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1999年(平成11年)

平成11年仙審第30号
    件名
漁船福寿丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年12月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

内山欽郎、上野延之、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:福寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
クランクピン軸受メタル及び主軸受メタル焼損、クランク軸と連接棒損傷、加給機損傷等

    原因
主機潤滑油こし器の組込み部品の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器の組立て時に組込み部品の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月17日20時00分
青森県八戸港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船福寿丸
総トン数 14.46トン
全長 19.58メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,850(定賂回転数)
3 事実の経過
福寿丸は、昭和51年11月に進水した、いか一本釣り漁業及び刺網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成2年5月に換装したヤンマーディーゼル株式会社製の6LAH−ST型と称するディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダには船首側から順番号が付されており、6番シリンダの船尾架構上に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が据え付けられていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに約64リットル入れられた潤滑油が、直結歯車式の潤滑油ポンプによって吸引・加圧され、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て主機の入口主管に至り、同管から分岐して主機各軸受部や過給機の軸受等へ供給されたのち、再び油だめに戻って循環するようになっていた。

ところで、主機の潤滑油こし器は、主機右舷側下部に下向きに取り付けられた2筒式のもので、潤滑油の入口及び出口流路が設けられた本体、各こし筒用の中空円筒形の紙製フィルタエレメント(以下「エレメント」という。)、エレメント押え用のスプリング、それ等を納める円筒形のケース及び同ケースを下側から本体に取り付けるボルト等で構成され、エレメントの頂面が、下部に組み込まれたスプリングの力で、同心円状に設けられた本体の入口と出口の境界面に押しつけられる構造となっていた。
従って、潤滑油は、同こし器本体の入口からエレメント外周に流入し、エレメントで異物が取り除かれたのち、エレメントの内側を上昇して本体の出口を通り、主機の入口主管に送油されるようになっているので、スプリングが組み込まれないと、エレメントの頂面が本体の入口と出口の境界面に押しつけられなくなり、エレメントを通らずに直接入口から出口に流れ、異物が取り除かれないまま主機各部に供給されるおそれがあった。

福寿丸は、例年、12月末から4月末までは地元の青森県岩崎港近くの漁場で刺網漁に従事し、5月の休漁期に船体及び機関を整備したのち、同月末から12月末までは日本海側から太平洋側まで漁場を移動しながらいか一本釣り漁に従事しており、同漁期には、通常13時ごろ基地と定めた水揚げ港を出港して翌朝7時ごろ帰港する操業を繰り返していた。
A受審人は、竣工時から船長として乗り組んで機関の運転管理も自らが単独で行っており、主機の潤滑油については、刺網漁期は約2箇月、いか釣り漁期には約40日を目安に、機付きのウイングポンプで旧油を抜き出したのち新油を張り込む方法で取替えを行い、同時に同油こし器を開放掃除してエレメントを新替えしていた。
同10年7月10日ごろA受審人は、入港した北海道留萌港において、連日の夜間操業で疲れていたものの、主機の潤滑油及び同油こし器エレメントが取替え時期にきていたので同作業を行うこととし、潤滑油こし筒を開放して、半分に切った一斗缶に洗い油を入れてその中にスプリング等の取り外した部品を漬けておき、各部品を掃除して新品のエレメントと共に組み立てたが、手慣れた作業なので手違いはあるまいと思い、真っ黒に汚れた洗い油の中に部品が残っていないかを点検するなど、組込み部品の確認を十分に行わなかったので、片方のこし筒のスプリングが洗い油中に残されていることに気付かないまま、同こし器の整備を終え油だめに新油を張り込んで一連の作業を終了した。

その後、福寿丸は、潤滑油こし器の片方のこし筒のスプリングが組み込まれていない状態で主機を運転しながら操業を繰り返しているうち、同こし器エレメントを素通りするようになった潤滑油が機関各部に供給され、各部の潤滑が徐々に阻害される状況となっていた。
こうして、福寿丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、同年8月17日14時水揚げ港とする青森県八戸港を発し、同港東方沖合の漁場に至ったのち、主機を運転しながら操業していたところ、潤滑阻害が進行していたクランクピン軸受メタルがクランクピンと焼き付き、同日20時00分鮫角灯台から真方位065度16海里の地点において、主機が異音を発して自停した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
損傷の結果、福寿丸は、主機の運転が不能となり、僚船に曳航されて八炉港に帰港したのち精査したところ、クランクピン軸受メタル及び主軸受メタルが焼損し、その影響でクランク軸と連接棒が損傷していたほか、過給機等も損傷していることが判明し、のち損傷部品がすべて新替されるなどの修理が行われた。


(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器を開放後、洗い油に漬けておいた各部品を掃除して組み立てた際、組込み部品の確認が不十分で、異物を含んだ潤滑油が同こし器エレメントを素通りして送油され、各部の潤滑が阻害されるまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油こし器を開放後、洗い油に漬けておいた各部品を掃除して組み立てる場合、取り外した各部品が確実に組み込まれたことを確認できるよう、洗い油の中に部品が残っていないかを点検するなど、組込み部品の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、手慣れた作業なので手違いはあるまいと思い、組込み部品の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、エレメント押さえのスプリングを組み込まないまま同こし器を組み立て、異物を含んだ潤滑油を送油して各部の潤骨阻害を招き、クランク軸を焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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