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1999年(平成11年)

平成10年那審第44号
    件名
プレジャーボート伊芸丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

金城隆支、清重隆彦、花原敏朗
    理事官
道前洋志

    受審人
    指定海難関係人

    損害
乗組員1人溺死

    原因
無甲板の手こぎボート使用上の安全に対する留意不十分

    主文
本件乗組員死亡は、無甲板の手こぎボート使用上の安全に対する留意が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月28日17時05分
沖縄県金武湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート伊芸丸
全長 3.83メートル
幅 1.05メートル
深さ 0.45メートル
3 事実の経過
伊芸丸は、1人乗り無甲板のFRP製手こぎボートで、大工のD所有者が13年ばかり前に手作りしたものであった。D所有者は、これまで2人で乗り組んだことは数回ばかりで、いつも1人で月に2ないし3回カニをとるため使用し、他人に貸したことはなく、使用しないときは沖縄県金武町字屋嘉の砂浜に揚げていた。
A、B及びC各指定海難関係人は、いずれも大工で、近いうちB指定海難関係人の友人の伊芸丸乗組員Eと組んで仕事をすることになったことから、顔合わせをかねて釣りを行うこととし、C指定海難関係人の父親であるFが所有するボートを使用するつもりでいたところ、伊芸丸の近くに置いてあった同ボートは盗難にあっており、父親がD所有者が帰宅したときに借用したことを伝えておくから伊芸丸を使用するよう勧めたので、同船を砂浜から運んで浮かべた。
A、B及びC各指定海難関係人は、3人とも泳ぎができ、E乗組員が泳げないことを知らなかったことと海上も平穏であったことから、オール2本、釣りざお3組、半分に切ったプラスチック製の洗剤容器をあかくみ用に積み込んだが、クーラーボックスなどの浮くものは積み込まなかった。
こうして伊芸丸は、4人が救命胴衣を着用しないまま乗り組み、いか釣りの目的で、乾舷20センチメートルをもって、平成10年7月28日16時00分金武中城港電源開発シーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から358度(真方位、以下同じ。)1.60海里の海岸を発し、B指定海難関係人が船尾に、A指定海難関係人が右舷中央部に、C指定海難関係人が左舷中央部に、E乗組員が船首に、それぞれ船首側を向いて座り、釣り場に向かった。
4人は、シーバース灯から004度1.50海里の地点に至ったのち、東方に移動しながら釣りを行っていたところ、16時45分ごろから風が強くなって波浪が高まり、海水が船内に打ち込むようになり、あかくみで排水していたが、17時00分少し前海水の打ち込む量が増えてきたので釣りを止め、左舷側340度方向の陸岸に船首を向けた直後の17時00分シーバース灯から022度1.75海里の地点において、船尾から海水か船内に打ち込み、伊芸丸の船体後部が水没した。
このとき、E乗組員が自分は泳げないと言ったので同人を船首部につかまらせ、他の3人は伊芸丸を押しながら泳いでいたが、17時05分前示の船体後部が水没した地点で同船は沈没し、A、C両指定海難関係人がE乗組員を助けて陸岸に向かおうとしたものの力尽き、E乗組員は溺れて海中に没した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮侯は上げ潮の初期で、波高は40センチメートルであった。
こ結果、A、B及びC各指定海難関係人は自力で梅岸に泳ぎ着いたが、溺死したE乗組員(昭和26年10月27日生)は救助隊によって収容され、伊芸丸は引き揚げられ、船体に損傷はなかった。

(原因)
本件乗組員死亡は、沖縄県金武湾において、1人乗り無甲板の手こぎボートによる遊漁が行われた際、乾舷など同ボート使用上の安全に対する留意が不十分で、4人が救命胴衣を着用しないまま乗船し、波浪が高まったとき、船内に海水が打ち込んで沈没し、乗組員1人が搦れたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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