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1999年(平成11年)

平成10年神審第49号
    件名
貨物船第参拾五天洋丸海底電力線損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、清重隆彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第参拾五天洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
海底電力線が切断

    原因
水路調査不十分

    主文
本件海底電力線損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
工事責任者が海底電力線の敷設状況を船側に周知しなかったことは本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月13日12時20分
兵庫県沼島漁港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第参拾五天洋丸
総トン数 484トン
全長 64.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第参拾五天洋丸(以下「天洋丸」という。)は、前部甲板上にジブクレーン1基を備えた船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、兵庫県家島港を基地として、専ら播磨灘の男鹿島及び西島から阪神間へ石材の輸送に従事していたものであるが、平成8年4月2日に着工した同県沼島漁港における泊外防波堤の築造工事に携わることになった。
ところで、同工事は、現場が北西に開口した沼島漁港北東部に位置し、沼島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から040.5度(真方位、以下同じ。)470メートルの海岸際が北東端で、同端から223度方向へ25メートル延びている既存の泊外防波堤を更に同方向へ40メートル延長するため、R株式会社がS株式会社の下請となり、現場にケーソンの基礎石となる石材を搬入する工事関係船として、天洋丸ほか数隻を投入して施工するものであった。
現場付近の海底には、淡路島から延びている関西電力株式会社の海底電力線が敷設されており、泊外防波堤の70メートルばかり沖合をこれとほぼ平行に、海底からほぼ1メートルの深さに埋設されていた。しかしながら、投描のうえ現場に係留しなければならない工事関係船にとって、その敷設位置が容易に分かるような標識又は浮標が陸上にも海上にも設置されていなかった。
また、沼島が載っている海図には、沼島漁港の近くに海底電力線が記載されているので、これを見ればその概略の敷設状況を知ることはできるものの、最大縮尺の海図が8万分の1のものであり、同海図のみで現場における投錨の適否を判断することは困難であった。
したがって、工事関係船の船長としては、海底電力線を避けて投錨できるよう、あらかじめ、工事責任者からその敷設状況を記載した大縮尺の図面を入手するなどして、現場付近の水路調査を十分に行う必要があった。
B指定海難関係人は、R株式会社の工事責任者として、工事全般について指揮監督に当たり、着工の時点で、現場付近には海底電力線が敷設されていることを知っていたが、工事関係船がこれを避けて投錨するものと思い、同電力線を記載した沼島漁港図を配布するなど、その敷設状況を工事関係船に周知していなかった。
一方、A受審人は、沼島が載っている海図を長年使用したことがなく、沼島漁港付近に海底電力線が敷設されていることを知らなかったことから、現場には同電力線はないものと思い、これを記載した沼島漁港図などにより、水路調査を十分に行うことなく、同月11日石材を積載した天洋丸を初めて現場に係留することとした。そこで、同人は、船首を港奥に向けて係留する計画を立て、左舷側は船首尾から出した各係留索をそれぞれ海岸近くの岩にとり、右舷側は船首尾の各錨を使用することとし、重さ300キログラムの船尾錨を泊外防波堤の西方200メートルの付近に投じたが、その地点が海底電力線の近傍であり、揚錨の際にこれに絡むおそれがあることに気付かなかった。
その数日後、A受審人は、再び沼島漁港に入港し、初回と同じ要領で船尾錨を投じて現場に係留した。しかし、同錨の地中深度が浅かったためか、沼島漁港出港時、海底電力線に絡まらずに揚錨していた。
こうして、天洋丸は、石材1,400トンを載せ、船首3.40メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同年5月13日05時15分家島港を発し、沼島漁港に向かった。
A受審人は、08時40分沼島漁港沖合に到着し、間もなく来船したB指定海難関係人及び潜水夫と工事の打合せを行ったが、依然、同漁港付近には海底電力線が敷設されていないと思っていたうえ、過去2回とも出港時の揚錨に問題がなく、また、同指定海難関係人から同電力線についての情報を知らされなかったことから、水路調査を行わずに前回の要領で施工位置に係留することとした。
そこで、A受審人は、自ら操船の指揮をとり、09時00分西防波堤灯台から014度310メートルの水深約20メートルの地点で、海底電力線のことが念頭にないまま、その近傍に船尾錨を投下した後、南東方へ移動して右舷の船首錨を入れ、次いで左舷の船首尾から各係留索を出して海岸際の岩にとった。そして、錨鎖をほぼ右舷正横に3節延出し、錨索を右舷船尾方に180メートルの長さで張り合わせ、同灯台から043度410メートルの施工位置において、船首がほぼ130度に向く入り船状態で4点係留のうえ、自船のジブクレーンにより海中へ石材の投入を開始した。
12時00分A受審人は、揚荷を終えると出港作業に取り掛かり、左舷の各係留索を解き放った後、錨鎖及び錨索を同時に巻き始め、やがて船首錨を揚収し、係船機により錨索を巻き込み中、船尾配置に就いていた機関長に船尾錨の状態を十分確認させず、まだ立錨となっていなかったが、これが巻き上がったものと思い、同時19分ほぼ130度に向首した状態で機関を微速力前進にかけ、右舷ウイングに出て船尾を見たところ、両手を交差している機関長を認め、同時20分少し前機関を停止したが、12時20分西防波堤灯台から020度290メートルの地点において、船尾錨に絡み付いた海底電力線が損傷した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、船尾錨に烙んだ海底電力線を外して沼島漁港を出港し、家島港到着後に同電力線が損傷したことを知らされた。
その結果、海底電力線が切断して沼島への電力供給が12時間停止したが、のち復旧された。
また、B指定海難関係人は、関西電力株式会社と事故防止対策についての打合せを行い、海底電力線が敷設されていることが分かるように、浮標4個を設置するなどの措置を講じた。

(原因)
本件海底電力線損傷は、兵庫県沼島漁港において、防波堤の築造工事の現場に係留するにあたり、水路調査が不十分で、海底電力線を避けて投錨せず、揚錨の際に錨が同電力線に絡んだことによって発生したものである。
工事責任者が海底電力線の敷設状況を船側に周知しなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人は、兵庫県沼島漁港において、防波堤の築造工事の現場に錨を使用して係留する場合、海底電力線を避けて投錨できるよう、事前にその敷設状況を記載した同漁港の図面などにより、水路調査を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同工事の現場付近には海底電力線が敷設されていないと思い、その敷設状況を記載した同漁港の図面などにより、水路調査を行わなかった職務上の過失により、船尾錨を海底電力線の近傍に投下し、揚錨の際に同電力線に絡んでこれを切断させ、沼島への送電を12時間停止させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が沼島漁港の工事現場付近における海底電力線の敷設状況を天洋丸側に周知しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、事後、海底電力線が敷設されていることが分かるよう、浮標を設置するなどの措置を講じた点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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