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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月19日13時35分ごろ 長崎県崎戸港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船信洋丸 総トン数 199トン 登録長 53.81メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 588キロワット 回転数
毎分330 3 事実の経過 信洋丸は、先代の信洋丸の代替船として平成4年1月に竣工した全通二層甲板船尾船橋機関室型の鋼製貨吻船で、航行区域を沿海区域と定め、竣工以来、A受審人と同人の親族らが乗り組んで一般貨物輸送に従事し、年間の主機運転時間が3,000時間程度であったところ、同9年10月に中間検査を済ませたのち、長崎県崎戸港から主として九州一円にかけての塩の輸送に従事するようになり、月間の主機運転時間が約200時間となった。 ところで、機関室の下段中央に据え付けた主機の左舷側前方に、出力117キロワットのディーゼル機関直結駆動の定格電圧225ボルト定格容量100キロボルトアンペアの交流発電機(以下「1号発電機」という。)を、機関室の上段前部に、主機の前部動力取出軸からベルト駆動される定格電圧225ボルト定格容量50キロボルトアンペアの交流発電機(以下「2号発電機」という。)、主配電盤、電動ポンプ類の集合始動盤等をそれぞれ配置し、操舵室には、機関室内遠隔監視用テレビジョンのほか、各発電機の気中遮断器遠隔操作スイッチ、各電動ポンプの遠隔発停スイッチ等を備えてあった。 また、2号発電機は、三信電具製造株式会社製のCG−50H型と称する全長1,505ミリメートル全幅740ミリメートル全高680ミリメートルの定速発電装置で、専ら航海中に使用され、船首側の渦電流継手を利用した定速装置と船尾側のブラシレス交流発電機とを1本の連結軸によって一体化し、船首船尾の両端部に連結軸を支えるための玉軸受を、船尾端部の玉軸受の前方至近のところと中央部とに、中空の発電機ドラムを支えるための玉軸受をそれぞれ1個ずつ設けてあった。なお、各玉軸受は、いずれも単列深溝型で、グリースの補給間隔を船尾端部が1,500時間、他の3個が3,000時間と定め、同装置の船首端に1個のグリースニップル、船尾端に2個のグリースニップルを露出させていたものの、中央部の玉軸受については、構造上同装置の内部にグリースニップルを設け、同装置の外周中央部にグリースポンプ差込用の開口部を設けていたので、取扱者に注意を促すため、同開口部にビス止めしたふたにグリース注入口と記載した銘板をはってあった。 一方、A受審人は、竣工以来、毎月1回乗組員全員で船内の各機器に対してグリースの補給を行い、2号発電機については、前示グリース注入口と記載した銘板をはったふたを認め、同銘板記載のグリース注入口の位置が不明であったが、先代の信洋丸に設置されていた主機駆動の発電装置と同様に、グリース注入口は両端の3個のグリースニップルだけと思い、2号発電機の説明書によって同銘板記載のグリース注入口の位置を確認することなく、同機の内部にもグリースニップルが設けられていることに気付かないで、中央部の玉軸受にはグリースを補給しないまま、両端部の3個の玉軸受にのみグリースの補給を繰り返しながら、運航に従事していた。 その結果、2号発電機の中央部の玉軸受がグリース不足となって磨滅し、発電機ドラムが振れ回るようになったものの、A受審人が同機の運転音や振動などに格別の変化を感じないでいるうち、同10年6月上旬から7月上旬にかけての航海中、一時的に発電機界磁が発電機電機子と接触して発生電圧が低下し、気中遮断器が外れるという事態が3回発生した。 A受審人は、2号発電機の気中遮断器が外れる都度、電気工事専門の業者に依頼して同遮断器を含む主配電盤、同発電機の絶縁抵抗等の電気系統の調査を行ったものの、同遮断器が外れる原因を明らかにすることができなかった。 こうして本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、崎戸港で鹿児島港向けの塩約600トンを積み、船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同年8月19日13時30分崎戸港を発し、船長が操舵室で操船にあたり、A受審人と甲板員が船首甲板上で、一等機関士が船尾甲板上でそれぞれ出港後の後片付け中、2号発電機の中央部の玉軸受の磨滅が著しく進行し、発電機界磁が発電機電機子に強く接触するようになって同界磁と同電機子の両巻線が焼損してしまい、13時35分ごろ御床島灯台から真方位065度1,800メートルばかりの地点において、主機の回転数が常用の毎分305となったことから、船長が運転中の1号発電機から2号発電機に切り替えようとしたものの、2号発電機が発電していなくて同発電機の気中遮断器を投入できず、その旨A受審人に通報した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 A受審人は、直ちに機関室に赴いたところ、2号発電機の発生電圧がゼロのうえ、同発電機の周囲に異臭と薄い煙漂っていることに気付き、同発電機を使用止めとし、1号発電機を運転したまま鹿児島港に至り、後日、2号発電機の全玉軸受新替え、発電機界磁と発電機電機子の両巻線巻替え等を行った。
(原因) 本件機関損傷は、主機駆動定速発電装置の取扱いにあたり、グリース注入箇所の確認が不十分で、長期間、同装置の中央部に設けられた玉軸受にグリースが補給されなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機駆動定速発電装置の玉軸受にグリースを補給する場合、両端のグリースニップルのほか、同装置の外周中央部に、グリース注入口と記載した銘板をはったふたが取り付けられていたものの、同銘板記載のグリース注入口の位置が分からなかったから、グリースの補給もれ箇所がないよう、同装置の説明書により、グリース注入口の位置を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、単なる過去の経験から、グリース注入口は両端のグリースニップルだけと思い、同銘板記載のグリース注入口の位置を確認しなかった職務上の過失により、同装置の内部にもグリースニップルが設けられていることに気付かず、両端部の玉軸受にはグリースを補給するも、中央部の玉軸受にはグリースを補給しないで同軸受の著しい磨滅を招き、発電機電機 子と発電機界磁の両巻線の焼損等を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |