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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月11日07時15分 青森県下北郡東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船北伸丸 総トン数 283トン 全長 48.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
514キロワット 3 事実の経過 北伸丸は、北海道苫小牧港及び千葉港間の液体塩素の輸送に従事する船尾船橋型鋼製タンカーで、A受審人ほか4人が乗り組み、海水バラスト100トンを載せ、積荷の目的で、船首2.00メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成11年1月8日11時30分千葉港を発し、苫小牧港に向かった。 翌々10日15時00分A受審人は、冬型の気圧配置が続き、北西の風及び波浪の増勢により航行が困難になったことから天候が回復するまで避泊することとし、尻屋埼灯台から184度(真方位、以下同じ。)6.3海里の地点に両舷錨を投入し、錨鎖洛5節を延出して避泊した。 ところで、青森県尻屋埼南方の海岸近くに定置網が設置されていることは、海上保安庁水路部刊行の漁具定置箇所一覧図で一般に周知されており、青森県下北郡東通村大字尻労地先沖には、周年さけ、ます及びいか定置漁業用の小沼川尻と称する定置漁業権漁場が設定されていた。同漁場は、尻屋埼灯台から192度5.6海里の青森県が定めた東定第5号の基点(以下「東定5基点」という。)から102.5度2,350メートルの地点(オ点)、オ点から012度400メートルの地点(ア点)、オ点から192度400メートルの地点(イ点)、東定5基点から102.5度1,050メートルの地点(カ点)、カ点から192度50メートルの地点(ウ点)、カ点から012度50メートルの地点(エ点)のア、イ、ウ、エ各点を順に結んだ線により囲まれた水域で、同県知事から定置漁業免許を受けた有限会社R漁業部の所有する定置網(以下「R定置網」という。)が同水域内に設置されていた。R定置網の身網の沖側中央部及び両端並びに垣網の接続部に標識として、水面上3メートルの棒の先端に縦、横各50センチメートルの赤色布地の旗、レーダー反射板及び発光装置を取り付けたぼんでんが設置されていた。 A受審人は、三陸沿岸の海岸近くに定置網が多数設置されていることを知っていたものの、避泊する際にR定置網の浮子や赤色布地の旗などを見なかったことから避泊地点付近に定置網が設置されてはいないと思い、近辺の海上保安部に問い合わせるなど事前の水路調査を十分に行うことなく、R定置網が設置されていることに気付かなかった。 翌11日06時40分A受審人は、波は高かったが風が弱まったので、抜錨用意を令し、07時05分抜錨し、機関を微速力前進にかけ、同時09分半東定5基点から139度1,850メートルの地点で、針路を060度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)に上がるまで増速しながら進行した。 その後、A受審人は、船首配置を解除し、昇橋してきた次席一等航海士を見張りに当てて船橋当直を続けていたものの、依然波が高くてR定置網の浮子や赤色布地の旗などを見なかったことから同定置網に向首進行していることに気付かずに続航中、07時15分わずか前左舷船首至近に点在する浮子を認め、右舵一杯、機関を後進としたが及ばず、07時15分東定5基点から112度1.3海里の地点において、9.0ノットの速力で、原針路のまま小沼川尻漁場に乗り入れ、R定置網に損傷を生じさせた。 当時、天候は曇で風力6の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 その結果、北伸丸は船首部に擦過傷を生じ、R定置網は、支定線ワイヤなどに損傷を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件定置網損傷は、下北郡東方沖合の避泊地から発航するに当たり、事前の水路調査が不十分で、定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、下北君郡東方沖合の避泊地から発航する場合、三陸沿岸の海岸近くに定置網が多数設置されていることを知っていたのであるから、定置網の設置水域を詳しく把握できるよう、事前の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、避泊する際にR定置網の浮子や赤色布地の旗などを見なかったことから避泊地点付近に定置網が設置されてはいないと思い、近辺の海上保安部に問い合わせるなど事前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、R定置網に向首進行して同網への乗り入れを招き、北伸丸の船首部に擦過傷及び定置網の支定線ワイヤなどに損傷を生じさせるに至った。 |