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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月7日07時00分 大分県佐賀関港沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船豊福丸 総トン数 4,197トン 全長 108.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
4,118キロワット 3 事実の経過 豊福丸は、平成元年5月に進水した、6層甲板の自動車専用船で、B&W7L35MCと呼称する過給機付ディーゼル機関を主機とし、蒸気発生装置として補助ボイラ及び排ガスエコノマイザを、蒸気復水装置として補助復水器を装備していた。 補助ボイラは、オルボルグ インダストリーズ株式会社が製造したCPDB−10型と呼称する常用圧力7.0キログラム毎平方センチメートル及び定格毎時蒸発量1,000キログラムの飽和蒸気を発生させる堅型丸ボイラで、肉厚8ミリメートル(以下「ミリ」という。)の胴板、肉厚18ミリの蒸発室上部平蓋板(以下「頂板」という。)、肉厚18ミリの底板、伝熱面を拡大するために鋼製ピンを外周面に多数取り付けた伝熱管1個を内蔵した外径267.4ミリ長さ1,365ミリ肉厚7.1ミリのボイラ・圧力容器用炭素鋼製の煙管3本及び燃焼室などで構成された全溶接構造で、ボイラ水と燃焼ガスの熱交換を行う3本の煙管は、蒸発室の中央部を縦方向に貫通して上端を頂板に下端を燃焼室上部にそれぞれ溶接付けされており、燃焼室前面には通常C重油を使用するオイルバーナノズル及び送風機などからなる燃焼装置が備えられ、燃焼ガスが燃焼室から煙管の中を通り煙室及び煙道を経て煙突から排出されるようになっていた。 補助ボイラの給水系統は、同ボイラで発生した蒸気が燃料油加熱器及び燃料油タンクなどの加熱に使用されたのち、蒸気の排気ドレンが補助復水器で海水により冷却されて復水し、検油タンクを経てカスケードタンクに送られ、補助ボイラ蒸発室の水位が設定された水位となるように自動発停する給水ポンプで、カスケードタンクから再び同ボイラに給水され、循環するようになっており、蒸気の外部漏洩などによりカスケードタンクの水位が低下した場合は、フロート式の自動給水弁により清水圧力タンクに畜圧された飲料水と同じ清水がカスケードタンクに補給されるようになっていた。 補助復水器は、昭和産業株式会杜が製造した大気圧式の横置円筒多管式熱交換器で外径16ミリの黄銅製冷却管114本からなる冷却面積7平方メートルの4折流冷却式で、補機冷却海水ポンプから供給される海水で蒸気の排気ドレンを復水するようになっていた。 ところで、ボイラのメーカーは、ボイラ水の塩化物の濃度が高いまま運転を続けると、ボイラ内にスケールの付着及び腐食が生じることからボイラ水の水質について、水素イオン濃度(以下「PH」という。)などのほかは塩化物イオン濃度の標準値を定め、水質試験器によって水質試験を行ったうえで、ボイラ水のブロー量及びブロー時期を設定して管理すること及び給水の溶存酸素が多いと、電気化学的腐食が促進されることから給水の水質について、PHなどの標準値を定め、給水温度を60度(摂氏、以下同じ。)として溶存酸素濃度を低い値に保って管理することなどを取扱説明書及び補助ボイラ仕様書に記載し、取扱者に対して周知を図っていた。 豊福丸の水質管理は、その時の当直者によって、2日ごとにPH値が計測され同値を約11に保つよう、清缶剤をカスケードタンクに投入し、給水温度を約40度に調整しており、リン酸イオン濃度とPアルカリ度が約1箇月ごとに計測されていたが、塩化物イオン濃度の計測は行われていなかった。 このため、豊福丸は、補助復水器に急激な温度変化が起こるかなどして冷却管の拡管部から漏洩した海水がボイラ水に混入し、いつしか煙管などにスケールが付着して熱伝導が不良となり、熱応力が発錆及びピッチングによる強度低下部分に応力集中して小さな亀裂を生じ、溶存酸素が多く電気化学的腐食が進行し易い環境の中で、この亀裂が更に進行することを繰り返すおそれのある状況となっていた。 B受審人は、就航時から一等機関士として乗り組み、平成3年機関長に昇格し、自ら機関当直に入る一方、機関部乗組員2人を指揮して主機及び補助ボイラなどの運転及び保守管理を行い、同ボイラの水質管理を機関部乗組員に行わせていたが、同9年5月の定期検査工事のとき、同ボイラ内部の点検でピッチングなどの異常が認められなかったこと及びこれまでボイラ水に海水が混入したことがなかったことから、塩化物イオン濃度の計測を行わなくても大丈夫と思い、塩化物によって補助ボイラ蒸発室などにスケールの付着及び腐食が生じて亀裂などが発生することのないよう、ボイラ水の同濃度の計測を行うよう機関部乗組員に指示することなく、ボイラ水への海水の混入に気付かないまま、同ボイラの運転を続けていた。 A受審人は、同年6月9日に一等機関士として乗船し、B受審人が休暇中のときのみ機関長職を執っていたが、B受審人の休暇下船にともない、同年7月10日後任機関長となり、自ら機関当直に入る一方、機関部乗組員2人を指揮して主機及び補助ボイラなどの運転及び保守管理を行っていた。 A受審人は、遠洋トロール漁船で塩化物イオン濃度の計測を行った経験があり、また、ボイラ水に海水が混入した経験もあったが、前任機関長から同濃度計測の指示がなかったことから内航船は同濃度計則を行わなくても大丈夫と思い、塩化物によって補助ボイラ蒸発室などにスケールの付着及び腐食が生じて亀裂などが発生することのないよう、前任機関長に同濃度の計測を行うよう進言することなく、ボイラ水への海水の混入に気付かないまま、同ボイラの運転を続けていた。 こうして、豊福丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、乗用車436台を積載し、船首4.10メートル船尾6.00メートルの喫水をもって、平成9年8月6日08時40分愛知県衣浦港を発し、大分港に向かって航走中、翌7日07時00分関埼灯台から真方位320度3.8海里の地点において、補助ボイラの頂板と煙管の溶接部の煙管周囲に生じていた亀裂が進行して貫通し、亀裂部から煙室側に蒸気が漏洩した。 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 補助ボイラ用煙突から蒸気が出ている旨の連絡を受けたA受審人は、大分港に入港後、補助ボイラの上部の点検蓋を開けて燃焼ガス側の点検を行い、頂板と煙管の溶接部の煙管周囲に亀裂を認め、補助復水器の冷却管3本の拡管部から海水の漏洩を発見した。 補助復水器は、漏洩管に盲栓を打って復旧されたが、補助ボイラの煙管は、仮修繕として亀裂部の溶接修理が行われ、のち入渠時に本修繕として煙管と補助復水器冷却管の換装が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、補助ボイラの運転及び保守管理を行うに当たり、同ボイラの水質管理が不十分で、ボイラ水への海水の混入に気付かないまま、同ボイラの運転が続けられたことによって発生したものである。 水質管理が十分でなかったのは、前任機関長がボイラ水の塩化物イオン濃度の計測を行うよう機関部乗組員に指示していなかったことと、後任機関長が一等機関士として、前任機関長に対して同濃度の計測を行うよう進言しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) B受審人は、補助ボイラの水質管理を機関部乗組員に行わせる場合、ボイラ水に海水が混入すると塩化物によって同ボイラ蒸発室などにスケールの付着と腐食を生じて亀裂などが発生するおそれがあったから、ボイラ水の塩化物イオン濃度の計測を行うよう機関部乗組員に指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまでボイラ水に海水が混入したことがなかったので大丈夫と思い、ボイラ水の同濃度の計測を行うよう機関部乗組員に指示しなかった職務上の過失により、ボイラ水への海水の混入に気付かないまま同ボイラの運転を続け、同ボイラ蒸発室などにスケールの付着と腐食の進行を招き、頂板と煙管の溶接部の煙管周囲に亀裂を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、補助ボイラの水質管理を行う場合、塩化物イオン濃度の計測を行った経験があり、また、ボイラ水に海水が混入した経験もあったから、前任機関長に同濃度の計測を行うよう進言すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前任機関長から同濃度計測の指示がなかったことから内航船は同濃度計測を行わなくても大丈夫と思い、前任機関長に同濃度の計測を行うよう進言しなかった職務上の過失により、ボイラ水への海水の混入に気付かないまま同ボイラの運転を続け、同ボイラに前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |