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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月23日11時00分 千葉港千葉第4区 2 船舶の要目 船種船名
油送船英雄丸 総トン数 3,334トン 全長 107.84メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
2,206キロワット 3 事実の経過 英雄丸は、バウスラスタと右回りの可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか11人が乗り組み、空倉のまま、船首1.83メートル船尾4.54メートルの喫水をもって、平成9年12月23日10時30分前々日から停泊していた千葉港千葉第4区の錨地を発し、入船右舷付けする予定で、同区のコスモ石油15桟橋(以下「15桟橋」という。)Bに向かった。 ところで、15桟橋Bは、南東方に湾入する甲子湾の北岸から西南西方に向かって構築された長さ約150メートルの15桟橋の北側部分で、幅約450メートルの湾口には、南岸の宇部興産荷役桟橋に着桟する大型船の水路を示すために、北岸から西南西方100メートル付近に宇部興産千葉第1号浮標(以下、浮標名については「宇部興産千葉」の名称を省略する。)、及び南岸から北北東方150メートル付近に第2号浮標が、それぞれ設置されていた。両浮標は、平成9年12月18日から翌10年1月20日までの間、点検整備のため一時撤去され、第1号浮標の位置に水面上の高さ0.44メートル水面付近の直径0.40メートルで円錐(すい)形の緑色灯付浮標が、第2号浮標の位置に同一形状の赤色灯付浮標がそれぞれ仮設置されていて、平成9年11月18日浮標管理者の宇部興産株式会社から関係先にその旨を文書で通知され、海上保安庁水路部発行の水路通報(以下「水路通報」という。)にその記載がなかったものの、第三管区海上保安本部発行の三管区通報第49号(平成9年12月10日)にその旨記載されていた。 指定海難関係人R株式会社安全管理部安全管理課(以下「R社」という。)は、所有船及び用船の安全管理に携わっており、11月20日現地代理店からファクシミリで前示の通知を受け取ったものの、石油会社の月例船舶パトロール結果報告と一緒に送られてきたことから、同報告の添付資料で各船に連絡するまでもないものと思い、英雄丸を含む管理船舶に通知する措置を講じなかった。 A受審人は、千葉港錨泊中に、3年ほど前15桟橋に着桟した際に自ら作成した港湾事情記録を読み返し、最新の水路通報により改補された海図第1086号にあたったものの、現地代理店に甲子湾湾口の状況を確認するなり、三管区水路通報を入手するなりして、更なる水路調査を行うことなく、第1号及び第2号両浮標が一時撤去され、小型の灯付浮標が仮設置されていることを知らなかった。 こうして、A受審人は、発進時から操船にあたり、三等航海士を手動操舵及び操船補助に、二等機関士を船橋で機関操作に、一等航海士を船首配置に、二等航海士を船尾配置にそれぞれつけ、12月23日10時40分少し過ぎ千葉港コスモ石油シーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から264度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、針路を083度に定め、折からの北風によって2度ほど右方に圧流されながら、機関を港内全速力前進にかけ、8.0ノットの行きあしで進行した。 A受審人は、10時47分半機関を半速力前進に減じ、ほぼ同じ行きあしで、前回入港時2海里手前で視認及びレーダー探知することができた水面上の高さ1.5メートルの第1号及び第2号両浮標を探しながら続航したものの、10時51分少し前甲子湾湾口まで1海里に近付いても、双眼鏡やレーダーで認められず、そのころ、先船が第2号浮標の位置付近を航行して出港するのを認めたこともあって、両浮標が撤去されたものと思いながら進行した。 A受審人は、当初第1号及び第2号両浮標の中間を125度の針路で航行する計画であったが、両浮標が撤去され存在しないようなので、やや強い北風を左舷側に受けての着桟操船に余裕を持たせるために、転針角度を少なくする針路で、かつ、甲子湾湾口の南側に寄って入港することとし、10時54分少し前シーバース灯から261度1,700メートルの地点に達したとき、釧洛を104度に転じ、3度ほど右方に圧流されながら続航し、同時55分半着桟態勢に入り機関を微速力前進に、同時56分半極微速力前進に減じ、6.0ノットの行きあしで進行した。 A受審人は、その後も三等航海士と2人で前方の見張りを続けたものの、風浪があったこともあって、依然、緑色及び赤色両灯付浮標の存在に気付かず、10時59分一等航海士から、前方にブイのようなものが浮いているとの報告を受け、ほぼ同時に自らも双眼鏡で赤色灯付浮標を正船首少し右約150メートルに初認し、接触の危険を感じ、急いで左舵一杯をとったが及ばず、11時00分シーバース灯から224度840メートルの地点において、英雄丸は、080度に向首し、4.0ノットの行きあしで、同灯付浮標を右舷船尾よりプロペラに巻き込んだ。 当時、天候は雨で風力5の北風が吹き、潮候はほぼ満潮時で、視界は約1.5海里であった。 A受審人は、着桟操船を続け、着桟後に確認したところ、湾口に赤色灯付浮標が見当たらず、プロペラに巻き込んだことを知った。 その結果、英雄丸に損傷はなかったが、赤色灯付浮標は、標体を破損し、沈錘用ワイヤロープが切断するとともに、沈錘が移動し、のち修理、復旧された。 本件後、R社は、入手した水路情報の関係各部及び管理船舶への連絡体制を強化した。
(原因) 本件灯浮標損傷は、千葉港千葉第4区甲子湾内の15桟僑に着桟するにあたり、水路調査が不十分で、湾口の一時撤去された第2号浮標の位置に仮設置された、小型の赤色灯付浮標に向首進行したことによって発生したものである。 船舶所有者が、第2号浮標が整備のため一時撤去され、小型の赤色灯付浮標が仮設置された旨の水路情報を現地代理店から入手した際、英雄丸に通知しなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、千葉港千葉第4区甲子湾内の15桟橋に着桟するにあたり、3年ぶりで入港する場合、湾口の状況を現地代理店に確認するなど、あらかじめ付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、最新の水路通報により改補された海図にあたったので大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、第2号浮標が整備のために一時撤去され、それより小型の赤色灯付浮標が仮設置されていることを知らず、第2号浮標が存在しないことを双眼鏡等で確認したのち、湾口南側に寄って着桟前の左転角度を少なくする針路とし、風浪があったこともあって、赤色灯付浮標に気付かないまま進行し、その後至近に迫って視認したものの、プロペラに巻き込み、同灯付浮標の標体を破損し、沈錘用ワイヤロープを切断し、沈錘を移動させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 R社が、第2号浮標が一時撤去され、小型の赤色灯付浮標が仮設置された旨の水路情報を現地代理店から入手した際、英雄丸に通知しなかったことは、本件発生の原因となる。 R社に対しては、本件後、入手した水路情報の管理船舶への連絡体制を強化したことに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |