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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月21日14時15分 三重県引本港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十一光徳丸 総トン数 79トン 全長 31.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
511キロワット 3 事実の経過 第十一光徳丸(以下「光徳丸」という。)は、平成3年7月に進水した、かつお及びまぐろ漁に従事するFRP製漁船で、容量130キロボルトアンペアの発電機2台を装備していた。 発電機の原動機(以下「補機」という。)は、三菱重工業株式会社が製造した6D16−MPT型と称する定格出力114キロワット、同回転数毎分1,800の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、左舷側を1号、右舷側を2号と呼称しており、冷凍用電力負荷の多い8月及び9月は並列運転、それ以外は単独運転で交互に使用し、各補機の年間運転時間は約2,000時間であった。 補機は、潤滑油圧力が1.5キログラム毎平方センチメートル以下に低下したとき作動する警報装置を備えていたが、同圧力低下の自動停止装置は備えていなかった。また、潤滑油はオイルパンに標準で約14リットル入れられ、検油棒で潤滑油量が点検できるようになっていた。 A受審人は、光徳丸就航時から機関長として乗り組んで機関の運転管理及び保守整備に当たっていたもので、補機については、運転時間約500時間ごとに潤滑油の全量及びこし器エレメントの取り替えを行い、潤滑油消費分は10日ごとに約4リットルを補給していたが、平成10年7月20日ごろ2号補機の潤滑油を取り替えたのち、潤滑油量点検及び補給を失念したまま補機の運転を繰り返した。 同年8月21日光徳丸は、A受審人ほか12人が乗り組んで北緯30度付近の漁場で操業ののち、漁獲物のかつおを水揚げする目的で、船首2.0メートル船尾2.4メートルの喫水で三重県引本港に入港し、07時45分潤滑油取替え後の運転時間が約515時間となっていた2号補機を停止して1号補機の単独運転とし、08時引本港防波堤灯台から真方位036度700メートルの地点の引本魚市場前岸壁に係留した。 A受審人は、水揚げ終了後出港準備にかかり、同日14時2号補機を始動する際、同機は潤滑油ポンプが空気を吸い込むほど潤滑油量が減少していたが、停止してまもないのでそのまま始動しても問題ないものと思い、潤滑油量を点検することなく始動した。 こうして光徳丸は、出港準備中、潤滑油量不足のまま運転中の2号補機が、潤滑油ポンプの空気吸い込みにより潤滑油圧力が低下し、同日14時15分前示係留地点において、潤滑油圧力低下警報が作動するとともに各部の潤滑が阻害された。 当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。 機関室下段で魚倉の張水作業中のA受審人は、急ぎ2号補機を停止したが、ターニングできたことからそのまま再始動したところ同機が大音を発したので再度停止し、クランク室を開放して多量の金属粉を認め、継続運転不能と判断した。 この結果、2号補機のクランク軸、カム軸、全シリンダの主軸受メタル、クランクピン軸受メタル、ピストン及びシリンダライナが焼損し、シリンダブロック及び潤滑油ポンプが損傷したが、いずれも取り替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、補機の潤滑油量管理が不十分で、潤骨油量が不足したまま運転が続けられ、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機を始動する場合、潤滑油量不足のまま運転して潤滑が阻害されることのないよう、潤滑油量を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、長期間潤滑油量点検及び補給を失念したまま運転を繰り返したあと、前回停止後まもないのでそのまま始動しても問題ないものと思い、潤滑油量を点検せず、潤滑油量不足のまま始動、運転した職務上の過失により、補機の主軸受メタル、クランクピン軸受メタル、ピストン、シリンダライナ、クランク軸、カム軸、シリンダブロック及び潤滑油ポンプを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |