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1999年(平成11年)

平成11年門審第43号
    件名
漁船金比羅丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年12月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、清水正男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
2番及び3番シリンダの主軸受が焼き付、潤滑油入口管に破孔

    原因
主機潤滑油系統からの漏油の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油系統からの漏油の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月27日05時00分
長崎県壱岐島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 19トン
全長 23.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット
3 事実の経過
金比羅丸は、平成元年11月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM679A−A型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダに船首側から順に1番から6番までの番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の油だめに入れられた約80リットルの潤滑油が、主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び同油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管からロッカーアームなどの動弁機構、クランク軸、カム軸、ピストンピン、燃料噴射ポンプなどを潤滑する系統、噴霧ノズルから各ピストン内面に噴射されてピストンを冷却する系統などにそれぞれ分岐して給油されたのち、いずれも油だめに戻って循環するようになっていた。

また、主機潤滑油系統には、通常約4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の潤滑油圧力が0.5キロに低下すると作動する潤滑油圧力低下警報装置が付設されていた。
主機の過給機は、同製作所が製造したKTR150型と呼称する排気タービン式過給機で、すべり軸受であるロータ軸受などを主機の潤滑油主管から分岐した潤骨油で潤滑するようになっていた。
ところで、主機4番シリンダ右舷側上部に設置された過給機の潤滑油入口管は、外径8ミリメートルの鉄製パイプで6番シリンダブロックの上面船尾端からニップル継手を介して5番シリンダヘッドの頂部を少し越える高さまで6番シリンダヘッドをかすめるように左舷側に斜行して立ち上がったのち水平に直進し、過給機の横で右舷側に曲折して同機に至ったところで再び立ち上がって同機の潤滑油入口部に接続されるようになっており、振れ止め金具で主機本体に固定されていたものの、同金具が腐食などによりいつしか脱落し、同管の6番シリンダブロックの上面から立ち上がって水平となる湾曲部が振動により6番シリンダヘッドと擦れ合い、摩滅破孔が生じやすい状況となっていた。

A受審人は、平成2年4月から金比羅丸の船長として機関の運転及び保守管理に当たり、主機の始動前に潤滑油量及び冷却清水量などの点検を行い、減量していれば適宜所定量まで補給を行っていたところ、前示潤骨油入口管の擦れ合い部にいつしか摩滅破孔が生じて漏油が始まり、1年程前には月平均約12リットルであった潤滑油の補給量が徐々に増加し、本件発生の直前には月平均約15リットルになっていたことから主機潤滑油消費量の増加に気付いていたが、主機の始動前に潤滑油量が所定量あれば大丈夫と思い、主機潤滑油系統からの漏油の点検を行うことなく、同摩滅破孔から漏油していることに気付かないまま主機の運転を続けていた。
こうして、金此羅丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年12月26日15時30分長崎県勝本港を発し、同県壱岐島西方沖合の漁場に至って操業中、前示摩滅破孔部が拡大して同油が機関室内に噴出するようになり、主機の潤滑油量が著しく減少して同油ポンプが空気を吸引するなどして同油圧力が低下し、主機軸受部の潤滑が阻害される状況となったが、これに気付かず、操業を終了したのち主機を全速力前進にかけて帰港中、翌27日05時00分若宮灯台から真方位225度6海里の地点において、2番及び3番シリンダの主軸受が焼き付くなどして主機が異音を発し、潤滑油圧力低下警報装置が作動したのち自停した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は平穏であった。
操船中のA受審人は、直ちに機関室に赴いたところ、同室内に潤滑油が飛散しているのに気付き、前示潤滑油入口管の破孔を認めた。
損傷の結果、金比羅丸は、主機が運転不能となり、手配した鉄工所の救助船に曳航されて長崎県湯ノ本漁港に引き付けられ、のち主機が換装された。


(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油で過給機の潤滑を行っている機関において、主機潤滑油消費量が徐々に増加した際、主機潤滑油系統からの漏油の点検が不十分で、過給機の潤滑油入口管破孔部から外部へ潤滑油が漏洩し、潤滑油量が不足して主機軸受部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たり、主機潤滑油消費量の増加を認めた場合、潤滑由が外部へ漏洩しているおそれがあったから、漏油笥所を特定して修理が行えるよう、主機潤滑油系統からの漏油の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機の始動前に潤滑油量が所定量あれば大丈夫と思い、主機潤滑油系統からの漏油の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、潤滑油量の不足を生じさせ、主機軸受部の潤滑阻害を招き、主軸受、シリンダブロック及び連接棒などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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