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1999年(平成11年)

平成10年門審第130号
    件名
漁船第二十五大祐丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年6月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、供田仁男
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第二十五大祐丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
甲板員1人が行方不明、のち死亡と認定

    原因
デリックブームの格納作業に対する安全措置不十分

    主文
本件乗組員死亡は、デリックブームの格納作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月25日22時50分
東シナ海北部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五大祐丸
総トン数 335トン
全長 63.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,147キロワット
3 事実の経過
第二十五大祐丸(以下「大祐丸」という。)は、大中型まき網船団付属の鋼製運搬船で、A受審人、B指定海難関係人及び甲板員Cほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首3.4メートル船尾5.1メートルの喫水をもって、平成9年11月24日17時00分長崎県調川港を発し、東シナ海北部の漁場に向かった。
大祐丸は、平成2年12月に進水した船首尾楼付き一層甲板型で、船首楼には甲板長倉庫等が、船尾楼には船橋及び船員室等がそれぞれ設けられ、甲板下が船首から順に船首水槽、燃料タンク、サイドスラスター室、燃料タンク、氷庫、冷水槽、魚倉、機関室、空所及び燃料タンクとなっていて、船首楼後端及び船尾楼前端の各右舷側には揚貨装置がそれぞれ1基備え付けられていた。また、船首楼及び船尾楼に設置されている鳥居形マストの間には、けんか巻きトロリー、氷揚げトロリー、左舷ガイワイヤの補助用ワイヤ及びその他作業用など計7本のワイヤが張り渡され、漁獲物などの積湯荷作業(以下「積揚荷作業」という。)用に使用されていた。
船首部の揚貨装置は、長さ15.5メートルのデリックブーム、直径26ミリメートル(以下「ミリ」という。)のトッピングワイヤ、同32ミリの両舷のガイワイヤ、同22.4ミリの荷巻きワイヤ及び同18ミリのけんか巻きワイヤ、そして、これらワイヤを操作する各ウインチによって構成され、各ウインチの操作が船首楼甲板右舷側にある操作台で行われるようになっていた。また、けんか巻きワイヤは、デリックブームを使用して積揚荷作業を行う際、けんか巻きトロリーを介して荷巻きワイヤの先端部付近に取り付けられていた。
ところで、洋上や水揚港で積揚荷作業の終了後、船首側のデリックブームの格納作業は、積揚荷作業に使用した三角網を荷巻きワイヤの先端から取り外し、トッピングワイヤ及びガイワイヤのウインチを操作してデリックプームを船内に引き入れ、荷巻きワイヤを緩めるとともに同ワイヤ先端のシャックルを左舷側ブルワークのアイプレートに取り付り付けて、荷巻きワイヤに左舷ガイワイヤの役目を持たせ、右舷ガイワイヤ、荷巻きワイヤ及びトッピングワイヤを調節しながらデリックブームを徐々に降ろし、右舷側甲板上の格納台に同ブームの先端を固定したうえ、各ワイヤを張り合わせる方法で行われていた。
A受審人は、新造時から乗り組んでいて安全担当者を兼務しており、洋上で漁獲物の積込み後、デリックブームの格納作業を行う際、海上が時化模様のときには船首を風波に向けて行っていたが、通常は、水揚港に向けて航行しながら実施していた。
こうして、A受審人は、翌25日16時ごろ大韓民国済州島の西方約260海里の漁場に着いて操業の準備を行い、甲板上の作業灯を点灯して18時50分網船の第八十一天王丸に接舷し、大祐丸の2基の揚貨装置を使用してさば約120トンの積込みを始め、21時40分積込みを終えて網船と離舷し、北偉33度35分東経123度17分の地点を発進して機関を3.0ノットの微速力前進にかけ、水揚げのため調川港に向け帰航の途に就いた。
A受審人は、当時、左舷後方からの波浪により、船体か横揺れしている状況であったものの、時化模様でなかったことから、航行しながらデリックブームの格納作業を行わせることにしたが、普段から乗組員に対して、同作業中はデリックブーム及び各ワイヤ付近でば注意するよう指導しており、また、乗組員がデリックブームの格納作業に慣れているので、同作業について特に指示しなくても大丈夫と思い、船体の横揺れにより、デリックブームが旋回するなどして危険な状態が発生することのないよう、デリックブームの操作を担当していたB指定海難関係人に対し、他の作業より優先して、デリックブームを格納台に速やかに固定するよう指示することなく、船橋でGPSプロッタにより帰航中の針路を決める作業を始めた。
B指定海難関係人は、網船と離舷後、船首部のウインチ操作台に就いてデリックブームの格納作業を開始したが、そのころ乗組員が甲板上に落ちた魚の投棄作業を行っていたので、同作業を先に行わせようと、デリックブームの先端を甲板上約4メートルの高さで止めて格納作業を一時中断し、ガイワイヤ及び荷巻きワイヤを緩めた状態で、デリックブームを格納台に速やかに固定しないまま、ウインチ操作台で待機していたところ、C甲板員が荷巻きワイヤをつかんで舷側近くに立ったのを認め、同甲板員に注意をするよう呼びかけたのち、魚の投棄作業を見ていた。
一方、C甲板員は、青色の防風衣にゴム長ズボンを着用し、安全帽をかぶって長靴を履いた服装で、魚の投棄作業を行っていたが、デリックブームの格納作業が中断されたとき、緩んでいた荷巻きワイヤが、船体の横揺れにより振れると投棄作業中の乗組員の邪魔になるので、船首部右舷ガイポストから約8メートル船尾方の舷側近くで同ワイヤをつかんで立っていたところ、22時50分少し前船体が大きく横揺れしてデリックブームが右舷側に旋回し、同ワイヤをつかんだままデリックブームとともに船外へ振り出され、反動で戻ってきたとき船体外板にぶつかり、22時50分北緯33度34.3分東経123度19.9分の地点において、海中に転落した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、波高は約2.5メートルであった。
その結果、A受審人は急いで反転して僚船とともに捜索したが、C甲板員(昭和24年1月2日生)は発見されずに行方不明となり、のち死亡と認定された。

(原因)
本件乗組員死亡は、夜間、東シナ海北部において、航行中にデリックブームの格納作業を行う際、同作業に対する安全措置が不十分で、荷巻きワイヤをつかんで舷側近くに立っていた乗組員が、船体の横揺れにより、デリックブームとともに船外へ振り出されて海中に転落したことによって発生したものである。
デリックプームの格納作業に対する安全措置が不十分であったのは、船長が、デリックブームの操作者に対して同ブームを格納台に速やかに固定するよう指示しなかったことと、デリックブームの操作者が、同ブームを格納台に速やかに固定しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、東シナ海北部において、網船から漁獲物の積込みを終えたのち、航行中にデリックブームの格納作業を行わせる場合、船体の横揺れにより、デリックブームが旋回するなどして危険な状態が発生することのないよう、デリックブームの操作者に対し、その他の作業より優先して同ブームを格納台に速やかに固定するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員がデリックブームの格納作業に慣れているので、同作業について特に指示しなくても大丈夫と思い、デリックブームの操作者に対し、同ブームを格納台に速やかに固定するよう指示しなかった職務上の過失により、荷巻きワイヤをつかんで舷側近くに立っていた甲板員が、船体の横揺れにより、デリックブームとともに船外に振り出されて海中に転落する事態を招き、同甲板員が行方不明となり、のち死亡と認定されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、東シナ海北部において、漁獲物の積込みを終えたのち、航行中にデリックブームの格納作業を開始した際、魚の投棄作業に優先して同ブームを格納台に速やかに固定しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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