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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月3日17時55分 愛媛県西条港港外 2 船舶の要目 船種船名
貨物船楠栄丸 総トン数 698.46トン 登録長 56.67メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
956キロワット 3 事実の経過 楠栄丸は、船尾船橋型の炭酸カルシウム運搬専用船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾3.36メートルの喫水をもって、平成9年12月3日17時40分愛媛県西条港を発し、広島県竹原港に向かった。 ところで、西条港の同船発航岸壁は、北北西に向けて開口をもつ幅約400メートルの長方形状の港奥西側に位置し、東側には東防波堤が、西側には、西防波堤がそれぞれ構築されており、東防波堤北端から約001度(真方位、以下同じ。)に引いた線の東側は、幅約1,700メートル、沖合約3,000メートルの範囲にわたりのり養殖施設が設けられていて、同施設の西側には、同港に入出港するための扇状に広がった水路を挟んで、西防波堤つけ根から約336度に引いた線の西側に、幅約700から200メートル、沖合約3,500メートルの範囲にかけて同養殖施設が設けられており、東側の同施設北西端と西側の同施設北東端には、黄色の点滅式簡易標識灯を付けた円柱が立てられ、それぞれの施設と水路との境界線上には、約300メートルの間隔で同標識灯付きのボンデンが設置されていた。 A受審人は、使用海図にこれらのり養殖施設の設置範囲を記入しており、西条港への入出港は、夜間経験したことはなかったものの昼間は幾度か経験していたことから、同施設の存在についてよく知っていた。 こうして、A受審人は、3人の乗組員をそれぞれレーダー監視、探照灯による見張り及び機関操作に就けて操舵操船に当たり、東西両防波堤間を航過し終えて、17時46分西条港導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から339度1.0海里の地点に達し港外に出たとき、針路を000度に定め、機関を半速力前進にかけ8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。 17時49分A受審人は、導灯から334度1.4海里に達したとき、右舷船首約30度に前路を左方に横切る漁船の灯火を認め、これを避けるため速力を4.5ノットの微速力前進に減じ、針路を035度に転じたところ、東側ののり養殖施設に向首進行する状況となったが、探照灯の照射により同施設を視認してから、同施設を避ければ大丈夫と思い、レーダーを活用するなどして、船位の確認を十分に行うことなく進行し、同時53分同船を左方にかわしたころ、同施設に向首して約250メートルに接近していたものの、依然、船位の確認を行わなかったので、このことに気付かず、同船が曳網しているかもしれないので、その船尾を十分に離そうとそのまま続航した。 A受審人は、探照灯の照射で同施設を視認できないまま進行したところ、17時55分少し前のり養殖施設に接近していることに不安を感じ、ようやく原進路に復そうと左舵をとり左転中、楠栄丸は、17時55分022度に向首したとき、導灯から356度1.7海里の地点において、のり養殖施設に乗り入れた。 当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、日没は16時58分であった。 その結果、楠栄丸は、船底外板に擦過傷及びのり養殖網4枠に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
(原因) 本件のり養殖施設損傷は、夜間、愛媛県西条港出口付近ののり養殖施設により狭められた水路を北行中、他船を避航する際、船位の確認が不十分で、同水路東側ののり養殖施設に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、愛媛県西条港出口付近ののり養殖施設により狭められた水路を北行中、他船を避航する場合、同水路の東側は、同施設が拡延する水域であったから、同施設に接近しないようレーダーを活用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、探照灯の照射により同施設を視認してから、同施設を避ければ大丈夫と思い、レーダーを活用するなどして、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同施設に向首進行して乗り入れを招き、船底外板に擦過傷及びのり養殖網4枠に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |