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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月18日06時30分 瀬戸内海播磨灘 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第二浪花丸 総トン数 189.96トン 登録長 35.08メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 294キロワット 回転数
毎分420 3 事実の経過 第二浪花丸(以下「浪花丸」という。)は、昭和56年1月に進水した、専ら次亜塩素酸ソーダの輸送に従事する鋼製危険物タンカーで、主機として株式会社松井鉄工所が製造したMU623CGS−2型と称するディーゼル機関を装備し、同機の動力取出軸に装着したプーリによりベルト駆動する電圧225ボルト容量25キロボルトアンペアの交流発電機を備え、操舵室に潤滑油圧力低下などの警報装置及び主機遠隔操縦装置を設け、同室から主機の回転数制御及び逆転減速機の嵌脱(かんだつ)操作ができるようになっていた。 主機は、燃料油にA重油を使用する、シリンダ数6、シリンダ径230ミリメートル(以下「ミリ」という。)、行程380ミリの機関で、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、全長2,668ミリ、ジャーナル径200ミリ、クランクピン径160ミリの炭素鋼鍛造製クランク軸を7個の主軸受で支持し、逆転減速機を介してプロペラ軸に動力を伝達するようになっていた。また、主軸受は、鋼製裏金の内側に銅合金を0.75ミリの厚さに溶着し、その上にホワイトメタルを約0.2ミリの厚さに張り付け、更に鉛錫合金のオーバーレイを施した薄肉完成メタルが組み込まれていて、シリンダブロックの上部からメタルキャップを装着したうえ主軸受ボルト2本を同キャップ側から同ブロック本体のねじ穴に挿入し、軸受隙間(すきま)が0.12ないし0.2ミリとなるよう、72ないし75キログラムメートルの規定トルクで締め付けて同ブロック本体に取り付けられていた 主機の潤滑油系統は、クランク室底部に設けられた容量90リットルの油だめから直結の歯車式潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器については「潤滑油」を省略する。)により吸引加圧された潤滑油が、複式のこし器及び冷却器を経て入口主管に至り、同主管からシリンダごとに分流して主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑したうえピストンを冷却するほか、カム軸、伝導歯車装置、ロッカーアームなどにも分流して各部を潤滑し、いずれも油だめに戻り循環しているもので、このほか油だめから電動機駆動の予備ポンプにより吸引加圧された潤滑油がこし器に流れる経路を設けており、同主管部の潤滑油圧力の標準値が2.5ないし3.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)で、同圧力が1.4キロ以下になると、同圧力センサーがこれを検知して警報装置に電気信号を送り、操舵室及び機関室の警報ランプが点灯するとともに、警報ブザーが鳴るようになっていた。 浪花丸は、平成元年4月現船舶所有者のR有限会社が購入し、徳島県今切港内にある東亜合成化学工業株式会社と大塚化学株式会社の両専用岸壁間において、1日に1ないし2回次亜塩素酸ソーダの輸送を行っていたほか、月に2回ほど同港から京阪神地区及び瀬戸内海周辺の諸港への同ソーダの輸送にも従事していた。 A受審人は、同8年7月から機関長として浪花丸に乗り組み、1人で機関の運転管理にあたり、同年11月定期検査工事で主機の全シリンダのピストン、吸・排気弁、燃料噴射弁及び過給機などの整備を行い、使用時間限度に達した全数の連接棒ボルトとクランクピン軸受メタルをそれぞれ取り替えたが、主軸受メタルについては、4番の同メタル上半部を開放して目視検査を行い、特に異常を認めなかったので、そのまま復旧した。 ところが、主軸受メタルは、整備来歴が不明のまま長期間継続使用されていたところからオーバーレイやホワイトメタルがはく離し始め、裏金に溶着した銅合金などの摩耗の進行により軸受隙間が増加して潤滑油圧力が低下するおそれのある状態になっていた。 その後、A受審人は、定期的に主機の潤滑油を取り替え、10日ごとにこし器を切り替えて同器こし網の掃除を行っていたところ、いつしか主軸受メタルの摩耗が進行して金属粉などが潤滑油中に混入するようになり、同10年に入ってから同器こし網に付着する金属粉が次第に増加し、かつ潤滑油圧力が徐々に低下するのを認めたが、同圧力の急激な低下が生じていないので、同年12月中旬ごろ受検予定の中間検査時まで大丈夫と思い、早期に主軸受の点検を行うことなく、主機の運転を続けていた。 こうして、浪花丸は、A受審人及び船長の2人が乗り組み、150トンの次亜塩素酸ソーダを載せ、船首2.1メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同年11月18日01時00分今切港を発し、愛媛県三島川之江港に向け、主機を回転数毎分370の全速力前進にかけて播磨灘を西行中、05時20分ごろ点検のため機関室に赴いたA受審人が、それまで2.1キロを示度していた圧力計の針が1.2キロに低下して同室の警報装置が作動しているのを認め、こし器を切り替え、予備ポンプを並列運転としたものの、潤滑油圧力が上昇しなかったので主機を停止するよう船長に要請したが、航路筋近くを進行中であったうえ海上がしけ模様であったことから、直ちに主機を停止できず、主機を回転数毎分200に減じ、同器こし網の掃除を繰り返し、同圧力の上昇に努めながら香川県小豆島地蔵埼東方の錨地に向けて続航中、かねてより軸受隙間が著しく増大して潤滑不良となっていた1、4、5及び6番の各主軸受メタルが焼損し、06時30分大角鼻灯台から真方位146度3.5海里の地点において、主機が異音を発した。 当時、天候は曇で風力4の西北西風が吹き、海上はしけ模様であった。 機関室で主機の監視を行っていたA受審人は、異音に気付いて直ちに主機を止め、こし器を開放したところ同器こし網に多量の金属粉が付着しており、検油棒挿入孔から多量の白煙が噴出し、クランク室ドアが異常に発熱しているのを認め、運転不能と判断して事態を船長に報告した。 浪花丸は、来援した引船により三島川之江港に引き付けられ、主機各部を精査した結果、前示の各主軸受メタルが焼損してクランク軸及び台板が損傷したほか、クランクピン軸受メタルにも損傷を生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、主機のこし器こし網に金属粉が付着し、かつ潤滑油圧力が徐々に低下するようになった際、主軸受の点検が不十分で、長期間継続使用していた主軸受メタルの摩耗が進行し、軸受隙間が著しく過大となったまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機のこし器こし網に金属粉が付着し、かつ潤滑油圧力が徐々に低下するようになったのを認めた場合、長期間継続使用していた主軸受メタルが摩耗して軸受隙間が過大となっているおそれがあったから、早期に主軸受の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同圧力の急激な低下が生じていないので、中間検査時まで大丈夫と思い、早期に主軸受の点検を行わなかった職務上の過失により、同メタルの摩耗が進行していることに気付かずに運転を続け、軸受隙間が過大となって同圧力の著しい低下を招き、主軸受メタル、クランクピン軸受メタル、クランク軸及び台板を損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |