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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年8月5日09時50分 南太平洋 2 船舶の要目 船種船名
漁船第28八幡丸 総トン数 228トン 全長 42.85メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 647キロワット(定格出力) 回転数
毎分675(定格回転数) 3 事実の経過 第28八幡丸(以下「八幡丸」という。)は、昭和58年6月に竣工した、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、機関室には、中央部に主機を据え付け、同機の右舷側に1号機左舷側に2号機と称するそれぞれ容量180キロボルトアンペア及び250キロボルトアンペアの補機駆動の3相交流発電機を各1基装備し、船首側に3台の魚倉用冷凍機を、右舷側に造水器を備えており、船橋には、主機遠隔操縦装置のほか主機及び各補機の警報装置を設けていた。 両発電機の補機は、いずれもダイハツディーゼル株式会社が製造した、1号機がM3SG−A型と称する定格出力161キロワットの、2号機がM5SG−A型と称する定格出力220キロワットの4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、各シリンダにはそれぞれ船首側から順番号が付され、燃料にはA重油を使用していた。 両補機の各シリンダヘッドは、いずれも3シリンダ分を一体形とした吸・排気弁が4弁式の特殊鋳鉄製のもので、17本のシリンダヘッドボルトで架構に取り付けられるようになっており、基本的な形状及び寸法は同じであったが、シリンダ径に関連した部分の寸法が異なるため、1号機と2号機の互換性はなかった。 両補機の冷却清水系統は、共に清水冷却器を内蔵した清水タンクから、直結ベルト駆動の冷却清水ポンプで吸引されて約1.5キログラム毎平方センチメートルに加圧された清水が、シリンダジャケットを経てシリンダヘッドを冷却したのち、同タンクに戻って循環するようになっており、同タンクには、機関室上方に設置された冷却水膨張タンクからの配管のほか、ドレン管及びドレン弁が設けられていた。また、同系統には、シリンダ出口集合管の冷却清水温度が摂氏90度(以下、温度は「摂氏」を省略する。)以上に上昇すると作動する警報装置が設置されていた。 ところで、両補機のシリンダヘッドは、形状が複雑なため、通常は目視による外観検査、表面のカラーチェック及び冷却水側の水圧検査で使用の可否が判定されており、一方、メーカーは、使用される環境条件によって耐用年数が大きく左右されることから、社内的には約9年ないし10年程度を耐用年数の目安と考えていたものの、使用限度基準は規定していなかった。 宮城県気仙沼港の岸壁に係船されていた八幡丸は、平成6年2月R株式会社に購入され、整備関係の書類がほとんど残されておらずかつ前乗組員による引継ぎもないまま、就航するにあたって同港の造船所に入渠し、主機の整備のほか両補機のピストン抜き及び吸・排気弁の摺り合わせ等の第一種中間検査工事を施行した。 A受審人は、就航後に機関長として乗船することになっていたので連日同工事に立ち会い、両補機のシリンダヘッドについては、来歴を確認しなかったものの、外観検査でも特に問題が発見されず、工事担当者からも大丈夫だと言われたうえ、検査官立会いのもとに施行した入念なカラーチェック及び水圧検査においても異状が認められなかったことから、竣工以来取り替えられていなかった同ヘッドをそのまま継続使用することにした。 同工事の完了後、八幡丸は、同年4月気仙沼港を発し、フランス共和国領ニューカレドニアのヌーメア港で外国人船員を乗り組ませたうえ、同港を補給基地として、ソロモン諸島周辺の海域で1航海が60日ばかりの操業を繰り返し、翌7年3月乗組員の休養のためにいったん気仙沼港に帰港したのち、再度同港を発して基地であるヌーメア港に戻ったが、その間、発電機は、容量の関係から、負荷の少ない時は1号機を、それ以外は2号機をそれぞれ単独運転とし、操業中は1、2号機を並列運転として使用しており、各補機の負荷は、1号機が定格出力の70パーセント2号機が同80パーセントを超えることはなかった。 A受審人は、機関長として、両補機については、各シリンダ出口冷却清水温度を70度前後に保ち、ほぼ3箇月毎に燃料噴射弁の整備及び冷却水防錆剤の濃度調整を行うとともに、毎日煙突の煙を見て燃焼状態を確認しながら運転管理に従事していたところ、両補機のシリンダヘッドが長期間熱応力を繰り返し受けながら使用されて材質が経年疲労し、いつしか1号機2番シリンダ排気通路の燃料噴射弁側隔壁及び2号機6番シリンダ触火面の排気弁間に微細な亀裂が発生する状況となっていたが、このことを知る由もなかった。 こうして、八幡丸は、A受審人ほか日本人船員11人及びインドネシア人船員8人が乗り組み、まぐろはえ縄漁の目的で、同年6月19日14時ごろヌーメア港を発し、ソロモン諸島周辺の海域に至って操業を繰り返しているうち、前示の亀裂が徐々に進行し、両発電機を並列運転として操業中、1号補機2番シリンダヘッド排気通路の亀裂が冷却水側に貫通して燃焼室に冷却水が漏洩し、翌7月18日08時00分1号補機が異音を発した。 機関室当直中のA受審人は、1号補機を停止してシリンダヘッドを開放した結果、2番シリンダのピストン上部に冷却水が滞留しているのを発見するとともに冷却水膨張タンクの水位が低下しているのを認めたので、同機の使用は不可能と判断し、その旨を船長に報告して会社にシリンダヘッドの手配を依頼した。 その後、八幡丸は、2号発電機を単独運転として操業を続け、シリンダヘッドが届いた旨の連絡を受けたので、漁場を発してヌーメア港に向かっていたところ、6番シリンダヘッド触火面の排気弁間の亀裂が冷却水側に貫通し、燃焼ガスが冷却水に混入したことにより同水圧力が低下してシリンダ出口集合管の冷却水温度が上昇し、翌8月5日09時50分南緯12度38分東経165度16分の地点において、同機の冷却水温度警報が作動した。 当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。 自室で休息中のA受審人は、漁撈長から連絡を受けて直ちに機関室に急行したところ、冷却水膨張タンクから清水が噴出して2号補機の冷却水温度が上昇しており、かつ冷却水圧力が低下して圧力計の針が振れているのを認めたので、清水タンクのドレン管にホースを繋いで清水を補給しながら同機の運転を続けたが6番シリンダの冷却水出口管が過熱し始めたので運転を断念し、救助の手配を依頼するとともに、主機及び冷凍機等を順次停止したのち同機を停止した。 八幡丸は、両補機のシリンダヘッドが損傷した結果、予備品を搭載していなかったので電源を喪失して主機の運転が不能となり、来援した僚船に曳航されてヌーメア港に入港し、手配したシリンダヘッドを入手したのち、同ヘッドを取り替えて補機の修理を行った。
(原因) 本件機関損傷は、補機2基のシリンダヘッドが検査で異状が認められずに継続使用されるうち、経年疲労で生じた同ヘッドの亀裂が運転中に進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |