の作業を終えた司厨長が同索のアイをボラードに入れるという順序で進められることになっていた。 A受審人は、遠洋トロール船の船長を20年ばかり経験し、平成4年に若潮丸の船長職に就いて以来、安全担当者も兼ねていたことから、乗組員の安全意識の向上を図ろうと、毎航海出港前に必ずミーティングを開き、漁労及び航海中のみならず、岸壁離着桟作業時の安全確保のため乗組員に対する指導に努めていた。 また、B指定海難関係人は、平成6年3月島根県立浜田水産高等学校専攻科を卒業後、島根県水産試験場の調査船に甲板員として1年間乗り組み、その後若潮丸に期間雇用の機関員として1年3箇月ばかり乗船していたが、その間ずっと離着桟作業時には船首配置とし作業に当たっており、調査船も前述の方法で係留作業を行っていたことから、岸壁備付けの係船索や先綱の取扱いの経験は十分にあったがA受審人や甲板長からは、体を可動部から離して作業することなど、たびたび個人的にも指導を受けていた。 こうして若潮丸は、08時20分船首を専用岸壁に約4メートルまで接近させ、その後、いつもの手順により船体を岸壁に付けて船尾索等を取り、船首甲板ではスプリング索を張り合わせて岸壁備付けの右舷側船首索を取り始めたころ、同左舷側船首索を取るため、B指定海難関係人が、岸壁から送られた同索先綱を船首端左舷側フェアリーダーに通して左舷側のドラムに巻き、船首索の取込み作業を始めた。 B指定海難関係人は、安全帽、作業着及び軍手を装着し、左舷側ドラムの左斜め前方50センチメートル離れたところに立ってドラム側を向き、同人から見て右回りに回転するドラムに先綱を上巻きで2回巻き、ドラムの下側から出る先綱を取り込んでいたところ、08時25分少し前船首索先端のアイがフェアリーダーを通り抜けてボラードに近づいたが司厨長がまだ右舷側船首索から手が放せなかったため、先網を緩めてドラム上で滑らせることとし、いつものように、手元の先綱をドラム側に送り込んでドラムを空回りさせようとしたものの、思うように滑らすことができず、先綱が巻かれて張力がかかりつつあったが甲板長に声をかけてウインドラスを止めるなどの適切な作業手順をとらないまま、自分1人でも何とかできるものと思い、左手をドラムに巻かれた先綱にかけ、これを滑らせて緩めようとしたところ、08時25分浜田港瀬戸ヶ島防波堤灯台から024度(真方位)230メートルの地点において、うっかり左手を1巻き目の先綱とドラムとの間に挟み込んだ。 当時、天候は晴で風力3の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、港内は穏やかであった。 B指定海難関係人は、ドラムの回転とともに左手を半周りほど引きずられたが、まもなく先綱が切断してドラムから離れることができ、直ちに病院に搬送された。 この結果、B指定海難関係人は、左示指基節骨々折、左中指MP関節脱臼骨折等の7箇月の加療を要する負傷をした。
(原因) 本件乗組員負傷は、浜田港内において、着岸作業中、係船索付き先綱をドラムで巻いた際の作業手順が不適切で、作業に当たった乗組員が先綱とドラムとの間に手を挟み込んだことによって発生したものである。
(受審人等の所為) B指定海難関係人が、浜田港内において、着岸作業中、係船索付き先綱をドラムで巻いた際、作業手順が不適切であったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |