日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年横審第81号
    件名
漁船千秋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年11月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、長浜義昭、吉川進
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:千秋丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
全主軸受、全クランクピン軸受及びクランク軸に多数のかき傷

    原因
潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月13日06時10分
小笠原諸島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船千秋丸
総トン数 19トン
登録長 17.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット
回転数 毎分1,800
3 事実の経過
千秋丸は、昭和63年3月に進水した、近海まぐろ漁業に従事するFRP製漁船で、毎年5月末から6月末までの休漁期に船体及び機関の整備を行っており、平成6年6月主機が三菱重工業株式会社製造のS6RF−MTK型と称するディーゼル機関に換装された。
主機は、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、潤滑油がオイルパンに標準で140リットル入れられ、直結の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器・管等については「潤滑油」を省略する。)で吸引加圧され、4.2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて一部がろ過精度2ミクロンのバイパスこし器を経てオイルパンに、残りがろ過精度20ミクロンの複筒こし器を経て主管から各軸受等の潤滑及びピストン冷却に供給されたのちオイルパンに戻って循環するようになっており、潤滑油の性状管理については、運転時間250時間ごとに潤滑油及び潤滑油系統の各こし器の紙製のエレメントを取り替えるよう取扱説明書に記載されていた。

ところで、主機潤滑油系統には、複筒こし器エレメントが目詰まりしたとき潤滑油が途絶して軸受などが焼き付くのを防止する目的で、同こし器にバイパス弁が設けられ、同こし器前後の差圧が2.5キロを超えると同弁が開くようになっていたが、緊急避難的なものであり、同弁の作動警報は設けられておらず、同弁が開いたまま運転を続けると潤滑油中の不純物が取り除かれず、軸受メタルなどに傷を生じるおそれがあった。
A受審人は、千秋丸就航時から機関長として乗り組み、機関の保守整備に当たっていたが、潤滑油の性状管理については、時折同油を指で触れるのみで、潤滑油の取替えを約40日ごと、すなわち運転時間約1,000時間ごととし、また、各こし器エレメントの取替えは潤滑油の取替え2回に1回の割合で行えば大丈夫と思い、潤滑油と各こし器エレメントの取替えを、取扱説明書に記載の250時間ごとにするなり、あるいは汚れの進行状況を確認のうえ適切な使用時間を基準にするなど、性状管理を十分に行うことなく、平成10年11月8日潤滑油取替えの際、各こし器エレメントは目詰まりが進行していたものの、取替えの予定ではなかったので取外しも点検もしなかった。

こうして千秋丸は、主機のオイルパンと配管内が汚れ、潤滑油を取り替えても数時間で同油が汚損し、各こし器エレメントの目詰まりがさらに進行して運転中バイパス弁が開いたままとなり、潤骨油中の不純物が複筒こし器を通らずに主機各部に送油され、各軸受にかき傷を生じる状況となった。
千秋丸は、このような状況のもと同月29日07時A受審人ほか4人が乗り組み、船首尾とも2.5メートルの喫水で静岡県焼津漁港を発し、小笠原諸島西方の漁場に至って操業を開始し、翌12月13日主機回転数毎分約1,400として運転中、不純物の侵入によりかき傷が生じていた主機4番シリンダのクランクピン軸受が発熱、焼損し、06時10分北緯28度46分東経138度7分の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、海上は穏やかであった。
船橋当直中のA受審人は、ただちに機関室に赴いて主機各部を点検するうち、異音が次第に大きくなるので主機は運転不能と判断し、船長にその旨報告した。

千秋丸は、引船により和歌山県勝浦漁港に引き付けられて精査の結果、前示損傷のほか全主軸受、全クランクピン軸受及びクランク軸に多数のかき傷が認められ、クランク軸なと損傷部品が取替え修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油の汚れ及び複筒こし器エレメントの目詰まりが進行してバイパス弁が開いたままとなり、潤滑油中の不純物が同こし器を通らずに主機各部に送油される状態のまま運転が続けられ、主軸受など各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、潤滑油と各こし器エレメントの取替えを、取扱説明書に記載の運転時間250時間ごとにするなり、あるいは潤滑油の汚れや劣化の進行状況を確認のうえ適切な使用時間を基準にするなど、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、時折潤滑油を指で触れるのみで、汚れや劣化の進行状況を確認しないまま、潤滑油の取替えを運転時間約1,000時間ごと、また、各こし器エレメントの取替えは潤滑油の取替え2回に1回の割合としても大丈夫と思い、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、潤滑油の汚れ及び複筒こし器エレメントの目詰まりが進行してバイパス弁が開いたまま運転を続け、全主軸受、全クランクピン軸受及びクランク軸などを損傷させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION