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1999年(平成11年)

平成11年仙審第18号
    件名
貨物船百洋丸養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成11年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:百洋丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:百洋丸機関長 海技免状:二級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
かき養殖施設の幹綱、浮き及びかきなどを損傷

    原因
主機駆動発電機への切替え時機不適切、投錨準備不十分

    主文
本件養殖施設損傷は、主機駆動発電機への切替え時機が不適切で、操船不能に陥ったこと及び投錨準備が不十分で、行きあしの停止が行われなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月24日19時00分
岩手県大船渡港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船百洋丸
総トン数 4,992.39トン
全長 125.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 5,736キロワット
3 事実の経過
百洋丸は、国内各港間のセメント輸送に従事する、可変ピッチプロペラ及び船首尾にそれぞれスラスタを装備する船尾船橋型鋼製セメントタンカーで、A、B両受審人ほか11人が乗り組み、セメント8,042トンを積載し、船首7.11メートル船尾7.87メートルの喫水をもって、平成9年11月24日18時42分大船渡港最奥部の野島桟橋を離桟し、京浜港川崎区に向かった。
ところで、百洋丸は、発電機として、いずれも交流450ボルトで、主機駆動の容量1,200キロボルトアンペア(以下「キロ」という。)のもの(以下「軸発」という。)とディーゼル原動機駆動の500キロのもの(以下「1号機」という。)及び1,000キロのもの(以下「2号機」という。)各1台を備え、通常、負荷状態により、停泊中は1号機または2号機を運転、機関用意中は両機の並列運転、航海中は軸発の単独運転とし、出航の際には、主機の操作があり、同単独運転にすると船内電源を喪失させることがあるため、港域外に出て機関用意が解除され、航海状態になったのちに同並列運転から同単独運転に切り替えていた。
百洋丸は、主機始動時、過回転防止のため、機側の燃料ハンドルを停止と全速力前進の中間位置(以下「始動位置」という。)にしていたが、始動位置のまま軸発に切り替えると、プログラム制御による増速システムでプロペラ翼角が自動的に大きくなるとともに軸発負過が加わって負荷制限状態となり、主機の回転数及び軸発周波数をともに低下させ、軸発がトリップして船内電源を喪失することもあるので、同ハンドルを全速力前進の位置(以下「運転位置」という。)にしてから切り替えており、同ハンドルを運転位置にすると切替えスイッチそばの表示ランプが点灯し、運転位置になったことを表示するようになっていた。
また、大船渡港の珊琥島南西方の区画漁業権漁場は、大船渡港珊琥島南灯台(以下「南灯台」という。)から283度(真方位、以下同じ。)510メートルの地点を基点とし、同基点から128度80メートルの地点(ア点)、ア点から071度80メートルの地点(イ点)、イ点から107度100メートルの地点(ウ点)、ウ点から179度180メートルの地点(エ点)、エ点から197度500メートルの地点(オ点)、オ点から214度290メートルの地点(カ点)、カ点から263度720メートルの地点を順に結んだ線と陸岸とで囲まれた区域に存在し、同区域内にかき等の養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置されていた。
離桟後A受審人は、甲板手を操舵に、一等航海士ほか甲板部員2人を船首配置にそれぞれ就け、自ら操船指揮に当たりながら南下し、18時54分南灯台から329度360メートルの地点で、針路を185度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき、A受審人は、船首配置の一等航海士から入港船がない旨の報告を受け、港域内で船内電源喪失などにより操船不能に陥るおそれもあったが、荒天準備作業を早く終えさせて乗組員を休息させようと思い、港域外に出るまで船首配置を維持させるなと投錨準備を十分に行うことなく、船首配置を解除して同作業を指示した。
一方、B受審人は、離桟後、機関部員を機関用意の配置に就け、機関制御室で、運転中の主機、1号機及び2号機などの監視に当たり、スラスタが停止された時点で、1号機を停止して2号機の運転としたうえ、船橋から機関の全速力前進を令せられたとき、軸発に切り替えると主機の操作による軸回転数の変動で船内電源が喪失し、操船不能に陥るおそれがあるものの、港域外に出ると軸発の周波数が変動して切り替えが困難になることがあるので早めに切り替えておこうと思い、港域外で機関用意が解除されたのちの適切な時機に軸発に切り替えることなく、慣れから緊張が緩み、主機燃料ハンドルを運転位置にすることを失念し、同ハンドルの位置及び運転位置を表示するランプの点灯を確認しないまま、自ら操作していったん2号機と軸発を並列運転としたのち、18時56分わずか前軸発に切り替えた。
18時56分B受審人は、南灯台から223度310メートルの地点に達したとき、軸発に切り替えたことにより負荷制限状態となって主機の回転数及び軸発周波数がともに低下し、軸発がトリップして船内電源を喪失するとともに、主機が潤滑油圧力の低下でほぼ同時に緊急停止してクラッチが切れ、操船不能に陥らせたが、同時57分無負荷運転となっていた2号機の気中遮断器が自動投入され、船内電源が復旧したことから、主機とプロペラを繋ぐクラッチを入れようとしたところ、プロペラ翼角が後進側にずれていたため、クラッチが入らなかったので、プロペラ翼角を中立に戻してからクラッチを入れようとした。
一方、A受審人は、主機が緊急停止して操船不能に陥ったとき、荒天準備作業に従事中の一等航海士ほか甲板部員2人に投錨を指示し、一等航海士等が投錨準備にとりかかったころ、18時57分船内電源が復旧したことから、直ちに操舵したものの、プロペラ翼が水流を妨げて舵効が得られず、揚錨機のクラッチを切り離して手動ブレーキにすることに手間取り、投錨できないまま、行きあしの停止が行われず、そのころ風潮流の影響により船首が徐々に右偏し始め、養殖施設に接近し、19時00分百洋丸は、南灯台から216度1,040メートルの地点において、約250度に向いて両舷錨を投入したが及ばず、その船首が養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
その結果、百洋丸は損傷がなかったが、かき養殖施設の幹綱、浮き及びかきなどを損傷した。

(原因)
本件養殖施設損傷は、夜間、大船渡港を出航する際、軸発への切替え時機が不適切で、操船不能に陥ったこと及び投錨準備が不十分で、行きあしの停止が行われなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大船渡港を出航する場合、港域内で船内電源喪失などにより操船不能に陥るおそれもあったから、直ちに投錨ができるよう、港域外に出るまで船首配置を維持させるなど投錨準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、荒天準備作業を早く終えさせて乗組員を休息させようと思い、投錨準備を十分に行わなかった職務上の過失により、養殖施設への乗り入れを招き、同施設の幹綱、浮き及びかきなどに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、大船渡港を出航中、軸発に切り替える場合、主機の操作による軸回転数の変動で船内電源が喪失し、操船不能に陥るおそれがあるから、養殖施設に乗り入れないよう、港域外で機関用意が解除されたのちの適切な時機に軸発に切り替えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、早めに切り替えておこうと思い、適切な時機に軸発に切り替えなかった職務上の過失により、操船不能に陥らせて養殖施設への乗り入れを招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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