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1999年(平成11年)

平成11年長審第21号
    件名
漁船第八十八大洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第八十八大洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機の全タービン羽根先端付近のノズルリンク側に損傷

    原因
主機排気集合管内部の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機排気集合管の内部点検が不十分で、同管内面の浸食と腐食が放置されていたことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月2日17時05分ごろ
長崎県五島列島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八力洋丸
総トン数 328.60トン
登録長 41.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
回転数 毎分500
3 事実の経過
第八十八大洋丸は、昭和53年3月に竣工した船尾船橋機関室型の鋼製漁船で、株式会社新潟鐵工所が同52年11月に製造した、6MG31EZ型と称する連続最大出力1,471キロワット同回転数毎分600のディーゼル機関に、燃料噴射量制限装置を取り付けて計画出力1,103キロワット同回転数毎分500の主機とし、基地を長崎県奈良尾漁港と定め、東シナ海北東部を主たる漁場とした大中型旋網漁業船団所属の運搬船として、1回の出漁期間を約25日として年間に11回出漁し、毎年、1箇月ばかりの間入渠して船体・機関の整備を行っていた。

ところで、主機は、A重油を燃料とし、船首側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、船尾端上部に動圧式の過給機と空気冷却器を、左舷側上部に吸気集合管を、右舷側上部に上下2段に分かれた排気集合管を配置し、上段の排気集合管には2番、3番及び6番の各シリンダヘッドから出た排気が、下段の排気集合管には1番、4番及び5番の各シリンダヘッドから出た排気がそれぞれ入って過給機に導かれるようになっていた。
また、両排気集合管は、いずれも各シリンダごとに分割された鋼板製で、シリンダヘッド接続部の管径が120ミリメートルあり、互いに伸縮継手で連結し合って過給機のタービン側ケーシングに接続し、外面全体を断熱材で覆ってあったが、竣工以来の使用により、内面の排気による浸食と腐食が進行し、特に4番シリンダ用の排気集合管において、4番シリンダヘッドから出た排気が直接衝突する右舷側内面が、船首尾線沿いに著しく荒損した状態となっていた。

一方、A受審人は、平成7年5月本船に一等機関士として乗り組み、同年12月からは機関長となり、毎年入渠時には、修理業者に依頼して主機シリンダヘッドの開放整備を行っていたものの、主機俳気集合管内部までは十分に点検しなかったので、4番シリンダ用同管の前示荒損に気付かないでこれを放置したまま、運航に従事していた。
こうして本船は、A受審人ほか7人が乗り組み、平成10年3月16日僚船とともに奈良尾漁港を出漁し、五島列島西方の漁場での操業にあたり、翌4月2日12時からA受審人が機関室当直に就き、主機の回転数を毎分約500として魚群探索中、4番シリンダ用排気集合管の右舷側に内面から外面に達する亀裂が入って排気が機関室に漏れ出し、主機の左舷側で機関日誌記入中の同人が異臭に気付いて調査したところ、同管からの排気漏れを発見し、同日17時05分ごろ北緯33度10.5分東経128度27.5分ばかりの地点において、主機を停止した。

当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、海上はかなり波があった。
A受審人は、4番シリンダ用の排気集合管を分解したところ、同管の右舷側面に長さ約15センチメートルの亀裂を認め、同管にトタン板を巻き付けたのち、主機を始動して操業を再開させ、翌3日水揚げのために佐賀県唐津港に入った際、修理業者に依頼して亀裂部に鉄板を溶接付けした。
その後本船は、引続き操業に従事し、同月7日定期検査を受けるために福岡県博多港に入り、主機各部を開放したところ、過給機の全タービン羽根先端付近のノズルリング側に、4番シリンダ用排気集合管の破片のかみ込みによると推定される損傷が発見され、後日、同管並びに過給機の全タービン羽根及び球軸受を新替えした。


(原因)
本件機関損傷は、定期的な主機シリンダヘッドの開放整備時において、主機排気集合管内部の点検が不十分で、同管内面の排気による著しい浸食と腐食が放置されていたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人が、定期的な主機シリンダヘッドの開放整備を行う際、主機排気集合管内部の点検を十分に行っていなかったことは本件発生の原因となる。しかし、同人の海技資格、主機シリンダヘッドの開放整備は修理業者に依頼して行っていたこと、同管内面の排気による浸食や腐食は、通常長い年月をかけて進行するうえ、その程度を的確に判断することは容易でないこと等に徴し、同人の所為は職務上の過失とするまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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