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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月26日06時00分 瀬戸内海兵庫県赤穂港沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船末広丸 総トン数 452トン 全長 74.20メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 末広丸は、各舷に1節25メートルの錨鎖9連節を装備する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.5メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成9年11月26日01時50分赤穂港を発し、徳島県小松島港に向かった。 A受審人は、発航後、鳴門海峡通航時刻を調整するため赤穂港港外に仮泊することとし、02時15分鵜石鼻(うのいしはな)灯台から092度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの、底質が砂で、水深10メートルの地点に右舷錨を投じて錨鎖4節半を延出し、錨泊を開始した。 ところで、錨地の北北西方900メートルには、区画漁業免許番号岡区第9号のかき養殖施設が存在しており、その範囲は、鵜石鼻灯台から065度1,500メートル(イ点)及び1,000メートル(ウ点)、鹿久居島の北東端に設置された標識基点97号から045度600メートル(工点)及び1,100メートル(ア点)の4点で囲まれる海域であり、当時は、かき出荷の最盛期で竹製かき養殖筏が多数設置されていた。 投錨したころ、朝鮮半島の中央部には、発達中の1,000ヘクトパスカルの低気圧の中心があってゆっくり北東進中で、兵庫県南西部には、雷・強風・波浪注意報が発表されており、A受審人は、発達中の低気圧についての気象情報は入手していなかったものの、付近には前線の接近に伴う瞬間15メートル毎秒の強い南東風がすでに吹いており、低気圧の接近を予測していたが、短時間の仮泊なので、走錨することにはなるまいと思い、守錨直を立てるなどの走錨防止対策をとることなく、乗組員全員を自室で休息させた。 A受審人は、同日06時少し前自室で休息していたところ、抜錨に備え機関を暖機するため起床していた一等機関士から、本船が走錨している旨の報告を受けて急ぎ昇橋したが、何をする間もなく圧流され、06時00分末広丸は、鵜石鼻灯台から065度1,500メートルの地点において、船首が090度を向いた態勢でその船尾が前示かき養殖施設の南東端に乗り入れた。 当時、天候は曇で風力8の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には波高4メートルの波浪があった。 A受審人は、機関を始動し、同施設から離脱を試みたが、同施設のロープを同船のプロペラに巻き込み、増勢する風速20メートル毎秒の強風になすすべもなく更に北西方へ400メートルほど圧流された。その後、同船は曳船に引かれ同施設を離脱した。 その結果、末広丸の外板に擦過傷及びプロペラにロープを巻き込み並びに15基の竹製かき養殖筏に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
(原因) 本件かき養殖施設損傷は、鳴門海峡通航時刻の調整のため、兵庫県赤穂港沖合に錨泊する場合、走錨防止対策が不十分で、折からの強い南東風と波浪によって走錨し、同施設に向け圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、鳴門海峡通航時刻の調整のため、赤穂港沖合に錨泊する場合、低気圧による南東風が強く、低気圧の接近を予測していたから、走錨に備えて守錨直を立てるなど、走錨防止対策を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間の仮泊だから走錨することはないと思い、走錨防止対策を十分に行わなかった職務上の過失により、風下のかき養殖施設に向け圧流され、同養殖施設に乗り入れ、末広丸の外板に擦過傷及びプロペラにロープを巻き込み並びに竹製かき養殖筏に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |