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1999年(平成11年)

平成10年門審第105号
    件名
貨物船第三日昌丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年12月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、供田仁男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第三日昌丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機大破

    原因
主機掃気室内の掃除不十分、主機シリンダ注油量の調整不適切

    主文
本件機関損傷は、主機掃気室内の掃除が十分でなかったばかりか、主機シリンダ注油量の調整が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月6日02時30分
山口県三田尻中関港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三日昌丸
総トン数 4,341.79トン
全長 96.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,868キロワット
3 事実の経過
第三日昌丸(以下「日昌丸」という。)は、昭和56年8月に進水し、主に海砂の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、主機として神戸発動機株式会社が製造した6UEC37/88H型と呼称する過給機付2サイクル・クロスヘッド型自己逆転式ディーゼル機関を備え、各シリンダに船首側から順に1番から6番までの番号が付されていた。
主機の掃・排気系統は、主機のほぼ中央右舷側上部に備えられた1基の過給機によって吸入加圧された空気が空気冷却器、水滴分離器を経て掃気トランク1次室に入り、次いで掃気弁を通り、掃気トランク安全弁が付設された掃気トランク2次室を経てシリンダジャケット下部の掃気室に入り、各シリンダライナ下部周囲にある掃気孔からシリンダ内に供給され、噴射された燃料と混合して急激に燃焼したのち、ユニフロー式掃気により、排気ガスがシリンダヘッド中央部の排気弁から排気管、次いで排気静圧管に設けられたディフューザを経て一旦同静圧管内にとどまったのち、過給機に至って同機を駆動し、排ガスエコノマイザ、次いでスパークアレスタを経て煙突から船外に排出されるようになっており、主機の低負荷運転時には、掃気トランクの前端部及び後端部に備えられた各1基の補助ブロワが掃気圧力を検知して自動運転し、掃気トランク1次室から吸入した空気を掃気トランク2次室に送り込んで空気量の不足を補うようになっていた。
主機の過給機は、三菱重工業株式会社長崎造船所が製造したMET33SC型と呼称する、無冷却軸流式の排気タービン過給機で、本体が排気ガス入口ケーシング、排気ガス出口ケーシング、軸受台、空気案内ケーシング、うず室及び空気吸込ケーシングから構成され、タービンブレード及びブロワインペラを一体に組み立てたロータ軸が軸受台に取り付けられた2個の平軸受で支持され、ブロワ側2個のスラスト軸受がロータ軸の軸方向の移動を押さえており、タービン側には排気ガスの流入を防ぐガスパッキン環及び潤滑油の漏洩を防ぐ油ラビリンスが、ブロワ側には空気の漏洩を防ぐ空気ラビリンス及び潤滑油の漏洩を防ぐ油ラビリンスがそれぞれ設けられ、軸受台の上部には主機の潤滑油系統から分岐した給油管が接続されて、ロータ軸の各軸受を潤滑するようにな

っていた。
主機のシリンダ注油は、シリンダライナ内面及びピストンリング間に油膜を形成してシリンダライナなどの摩耗、腐食及び摩擦による過熱並びに空気及び燃焼ガスの漏洩を防止するなどのために、他の潤滑油系統とは全く独立した系統で、シリンダ注油器によりシリンダライナ円周4箇所の注油穴からシリンダ内に注油されるようになっていた。
ところで、主機のメーカーは、シリンダ注油量決定に対する注意事項として、ブローバイなどが発生しないよう、シリンダジャケットの、のぞき穴から点検してシリンダライナ表面がぬれて光って見える程度を基準とし、やや乾燥気味になってきたときは注油量の不足または燃焼ガス洩れ増加の証拠である旨を機関取扱説明書に記載するとともに、「主機過給機オーバーラン事故防止について」などのテクニカル・インフォメーションを取扱者に配付して排気静圧管内の火災などによる事故防止を促し、掃気室内の掃除を3箇月ごとに行うよう推奨していた。

A受審人は、日昌丸に平成8年5月から一等機関士として3箇月間、同9年1月から機関長として6箇月間、更に同年9月再度機関長として乗り組み、自ら機関当直に入る一方、機関部乗組員2人を指揮して主機などの運転及び保守管理に当たり、燃料噴射弁の整備を1,000時間ごとに、排気弁の整備を2,000時間ごとにそれぞれ行い、過給機のブロワ側水洗浄を適宜行うなどしていたものの、掃気室内を掃除しないばかりか、シリンダ注油量及びピストンリングの状態を点検した際、ピストン側面などの乾燥を認めたが、主機の運転に特に問題がなかったので大丈夫と思い、シリンダ注油量の調整を適切に行うことなく、同注油量の不足によりブローバイによる掃気室内への燃焼ガス洩れが生じ易い状況となったまま主機の運転を続けていた。
こうして、日昌丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま船首1.60メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成10年2月4日16時00分三重県津港を発し、主機の回転数を毎分190にかけて11.0ノットの速力で長崎県郷ノ浦港に向かっていたところ、シリンダ注油量の不足によりシリンダライナ内面が乾燥して同内面及びピストンリング間の油膜が破れ、スラッジなどで著しく汚損された掃気室内へ燃焼ガスが吹き抜ける状態となり、同ガスと掃気の混合及び同室内に堆積したスラッジなどにブローバイの火花が着火して軽い火災が生じ、シリンダ内に供給される酸素量の不足並びに圧縮比の低下などによりシリンダ内の燃焼が不良となり、また主機の出力が低下することから、回転数維持のために調速機が燃料の噴射量を増加させる方向に働き、燃料に対する酸素量が更に不足してシリンダ内の燃焼がますます不良となった。
このため、不完全燃焼により生成された未燃焼ガスは、排気静圧管内に滞留することとなり、同月6日02時30分姫島西浦港西防波堤灯台から真方位326度5.4海里の地点において、いつしか噴霧不良となっていた燃料噴射弁が噴射しなくなるかなどして酸素を含んだ掃気が排気静圧管内に流れ込み、滞留した未燃焼ガスに排気ガス中の火花が引火して爆発的燃焼が同静圧管内で生じ、多大な燃焼エネルギーにより過給機が過回転し、大音響を発するとともに大破した。
当時、天候は晴で風力4の西北西風が吹き、海上には多少の波浪があった。
損傷の結果、日昌丸は、主機が運転不能となり、曳船に曳航されて広島県佐伯郡能美町鹿川(かのかわ)港に引き付けられ、のち、大破した過給機の換装が行われた。


(原因)
本件機関損傷は、主機掃気室内の掃除が不十分であったばかりか、シリンダ注油量の調整が不適切で、同室内に堆積したスラッジなどにブローバイの火花が着火して軽い火災を生じ、シリンダ内に供給される酸素量の不足による燃焼不良で生じた未燃焼ガスが排気静圧管内に滞留し、爆発的燃焼を生じたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機のピストン側面などの乾燥を認めた場合、シリンダ注油量の不足によりブローバイが発生し、火花が主機掃気室内に堆積したスラッジなどに着火するおそれがあったから、火災によりシリンダ内に供給される酸素量の不足が生じないよう、同室内を掃除のうえシリンダ注油量の調整を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機の運転に特に問題がなかったので大丈夫と思い、主機掃気室内を掃除のうえシリンダ注油量の調整を適切に行わなかった職務上の過失により、シリンダ内に供給される酸素量の不足による燃焼不良を生じさせ、排気静圧管内に滞留した未燃焼ガスの爆発的燃焼を招き、過給機を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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