日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年仙審第31号
    件名
油送船第一礼文丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年12月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

内山欽郎、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第一礼文丸機関長 海技免状:一級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
ピストン割損、連接棒、クランク軸、シリンダライナ、シリンダヘッド及び過給機等損傷

    原因
停泊用発電機原動機の吸・排気弁弁すきま調整ねじ用ロックナットの締付け状態の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、停泊用発電機原動機の吸・排気弁弁すきま調整ねじ用ロックナットの締付け状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月20日01時50分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 油送船第一礼文丸
総トン数 699トン
全長 75.02メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット(定格出力)
回転数 毎分280(定格回転数)
3 事実の経過
第一礼文丸(以下「礼文丸」という。)は、平成5年9月に進水した灯油、軽油及びガソリン等石油精製品の輸送に従事する鋼製油送船で、機関室下段中央部に主機を据え付け、船内電源装置として、主機の両舷船首部に1号機及び2号機と称する共に容量180キロボルトアンペアの常用発電機を、同室中段右舷船尾部に3号機と称する容量75キロボルトアンペアの停泊用発電機をそれぞれ装備していた。
停泊用発電機の原動機(以下「3号補機」という。)は、三井・ドィツ・ディーゼル・エンジン株式会社が製造したBF5L913型と称する、定格出力68キロワット同回転数毎分1,800の過給機付空冷式4サイクル5シリンダ・ディーゼル機関で、各シリンダには船尾側から順番号が付され、シリンダヘッドは吸・排気弁が各1個の2弁式が採用されていた。

3号補機の吸・排気弁は、シリンダ中央部に向かってやや斜めに取り付けられた円筒形の弁ガイド内を弁棒が上下するきのこ形弁で、弁棒上端部の溝にはめ込んだ二つ割れのコッタを介して上部ばね受金と結合し、下部ばね受金を兼ねるバルブローテータと上部ばね受金の間の1個の弁ばねによって閉弁方向に保持されており、吸・排気弁カムからプッシュロッドを介して作動する弁腕により、弁ばねの張力に打ち勝って下方に押し下げられて開弁する機構になっていた。また、弁棒頭部と弁腕との間には弁すきまと呼ばれるすきまが設けられていて、同すきまは、弁腕のプッシュロッド側に取り付けられた緩み防止用のロックナット1個を備えた調整ねじで調整するようになっていた。
なお、機関取扱説明書には、弁すきまが吸・排気弁の開閉時期を決定することなどから、同すきまを0.15ミリメートルに調整するよう、また、調整後は、調整ねじが緩まないよう確実にロックナットを締め付けたのち再度同すきまが正しく調整されているかを確認するよう記載されていた。

ところで、吸・排気弁は、弁すきまが過大なまま運転されると、弁棒頭部が弁腕で激しく叩かれ、弁及び弁ばね等に衝撃や振動が発生して静粛な運転ができなくなるだけでなく、弁ガイドと弁棒とのすきまが大きくなっていたりコッタが摩耗していたりなどの悪条件が重なった場合には、コッタが外れてシリンダ内に落下するおそれがあった。
礼文丸は、それぞれの発電機を、容量の関係から、通常は1、2号機を負荷に応じて単独または並列運転として常用し、3号機は、常用発電機が整備の都合で2台とも使用できない場合や長期間の停泊時等にのみ運転することにしており、その運転時間が年間約700時間と少なかったことから、就航以来、同補機の吸・排気弁の整備を行っていなかった。
A受審人は、平成6年から機関長として乗り組み、定期的に陸上休暇を取りながら乗下船を繰り返していたもので、3号補機吸・排気弁の弁すきまについては、たまにヘッドカバーを取り外し、弁腕を手で押さえつけてすきまの状態を確認する程度で、一度もすきまゲージで正規に調整したことがなかったため、同10年12月11日の航海中、自分の当直中に同補機クランク軸船首側軸シールの取替え作業を行った際、同作業が完了したのち、機関取扱説明書に記載された調整方法に基づき、1人で調整ねじのロックナットを緩めて弁すきまの調整を行った。

ところが、同人は、同弁すきまの調整を機関取扱説明書に記載された方法で行ったものの、簡単な作業なので不手際はあるまいと思い、調整後にロックナットの締付け状態を確認して再度弁すきまが正しく調整されているかを確かめるなどの確認を十分に行わなかったので、1番シリンダ排気弁弁すきま調整ねじのロックナットが確実に締め付けられていないことに気付かなかった。
その後、礼文丸は、停泊時に3号補機を運転するなどしながら航海を繰り返し、同補機を延べ30時間ほど運転しているうち、1番シリンダ排気弁の弁すきま調整ねじが緩み始め、同すきまが徐々に拡大して衝撃や振動が増加する状況となっていた。
こうして、礼文丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、灯油等の石油精製品2,040キロリットルを積載し、揚げ荷の目的で、同月19日14時00分茨城県鹿島港を発し、同日19時10分福島県小名浜港に至り、翌朝の着岸に備えて小名浜港沖防波堤西灯台から真方位338度960メートルの地点に錨泊したのち、19時30分発電機を2号機から3号機に切り換えて同機を単独で運転していたところ、3号補機1番シリンダの排気弁が、弁棒頭部が弁腕で叩かれた衝撃と振動でコッタが外れてシリンダ内に脱落し、同弁がピストンとシリンダヘッド間で挟撃され、ピストンが割損するとともに連接棒がクランクケースを突き破り、翌20日01時50分同地点において、同補機が異音を発するとほぼ同時に船内がブラックアウトして警報装置が作動した。

当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
自室で就寝中のA受審人は、警報音で目を覚まし、直ちに機関室に赴いたところ、3号補機が停止して非常灯が点灯しているのを認めたので、すぐさま電力確保のために2号発電機を運転して点検し、3号補機右舷側のシリンダブロックに破口が生じているのを発見したが、検査するまで手を触れないようにとの会社の指示に従い、同補機はそのままの状態にしてその後1、2号発電機を使用して航海を続行した。
礼文丸は、後日3号補機を陸揚げして精査の結果、前示の損傷のほか、クランク軸、シリンダライナ、シリンダヘッド及び過給機等も損傷していることが判明したため、修理費用の関係で次回の入渠時に同補機を新替えすることとした。


(原因)
本件機関損傷は、停泊用補機吸・排気弁の弁すきまを調整した際、調整ねじ用ロックナットの締付け状態の確認が不十分で、同補機の運転中に排気弁の調整ねじが緩んで弁すきまが拡大し、同弁が、弁腕に叩かれた衝撃や振動でコッタが外れてシリンダ内に落下し、ピストンとシリンダヘッド間で挟撃されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、停泊用補機吸・排気弁の弁すきまを調整する場合、調整ねじが緩んで弁すきまが拡大することのないよう、同すきまの調整後にロックナットの締付け状態を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、機関取扱説明書に記載された方法で調整したし、簡単な作業なので不手際はあるまいと思い、同すきまの調整後にロックナットの締付け状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、調整ねじの緩みから弁すきまの拡大を招き、排気弁が、衝撃と振動でコッタが外れ、シリンダ内に落下してピストンとシリンダヘッド間で挟撃され、ピストンやシリンダヘッド等に損傷を与えて同補機を新替えさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION