![](0131.files/ecblank.gif) |
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月31日24時00分 岩手県釜石港東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十二両合丸 総トン数 290トン 全長 48.60メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 1,176キロワット(計画出力) 回転数
毎分380(計画回転数) 3 事実の経過 第十二両合丸(以下「両合丸」という。)は、昭和59年5月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製運搬船で、機関室中央部に主機を据え付け、同機の右舷側に1号機左舷側に2号機と称する、いずれもディーゼル機関(以下「補機」という。)で駆動される容量120キロボルトアンペアと225キロボルトアンペアの3相交流発電機を各1基装備し、船橋には主機遠隔操縦装置のほか主機及び各補機の警報装置を備えていた。 2号補機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したS165L−T型と称する定格出力250キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、各シリンダには船首側から順番号が付されていた。 同補機の潤骨油系統は、クランク室底部の油だめから直結駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧された潤滑油が、ペールエレメントを内蔵したこし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、各シリンダごとに主軸受、クランクピン軸受を順に潤滑する系統や噴油ノズルから各ピストン内面に噴射されてピストンを冷却する系統などに分岐し、各部を潤滑あるいは冷却したのち油だめに戻って循環するようになっていた。また、同系統には、船首側に設けられた計器盤に入口主管の圧力を表示する圧力計が取り付けられていたほか、同管の圧力が低下すれば作動する圧力警報装置が設けられていた。 ところで、同補機の入口主管における潤滑油圧力は、通常5.0ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)で、同油圧力低下の警報値は、約4.5キロに設定されていた。 両合丸は、平成5年2月R株式会社が購入後、毎年5月前後に入渠して船体及び機関の整備を行い、時期によって三陸沖及び日本海の漁場を移動しながら操業を繰り返しており、その間、発電機は、1、2号機の並列運転ができないため、容量の関係から、水中集魚灯を点灯する船及び長期間停泊する場合にのみ1号機を使用し、それ以外はほとんど2号機を使用していた。 A受審人は、同9年9月機関長として乗り組んで主機及び各補機等の運転管理に従事し、2号補機を月間670時間ほど運転して操業を繰り返しており、同補機の潤滑油については、ほぼ2箇月ごとに同油こし器のペーパーエレメント及び同油の取替えを行っていたが、同油の取替えは、機付きのウイングポンプで旧油を抜き取り、クランク室内の掃除は行わないまま新油を張り込む方法で行っていた。 両合丸は、日本海側での操業を終えたのち、A受審人ほか8人が乗り組み、第一種中間検査受検の入渠の目的で、同10年5月30日08時20分石川県蛸島漁港を発し、宮城県塩釜港の造船所に向けて航行中、いつしかピストンリングが摩耗するなどしてブローバイ気味となっていたこともあり、潤滑油こし器が目詰まりして同油圧力が低下し、翌31日23時00分ごろ同油圧力警報が作動した。 A受審人は、明朝の入渠に備えて甲板上でバラスト水の排出作業等を行っていたところ、船橋から2号補機の警報が鳴った旨の連絡を受けて機関室に赴き、同補機の潤滑油圧力警報が作働しているのを認めたが、入渠間近でもあり同油圧力が通常よりさほど低下していなかったので問題はないものと思い、直ちに1号機に切り替えて潤滑油こし器を開放して見るなど、同油系統の点検を十分に行うことなく、警報ベルを停止して甲板作業に戻ったので、同こし器が目詰まりして同油圧力が低下していることに気付かなかった。 こうして、両合丸は、潤骨油こし器の目詰まりが徐々に進行し、同油圧力が更に低下する状態で2号補機の運転を続けているうち、同油圧力が低下するに伴って各部の潤滑及び冷却が阻害され、同日24時00分ごろ首埼灯台から真方位107度5海里の地点において、A受審人が、最近同補機の潤滑油の消費量が増加するとともに負荷が高い時などに黒煙を発するようになったことを思い出し、不安となって、1号発電機に負荷を移行したのち同補機を停止したところ、過熱の程度が著しかった5番シリンダのピストンとシリンダライナとが焼き付いた。 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 両合丸は、停止した2号補機の点検を行わないまま造船所に入渠し、同補機を定期開放したところ、5番シリンダ以外のピストン及びシリンダライナも焼付き寸前の状態であり、全クランクピン軸受メタルも著しく摩耗しているのが判明したので、すべての損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
(原因) 本件機関損傷は、補機の潤滑油圧力警報が作動した際、潤滑油系統の点検が不十分で、同油こし器の目詰まりにより同油圧力が低下したまま補機の運転が続けられ、各部の潤滑及び冷却が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機の潤滑油圧力警報が作動するのを認めた場合、潤滑油こし器が目詰まりするなどして各部の潤滑及び冷却が阻害されるおそれがあったから、同こし器を開放して見るなど、潤滑油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、入渠間近でもあり同油圧力が通常よりさほど低下していなかったので問題はないものと思い、同油系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同油圧が低下したまま補機の運転を続けて各部の潤骨及び冷却阻害を招き、ピストンとシリンダライナとを焼損させたほか、クランクピン軸受メタルにも損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |